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パァン!
放たれた弾丸の……弾道をよみ、銃口を見つめながら、身体の表面にうっすらと光の粒子を滲ませた。
弾丸がビカン!という音とともに逸れて、地面に打ち当たる。
「空へ逃げる」
「了解」
朝飛が愛並媚を召喚し、空へ飛び上がると彼はこちらを見上げている男を見つめながら「危なかった」と言う。
「あいつなんなんだ」
「愛星友の差し金だろうが、何か異様な雰囲気があった」
「しかし、どうする!?」
市街地から離れ、廃屋のうえに差し掛かったところで、愛並媚の翼に弾丸が刺さった。
「ギィ!!」
「落ちる!」
「まずいな」
「僕が」
「いや」
「えっ」
廃屋に落ちる。
「私の問題は私で片付けるさ」
彼は庇うようにして抱いていた朝飛と空明を離し、立ち上がる。
「どうやら奴の狙いは私らしい。私から離れれば君たちは無事だろう。野村智和さんを呼びなさい。愛星友対策本部のれんじゅうも来てくれるだろうから、保護してもらいなさい」
「しかし、ひとりで大丈夫か!?」
「死ぬことはないだろう」
「……信じるぞ……!」
「ありがとう」
弾丸が薄い木の壁を突き破り、彼の右手を突いた。
朝飛と空明の二人が廃屋から飛び出すと、オートバイクにまたがったあの男がいた。
一度二人を見て、視線を廃屋に戻す。
「出てこい、異態肉彦。殺してやる」
「言われなくても出ていくさ」
『変わろうか?』
『出来んことを言うな』
『しかし……』
『おとなしくしていなさい』
彼は懐からイグナイターを取り出し、展開させた。
ビカン!
眩い光が溢れ出し、廃屋から赤いビカットマンが現れる。
男は拳銃を構え、ビカットマンの眉間を狙い弾丸を放った。
ビカットマンはその弾丸を身を捩り躱しつつ、火球を作り出すと拳銃を持つ左腕を狙い放った。
男は大きく息をしながら、その火球を浴び、しかしいっさい怯むことなくまた発砲する。
男はオートバイクを降りると、ビカットマンとの距離を詰め始める。
『拳銃使いだろ! 遠距離選手がターゲットとの距離をいたずらに詰めてどうするつもりなんだろう……?』
『距離などとってもどうせすぐに詰められるということを加味しての接近だろうね。奇襲を許すくらいなら瞬間的な移動を必要としない近距離での戦闘に持ち込むくらいはするだろうさ』
しかし……。
この男はまるで不気味だ。
「君は、いったい何者だ」
「…………」
「君は一体なんだって、そんなはじきなんて持ってるんだ。いまの日本に拳銃なんて流れているのはおかしい」
「そんな事は些細な問題だ。……貴様が生きていることのほうが問題なのだ。我々は貴様の生命を看過しない」
「愛星友か」
「なぜそうなる」
発砲。
しかし銃口は木の幹に向いていた。
放たれた弾丸は木の幹に吸い込まれていき、廃屋の壁から出てきて、ビカットマンの脇腹を刺した。
「な……に……!?」
「固有霊術〈環綻〉。詳細は、教えない」
「…………やっかいな、術を持っているらしい……」
なんだかよくわからないが、攻撃があらぬ方向からとんてくるのが恐ろしいだけか……!?
しかし。
ううむ。
わからない。
ビカットマンは青になると、木々を操り、男を狙うが、男はそれを軽々と躱してみせた。
「はぁ……はぁ……当たらない……」
『こちらの攻撃も木々の動きも全て読まれているみたいだ』
『対するこちらは……奴の攻撃が何処から来るかわからない』
今度はビカットマンに向けて発砲された。
ビカットマンは光の粒子を纏い、一度目の発砲と同じように弾丸を逸らし、弾丸は見事に地面に当たったが──、当たったそれは先ほどと同じように地面に吸い込まれていき、ビカットマンの頭上にあった木の幹から飛び出してきた。
弾丸が肩を貫いた。
「ウウ!」
肩をおさえて転がるビカットマンの様子を見つめて、「戦闘能力がない。戦闘経験が浅いのか?」と男は思いふける。
そして、何かを考えた後に……。
「貴様、異態肉彦だろう」
「うう、うううう……」
「答えろ。異態肉彦か、どうなのか」
「そ、うだ……ぼくは異態肉彦だ……」
「生年月日は」
「平成八年十一月三日……文化の日……」
「その光になる力は、ずっと持っていたものか」
「な、にを……! 今年になって手に入れたものだ! 七月の……暮れか、八月の頭にだ!」
「ふむ……そうか。……君以外に、異態肉彦はいるか」
「いない、はずだ……いないはずだ。愛星友の資料を見たことがあるが、そこに載る『異態肉彦』は私だけだった」
「ふむ。そうか」
男は銃を懐にしまい込み、転がるビカットマンのほうに近寄っていく。
「どうやら俺は撃つべき相手を誤ったらしい」
身体の傷が癒えていく。
そこで集中が切れたのか、ビカットマンの変身が解け、彼の身体の中で神戯閃光児が「治癒霊術だ」と小さく叫んだ。
『この男、祓い屋だ! それもただの祓い屋じゃない、おそらく、それなりに上位の神か仏に仕えている奴だ』
「俺は飛騨峰志郎という。すまなかったなァ。異態肉彦というのは一人きりだとばかり思っていた」
「そうじゃ、ないのか」
「どうやら違うらしい。続きは警察署で話そう」




