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十一月二十一日、木曜日。
登校。
「おはよう」
「おっ、今日は来た」
「昨日は休んでしまって申し訳なかったね」
彼は朝飛に昨日の出来事を話した。
朝飛はその話を聞き、頷く。
「じゃあ、やれる事やり切ろうぜ」
「……! ああ」
彼は朝飛の言葉に勇気づけられて、大きく頷いた。
自分が誰かを救いたいと思うたびに、精神が消耗していくのを感じていたのだ。
しかし……朝飛といるとそういうのはなく、おそらく彼が心の底から彼の持つ善性を信じてくれているのが嬉しいからだろうと分かる。
彼は朝飛の目が好きなのだ……朝飛の、まっすぐ心を見つめてくるような、太陽のような目だった。
「なるほど、そうか」
「なに?」
「いや、なんでもないよ」
「なんでもないことはないだろ、人の顔を見て何か分かったような面してさ」
「なんでもないんだ、ほんとうに」
その日の放課後、いつもの三人で行方不明になっている志津子の兄・菊池良之助を捜索してみることにした。
朝飛の愛並媚で空から、優心の狐罰で陸から。
遺体でいいから見つかってほしい、できるなら生きていてほしい──という、消極的な願望は全員に共通する部分だったが、どこをどれだけ探しても見つからなかった。
尋常維持局の祓い屋のツテや、ISPOの捜査員の捜査で全国的に捜索をされたりもしたが、本格的な生得怪異を導入しての捜索が開始されてから数日が経つが、それでも菊池良之助は見つからない。
十一月二十六日、火曜日。
神性があるとよほどのカスでない限り生きるのは不便で、神性に慣れるために長期の入院が欠かせない──という理由で盛岡市城南総合病院に入院していた志津子が祖母との面会中、突如発火。
駆けつけた看護師による迅速な消火により被害は病室一部屋に収まったが、この発火──志津子の内部に潜む神の力の発露──により、神戯閃光児がその神の正体を感知。
「君の中にいるのは、君の兄だ」
精神を交代した神戯閃光児は、志津子にそう言った。
「どういう事だよ、閃光児」
「そのままの意味だ。彼女のお兄さんは神様になったんだ。現人神とか、そういうアバウトな神様じゃない。名実ともに神様の身体になったんだ。僕と尾島くんは融合して神性を肉体全体に適応させて、光になるけれど、彼女のお兄さんはそれを単体で行えてしまった。生きたまま神になったんだよ、こんな物は人類史上最高の天才である僕でも無理だ。彼女のお兄さんは僕を凌ぐ才能を持っていたんだ」
「しかし、何故そうなってしまったのか?」
「兄としての矜持かな。妹である菊池志津子ちゃんを守りたいと思うのは、菊池良之助くんにとってとても大事なことだったんだ。けれど、頼りになる父親は殺されてしまい、のこったのは暫定敵の母親と、何の力も持たない弱い妹だ。兄として、どうにかできるなら神にだってなる」
「ふむ……そうか……しかし、しかしなあ。どうにも納得のいく答えでないような気がするんだ。志津子ちゃん、君の中に声が響くことはないかい?」
志津子は困ったような顔をしながら「たまに」と言う。
「夜、怖くなって泣いていると、お兄ちゃんの声して……『大丈夫だよ』『怖くないよ』って、言うんです」
神戯閃光児は彼と精神を交代する。
「お兄ちゃん、優しいんです。あの、あの……」
彼の光のない目を怖がった志津子は、きっと目の前のこの男は自分のなかの兄を消してしまおうとしているのだと誤認した。
「君の中にいる君の兄・菊池良之助くんは、事実として病室を燃やしてしまった。病院にはたくさんの病気の人や怪我をして動けない人がいる。そんな病院が燃えてしまっては、死者が多く出る。そうすれば、私は君の兄を殺してしまわなければならない」
「やめて」
「けれど、妹を想う兄というのは……理解した。君の兄の性格だとか、そういう物は、ちゃんと認識した。君の兄がいつでも炎を出す事が出来る存在である事も、いままでそれをしてこなかった事も理解した。であるなら、いまここで考えるべきは、君の兄の処遇ではなく、『菊池良之助くんがなぜこのようなことをしてしまったか』であるというのは理解している」
菊池良之助という少年は、頑張ってしまうのだろうな……と細目で分析しながらも、彼は兄妹の祖母をこの場に呼ぶようにした。




