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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
13 夢魘
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「そろそろ次の嫌がらせをしよう」


 白スーツの男・木戸(きど)寛治(かんじ)が白い和装の少年・ミコトに言う。


「しかし、また寒河江ハヂメのようなのが出張ってくるかも。最近は、尋常維持局のれんじゅうも異態肉彦に接触したようですし」

「寒河江ハジメが所属してる組織か」


 木戸は嫌そうな顔をして、ムーンと唸った。


「では、どうにかしてそういう非常識なやつらからのコンタクトのないように彼をいじめたいね」

「そうですね」


 ふたりは倉庫に移った。


 倉庫には、愛星友がネットワークを拡げるついでに長い歴史のなかで確保してきた怪異が保管されている。


「なにがいいかなあ」

「寄生させる、というのはどうでしょう」

「それだと寒河江ハジメみたいなのの得意なところだろうしなあ……うーん、本人だけを確実にイジメられるところかあ。うーん」


 夢、なんていうのはどうだろう。


「夢、どうかね」

「夢ですか」

「本人だけが傷つくだろう」

「なるほど。至極明瞭な考え、感激します。先生」


 と、話がまとまる。


「じゃあそれ都合いい怪異確かいたからそれ使おうよ」

「あれどこしまいましたっけ」

「え、私わかんないよ。たしか八番とかじゃなかったっけ」

「八番はたしか現象系ですよ」

「あっれぇ?」

「機械で管理しましょうよ、やっぱり」

「あーっ、思い出した。十八番だ」

「十八番宮城にいそうしませんでしたっけ」

「終わった……」

「まぁ宮城ですので明後日くらいには間に合うと思いますよ」

「終わってないね、よしやろう」

「簡単なんだから」


 話がまとまる。



 ◆



 生真面目な男だった。


 社会的な常識はまもろう、法律は軽くとも違反しないようにしよう。


 自転車に乗る時はヘルメットをしよう。


 夏は水分補給をするようにしよう。


 課題を出し忘れている教師がいたら、指摘しよう。


 つねに時と場に合った声で挨拶をしよう。


 そう心がけ、そしてそれを実践しすぎていた男だった。


 生真面目な男は、嫌われていた。


 ガッツリと嫌われるのではなく、うっすらと「こいつキチィな」と思われるくらいのレベルで嫌われていた。


 同級生だけでなく、教師からも舐められていた。


 そんなことは自分でもわかっていた。


 しかし、間違ったことはやっていないつもりなどは当たり前だが、いっさい存在していない。


 どうして自分が嫌われなければならないのか。


 どうして自分ばかりが損をしなければならないのか。


 生真面目な男はいつか得をできる日が来ることを薄々「ないな」と分かりながらも、毎日の生き方を変えずに生き続けた。


 生真面目な彼を気に食わない者はいた。


 新沼朝飛というのもそのうちの一人だった。


 言わんでいいことを言う、空気を壊す。


 そんなやつの何処に好きになる要素があるのか。


 社会人になったとしてもあまり身内には置いておきたくないような人間、と言われたとすると、一番最初に思い浮かぶのがこの男である。


 嘆かわしい。


 平成二十五年、七月十九日。


 夏休みの前日、終業式の日ということもあって、午前で授業が終わるぞという際のこと。


 友達がいるわけでもないのでひとりトボトボと帰宅していると、突如ナンバープレートが雑に偽装された黒いバンが朝飛の真横にとまり、男が飛び出してきた。


 朝飛はすっかり男に捕らえられ、バンのなかに押し込まれた。


「助けて」と叫ぶ。


 そこに現れたのが彼だった。


 彼は閉じかけたドアに左腕を突っ込むと、男の胸ぐらを掴み、無理矢理腕を引き、がりがりと肉を抉るようにさせながら男を車窓に叩きつけた。


 それは突然のことだった。


「うわあああ」


 男の仲間たちは驚きながらクルマを走らせたが、既にバンのドアは空いてしまっている。


 彼は「速度違反です。シートベルトを締めて、未成年のいる車内で煙草を吸うのはマナー違反です。受動喫煙になりますよ」と言いながら、車窓から外を眺める。


 そして、庭先に広がったビニールプールが見えたところで朝飛を投げ飛ばし自分も飛び出す。


 彼はアスファルトの上を転がり頭から血を流しながら車に石を投げつけ、携帯電話でその様子を撮影。


 警察に通報した。


 パトカーが来る。


「随分と乱暴に車のなかに連れ込まれそうになっているもので、これはヤバいと思い干渉するに至りました。ナンバープレートがラミネートされた紙を貼り付けたものでしたので、それじゃあ逃さない為にと不躾ながら車に傷をつけました。これがその写真です。役に立つようでしたら役立ててください。すいません此処までのようです。さよつなら」


 血が止まらないのも構わないで言いたいことを言うと、スマホを警官に預けて気絶した。


 どうやらあと少し病院に運ばれるのが遅ければ死んでいた、というような出血の量だったらしく、彼は天井を見あげながら、「死んでなかったのか」と呟いた。


 見舞いにはたくさんの人が来た。


 その中には朝飛や、朝飛の母もやってきて、彼に対して感謝の言葉を伝えてくれた。


 彼はそれが嬉しかった。


 人の役に立てた、それが嬉しかった。


 朝飛とはこの事もあって、友人関係になった。


 生まれて初めての友達だったので、大切にしようと思った。


 とても楽しい夏が来た。

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