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走り去っていった彼を追って、禿頭もまた去っていった。
しかし、それだけでは済まない。
もうひとりいた。
「目をつけられてるな、俺たち。尾田、逃げられるか? 足に自信は?」
「ああ、はい。あります」
「逃げるぞ!」
「わかりました」
迎え撃ったほうがはやそうだなあ、と思いつつ空明は優心と朝飛を抱き上げて、フェンスを飛び越えた。
「佐々木さんたちは、マンガ・アニメ研究部のいる教室に行っていて。あそこは特別だから」
「えっ……えっ!?」
「大丈夫だよ。うん」
もう一人の禿頭も同じようにフェンスを飛び越え、追ってくる。
「お、お前何者だ」
優心が言う。
「尾島先輩は、どうやら何か理由を知っているらしいですね。こういう、怪事件の。……で、あれば……あなたがたもその関係者と見ていいか。僕は尾田空明という名前でありますが、それは、僕を拾ってくださった人がつけてくれた名前です。本当の名前は、異態骨曇」
「い、ざま……」
尾島青空──異態肉彦の血縁者。
「異態が何かご存知で?」
「あいつも……尾島青空も異態だよ」
「えっ?」
路上駐車の原動機付自転車に直撃。
「前見て走れ! 召喚霊術──」
朝飛は愛並媚を召還し、空に浮かび上がる。
禿頭はそれを見上げ、ニタニタとした笑顔のまま「逃さないからなあ!」と叫んでみせた。
「真っ昼間に大声出すやつがあるかバーカ!!」
「大丈夫か?」
「は、はい……し、しかし驚いたな……尾島先輩は、どうしてそれを黙っていたんですか」
「知らないんじゃないのか? 資料にお前のことなんか書いてなかったし」
「資料、ですか?」
「ああ」
愛星友の基地に行って資料を持ち帰ったという話をする。
その資料の中身も。
「えっ。じゃ、じゃあ……もしかして、まだ二人いるんですか」
「だろうけれど……今はそれより……」
目の前に禿頭が現れた。
どうやら二十メートル以上離れているところを、跳躍したらしい。
そんな事が可能なのか──と考え、やめる。
兄弟の跳躍力を考えると、そういうもんなんだろう、と。
カルトジャンプ力とでも言うべきか。
「こういうれんじゅうがいれば、いつだって人が不幸になるんです。先輩方、どうかお目を瞑って──……行くぞ、経立」
空明はそう言い、彼は外向きのカエルを両手で作り召喚霊術を行う。
すると、空明の背中から魚のような怪異が現れ、その怪異は透明な美しい水を伴い大きな円を描き、空明の胸に飛び込む。
召喚霊術──アカントステガ。
そして、その発展。
「変身」
禿頭は突如溺れるような感覚を抱き、視界はぐんと落ちる。
「僕の相棒・経立は三億六五〇〇万年生きたアカントステガが妖怪・経立になったもので……僕はこいつの力を借りる事で神に等しい姿になれる」
茶褐色の強化皮膚、青い腕部・脚部・胸部の生体装甲、青い複眼。
ビカットマンによく似た形の、まったく別の戦士。
「マジかよ」
禿頭はニタニタと笑いながら、札を取り出し、蛇を召喚した。
青の戦士はその蛇を殴り潰し、禿頭の頭を掴み上げる。
「こいつどうします」
「殺すのは無しだよ」
「何故。こいつは人を殺しても平気という悪人だ。殺したほうが世のため人のためになる。殺してはいけない理由がない」
その言葉を聞き、優心は「あいつの弟だ」と思ったが、それと同時に「あいつの血縁とは思えない」とも思った。
朝飛は人目につかないところで愛並媚をおろして友人の懐からロープを出すと、電柱に禿頭を縛りつけ、智和に電話をしてとっとと捕まえるように、とした。
「甘いですよ」
「お前が人を殺したら、悲しむ奴がいるんだよ」
「誰です」
「あのバカだろ」




