↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビカットマン  作者: 蟹谷梅児
9 土塊
37/103

37

 ビカットマンは飛んできた粘液を躱した。


 粘液がかかった地面のレンガが溶けているのを見るに、強烈な酸性なのだろう、ということがわかる。


『当たったらひとたまりもないよ、気をつけて』


「らしいな」


 大蜘蛛はその図体に見合わず猛烈に俊敏だった。


 酸性粘液でこちらを牽制し、素早いダッシュで移動しながら、尻から発射する糸をあちらこちらに絡みつかせて、ビカットマンの逃げ場をふさいでくる。


 ビカットマンは光になり逃げようかと思うが、思うようにいかない。


「前はできたのに……なぜ……!?」


『わかったぞ! 形態……いわば、タイプチェンジによる弊害だ。最初のビカットマンは今のような赤だったな。赤のビカットマンは、炎だ。炎は光に似ているから』


「君は何を言っているんだ……火はそもそも……」


『問題は青のビカットマンだったんだ! 光エネルギーを木を操る能力に転用し始めたせいで〝光になる〟っていう解釈がぼやけてしまったんだ! 無理やり説明すると……君はもう一度光に至らなければならない!』


 じゃあなれば良いんでないか、と初めて青になった時の感覚で新たな姿を思い浮かべる。光といえば黄色か白だけれど。


 なれ、なれ、なれ、なれ、なれ、なれ。


「危ない!!」

「!」


 酸性粘液が飛んできた。


 一瞬の放心──そして、色が変わる。


 赤が黄に変わり、地面が壁のように盛り上がった。


「な……なんで!?」


『光じゃない!! たぶんこれは……〝土〟だ!!』


「つ、ち……」


 そもそも、このタイプチェンジが五行思想に基づくものだとしたら、そもそも……五行思想に「光」がないのではないか?


「いや……ちがうな……フフフ。フフフッフフッフヒヒヒ。ヒヒヒ。ンヒヒヒ。ヒキッヒヒヒ。土って、光だろ!」


『何を言っているんだ……?』


「光れ……光れ……光れ……光る! 火はロウソクとかで光源になるから光だ! いいか、木は……というより、植物は光合成をする! だから光だ! 土は太陽の光とかであったかいから光だ! 解釈だよ、〝光になる〟という解釈がぼやけたのならばもう一度再解釈してしまえばいい! そもそも、いいかい閃光児(ライトガイ)! ビカットマンだって君が私の記憶から、猪地光輝くんが考えた光の戦士ビカットマンを自己解釈して再現したものじゃないか! 戦えちゃうな! なぜなら私はビカットマン!」


 大蜘蛛がたじろぐ。


「ビカ〜ッと光って現る戦士♪ 正義のパンチが闇殺し♪ 正義の味方の更なる味方♪ 光を宿した仮面の戦士♪」

「な、ん、だ、きさま……!!」

「ビカットマン」


 しかしそう上手くはいかない。


 光になることはできない。


 しかし、身体に光が溜まる……どうやら再解釈のおかげである程度ビカットマンとしての肉体が定まったらしい。


「し、ね……! ビカットマン!!」


 蜘蛛の糸で逃げ場を絶ち、酸性粘液で足場を削っていき、大蜘蛛の突進がビカットマンにぶつかる。


 ビカットマンはトラックに撥ねられたように吹っ飛びつつ、青のビカットマンに変わり、園内の木を操り、自分に巻きつける。


「全能になったつもりか……? この私がか……?」


 ビカットマンは呟きながら仮面の下で笑う。


「大蜘蛛! 今の私は機嫌が悪いぞ! 貴様! 君は! 人々を脅かしたな!! 此処には人が多くいた! 多くいる!! 何ヶ月ぶりの休みか!? 何週間ぶりの休みか!? 普段は子とろくに一緒にいられないような親だって此処にいるだろうし、友人とようやく遊びに来た学生や、そうでなくとも、今日という日を楽しんでいた人たちは大勢いた! その思い出を穢したな! 許さんッ!!」


 大蜘蛛は「許さなかったら何か!!」と叫ぶ。


「やるのさ」


 地面から土壁が盛り上がっていき……蛇のようにうねりながら横向きの筒のようになっていき……それには木が巻き込んであった。


 超スピードで処刑場が構築されていく。


 青と黄を素早く切り替え 、処刑場が構築されていく。


 大蜘蛛が伸びた木に捕らえられ、逃げられない。


「何をするんだ……ビカットマン……?」


 着地したビカットマンに、朝飛が訊ねる。


「巻き込まれんようにな、新沼朝飛くん」

「ん……わ、わかったけど……」


 距離をつけて、走り出した。


 一歩……一歩……一歩……一歩……また、また一歩といううちに、彼の左脚部に光が集まり、蓄積されていく。


 彼の黄色の複眼が一段と輝いた途端、ビカットマンは飛び上がり……蹴撃一閃が大蜘蛛を貫く。


 ザザッ……と地面を転がり、大蜘蛛に穴が開いたのを確認すると、物陰に隠れて変身を解除した。


「やあ」

「おわっ」


 そして、人陰から現れる。


「頭が痛いのも多少は楽になった」

「大丈夫かよ。っていうか、大丈夫なのかよ、大勢に見られたぞ」

「ああそれは……神戯閃光児が『僕に任せろ』と言っている」

「どうするつもりなんだろう?」

「とりあえず、今見たことを忘れたくない人は挙手を」


 新沼家の全員が手を挙げる。


「加賀美優心くん! サングラスを貰おう」

「テンションたけぇよ」


 優心は懐からサングラスをいくつか取り出し、かける。


「加賀美くんいつもこんなん持ち歩いてんの?」

「ミスターアホと出歩くときはね」

「それでどうするんだ?」

「神戯閃光児のやることを見守ろう」


 彼の身体から神々しさを持つ神戯閃光児が飛び出すと、一段とつよい輝きを放った。


 その光は、遊園地の全体に生き渡るような光だった。


「少しばかり頭をおかしくさせて、今日の出来事を都合よく改変させてもらったよ。こういう事をすると疲れるから、一週間くらい僕の力では変身できなくなると思う」

「ふむ……どうにかなるかもしれないな。君の特別な能力は、まさしく神様のような所業だが……神は人にも作れる」

「君は機会を作るのが得意だものな。ねぇ、尾島くん、我慢できないよ。もうそろそろ入れて」

「来なさい」


 言いたいことは山ほどあった。


 が、それより先に出てきた言葉は。


「尾島くん、あれはいったいどうなるんだろうね」


 朝飛の母が言いながら指を差した先には彼のキックで壊れた土製の横筒がある。


「おっ……あっ……ん〜……そのままはまずいしな……」


 あのどでかい土塊どうしよう。


「とりあえず恐竜にやらせればぁ? お前疲れたべ」

「それもそうだ。神戯閃光児、彼らはいつ正常に戻るだろう?」

「五分後ほどに」

「よし、急いで片付けよう」


 召喚霊術。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。