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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
7 木箱・1
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 その後、優心も引き連れて他所様のクラスを見て回った。


 マンガ・アニメ研究部の教室ではジオラマが展示されていて、朝飛と優心がそれに食いつく。


 神戯閃光児も彼の中で「かっこういいなぁ!」と大興奮。


「ほう、ふむふむ。なるほど、君たちは自分で漫画を描いたりもするわけだ」

「どうだ、すごいだろう」


 部長・榎田(えのきだ)久作(きゅうさく)がどんと胸を張る。


「ちなみに、マンガ・アニメ研究部と銘打っているが、実際のところ小説も出している。これは顧問にも内緒なんだ」

「まるで違法取引じゃないか」

「なにか読みたいものはあるか?」

「私は平和的なふわふわした物語が好きだ」

「ワンちゃんとか?」

「うん。ネコちゃんとかも好きさ」


 そこに、軽食を買ってきたらしい一年生がやってくる。


「あっ、尾田(おだ)くん! 遅かったじゃないか!」

「すいません、廊下やたらめったら混んでて……お客さんですか?」

「どうも、私は二年の尾島青空と言います。君は一年だね」

「あっ、はい! 尾形(おがた)空明(くうめい)って言います」

「空明か。空明というのは、水面に映る月を指す。君のその綺麗な瞳に似合っていて良い名前だ」

「あっ、ありがとうございます。ショークっていうのも、なんだか外国人みたいでかっこいいです。マヤ文明のヤシュ・エーブ・ショークっていう王様がいたんてすけど、それ思い出しました」


 ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃと。


 話し合った。


 結果、空明は青空という男に懐いた。


 なんだか話のリズムと言うか、そういうものが合う。


『この先輩、なんだか一緒にいて落ち着くなぁ』


「んー、楽しかった。お前ら毎年これやれよ」

「やってんだよ」

「尾島〜、次行こうぜ」

「君たちは私を振り回したがるね。構わないが」


 きゅるるん、とした空明の目を見た。


「……君もついて来るかい?」

「えっ」

「一緒に回ろう。人は多いほうが楽しい。君たちも構わないな?」


 朝飛と優心は肩をすくめて返事をして、マンガ・アニメ研究部のれんじゅうも「つれてけ」と了承。


「では行こう」


 肩に触れた。


 次の瞬間、二人の脳天に電撃が走る。


「!」


 二人同時に目を見合わせて、「なんだったんだろう、いまの」と頭を抑えて、取り繕いながら教室をあとにした。


 久作は空明が買ってきた焼きそばを食いながら「あのふたり顔立ち似てるよね」と部員に語りかけた。


「そうかなあ」

「似てる似てる。私も思ってた」

「目元とか鼻筋とか、なんか似てるよね」

「ねー。親戚とかなのかな」

「でも尾島って親戚いないとかって話じゃなかったっけ」

「マジ?」

「うん。だからいま加賀美の家に住んでるらしい」

「あんな事あってよく……」


 空明を新たに加えた四人はワチャワチャしながら体育館のほうに向かってみることにした。


「うわあ、人多いなあ」

「こんな人多いことあるか?」

「入れそうにないな」


 鉄扉横でケータイで時間を見て、「今が一番盛り上がる頃だらうしな」と言う。


「ほかのところいきます?」

「去年どんなんでした?」

「去年どんなんだった?」

「去年どんなんだった?」

「なんで君らは去年を知らないんだ? 去年はあれだな、吹奏楽部が恰好よかった」

「去年俺風邪はいたから」

「俺も」

「今年は風邪引かなかったんだな」


 来年はギリ風邪引くかも、と。


「年一の行事だから、真面目にさ……」

「ははは……ん?」


 空明が何かを見つける。


「先輩、なんかありますよ」

「ん?」


 それは木箱のようだった。


「ここに置いておいたって感じじゃなさそうですよ」

「なんだろう? しばらく待って誰も取りに来なさそうだったら笹浦(ささうら)先生に渡しに行こう」


 そうしていると、佐々木美穂が友人数人と歩いてやってきた。


「尾島先輩! デカいから分かりやすいですね」

「こんにちは、佐々木美穂さん。ご友人方も」

「どうしたんですか? 中に入らないの?」

「入れんのだよ、やべーってマジで」

「それに落とし物」

「あっ、それ落とした人知ってますよ! なんか、上下白いスーツを着た男の人です。結構背丈があって……尾島先輩くらいあったと思います」

「ふむ……上下白……」

「はい。どうしました?」


 何かに気づいてしまう。


『神戯閃光児、あれをどう思うか?』

『あれっていうのは?』

『あの木箱だ』

『…………』


 神戯閃光児はしばらく間を空けてから「どうしてあんなものがここにあるんだ」と言った。


『やばい代物かい?』

『やばいどころか! あれは異理箱(ことりばこ)と言って、その名の通り、この世とは違う世の理で存在している呪物だよ。呪術的な施しにより、触れた者の一番得意な霊術を極限まで高める霊能異理(れいのうことり)を発生させることができる物だ。霊能異理というのは、つまり、めちゃくちゃすごい必殺技だけど……』

『いいものと見ていいな?』

『そんなまさか。あれは、存在しているだけで人体に有害なんだ。人間なんて、弱い順から死んでいくよ。まずは子供、次に女性。そしてその他の人間。最後に君だ。まだここに置かれて浅いんだね、まだ誰にも影響は出ていないけれど……母校で人死にを出したくなければこれを今すぐここから持ち出さないと!』

『了解した』


「佐々木美穂さん、それにご友人方も、これには触れるなよ。どうやら私の案件だ。恐るべき悪趣味だよ」


 彼はホワイトシャツを脱ぎ、木箱を拾い上げて包み込む。


 ここから持ち出さなければならないわけだが……。


「……ん? 尾島先輩、何か近づいてきますよ」


 空明が言う。


 彼の指さす方を見れば、ニタニタと笑う男がいる。


 禿頭ながら、頭のてっぺんには「愛星友」の紋章である「満面の笑みを浮かべる鬼」が入れ墨されている。


「まずいな……」


『僕は異理箱をおさえるのに必死なので、変身ができない。学校から出て!』


「ほんとうにまずいな……」


 彼は地面を蹴り、フェンスを飛び越えた。

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