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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
12 苛烈・2
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 すぐに兄妹の祖母はやってきて、志津子の肉体が炎に転換されていくのを見るに、やはり良之助はこの祖母に怒り心頭に発しているのがわかる。


 彼は少女の細腕に手を触れさせて、力を抑えていく。


 祖母はおどおどとしながら、志津子から目を離さなかった。


 言う。


「それはばけも……」

「君だろう、この子を狙わせたのは」

「……………」


 しばらくの沈黙。


「この子の家のタンスの奥からこのようなものが見つかった」


 彼はそうして、自分の鞄から大きな茶封筒を出してみせた。


「探偵を使ったのだろうな、この封筒の中には君の動向を探っていたのだろう調査結果が入っていたよ。その他にもあの家には夫婦の遺した物語があった。よほどの無知・低能でなければ見逃すはずもないダイイングメッセージだよ」

「君は、何を言って」

「今は私が話しているだろう。君は人の話を妨げていいと自分の母親から教わったのか? よほど能のない母と見える」

「…………」


 傍から見ても、わかりやすく……怒っている。


「最悪なことに、兄妹には才能があった。兄は神になる才能……妹にはその神を受け入れる器的な才能。父親が遺したものには不自然なほどに愛星友に関するものがなかった。『妻がおかしくなってカルトに傾倒した』『娘をその犠牲にしようとしている』という状況であれば、ひとつやふたつそういう物が出てきてもいいだろうに、そうはならなかった」


 優心はふと、彼の足元を見た。


 何故か水たまりが出来ている。


「そもそもおかしいな。子を思わない母親が子の物をあそこまで綺麗に残しているのは。大抵は、粗末に扱うか、そもそもノータッチ。子供に管理を任せて、その結果子供は自分の持ち物を綺麗に保っておく方法がわからないから、大抵は汚れていく。あの家にそういったものはなかった。服がだ。あの母親は母親だった。一目見たときには分かっていた。けれど、確証がなかった。けれど、お前……君が現れた。菊池良之助くんが君に対して怒りを抱いていた。神になって、そのおかげで因果関係の始末はほどほどに、君が自分の味方ではないと分かったのだろう」

「さっきから、君、何言って……」


 彼は老婆の顔面をぽすんと叩いた。


「おッ……!? 尾島!?」

「今、私が話しているところだ。黙れるほどの知能がないなら縮こまっていなさい」


 足元の黒ずんだ水が渦を巻き始めている。


「お前だな、菊池志津子ちゃんを神にしようと言ったのは」

「…………」

「お前だな」

「ちがう……」

「お前だろ」

「いや……」

「おまえだ」

「だから」

「おまえだ」

「わたしは」

「おまえだ」

「わた──」

「おまえだ」

「だから! わたしは!」

「だまりなさい」

「わたしは……」

「おまえだ」

「わたしじゃない!」

「おまえだ」

「そもそも」

「おまえだ」

「だって……」

「おまえだ」

「自分の娘が神になれるのに、何で嫌がるのかな」

「そうか」


 黒い水に一度赤い閃光が走り、消えていく。


 怒りを抑えようとしている。


 そして、一度深い息をついてから、彼は言う。


「孫をイザマニクヒコにしようと躍起になっていたらしいが、残念なことにお前のような低脳無知に、それはできない」

「何を根拠にそんな事!!」


 ビカッという光の後に、ビカットマンが現れる。


「異態肉彦は、私だ」

「えっ」

「そして、この姿は正義のヒーロー、ビカットマン」

「子供じゃあるまい」

「子供だよ。十七の子供だ。貴様、お前は……お前は……それよりも下の子供を、いじめていたんだ。これがどういう事が分かるか。分からないからやっているんだろ」

「なにがヒーロー! あんたに生得怪異を殺されたんで、悲しんでる私の仲間がたくさんいた!」

「大して強くもないのに挑んできた君たちが悪い。そういう話をしているんじゃない」

「屁理屈はやめなさい!」

「ギャアギャアと騒ぎ立てるな鬱陶しい!」

「事実として私はその化け物に襲われたの!! 神にもなれず、何も得ず! 父親が死んで!! そうよ、私はそれの母親に息子を殺されたの! それなのに、それは無視で私だけを責めるのおかしいじゃない!」

「知るか!」

「なにぃ!?」

「私は! 守りたいと思ったものだけを守り! 潰したいと思ったものを潰す! 擁護は強くてしかも偏る! 貴様ら愛星友のれんじゅうはこれまでに何人の人の命をつぶしてきた! それを無視して自分の被害者性だけを主張することの愚かさは、チンパンジーに匹敵する!」

「愛星友がなければこの世界は滅んでいたわ!!」

「世界は貴様らが思っているほどいじけいて脆くはない! 四十五億九九九九万七九八七年の歴史はなまじじゃない」

「そういう楽観的な思考が人を愚かしくしているのを、何故わかんないの!」

「それは貴様らの勝手な妄想だ! わざわざ悲観的な視点で世界を見て! 貴様のようなのは、クズだ! 生きてはいけないクズだ! ここで死ね! クズ! クズ! クズ!」

「おちつけ」

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