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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
7 木箱・1
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 最近なにかとあいつのことばかり考えてしまう。


 人生に急に現れた……というわけではなく、いつもいたような気がするけれど……いきなり主張を始めた彼。


 朝飛からすると、彼はただの友人だった。


 相性が良いだとか、そういう事は実感がない。


 少し前までは嫌いな奴だったわけだし。


 それでも、最近になって彼を知っていくと……なんだか、少し不思議な気持ちになってしまうようになった。


 おそらく憐れみのようなものである。


 この現代社会で、ああいう性格に生まれてしまったのは、彼の不幸なような気がするし……そうでなくても、彼の生まれは不幸すぎる。


 彼自身、そういう自分の不幸を嫌って行方をくらませた事もある。


 あの時、彼は一体どのようなことを思っていたのだろう。


 そういう事を考えてしまうようになった。


 …………。


 尾島青空。


 この名前を、彼は「自分のものではないみたいだから」という理由で嫌って、人にはそう呼ばせないようにしていた。


 そのせいか、朝飛の周りで彼はミスターと呼ばれていた。


 ミスタースマイルヘタクソだとか、ミスターロボットだとかをまとめてミスターというのだそうだ。


 地区の夏祭りで子どもたちがつけたあだ名が浸透した。


 今日は十月四日。


 文化祭である。


 朝飛と彼のクラスはカフェになった。


「いきなり帰ってきたもんだから尾島の仕事特にねぇよ」

「お前抜きで考えちゃったから」

「じゃあ教卓のうえで艶めかしく踊ろうか」

「それもうカフェじゃなくなるからさあ〜」

「ハハ。それもそうだ。ギターはあるか? 弾いてやろう」

「弾けんの?」

「人ができる大抵のことはできる」

「こわ」


 彼がギターを弾き始めると、人が集まり始めた。


 顔が良くて背丈もあるから、楽器を持つとよく映えるようで、他校の女子だとか、来年ここに来ようかという女子中学生なんかが「かだこよくない?」と言い合っているのを朝飛は聞いた。


 そりゃあ格好いいでしょうよ、と思う。


「これで集客はオーケーかな。どうかな?」

「すごい数の客が集まってきている!」

「そいつは上々。動いて構わないか?」

「いいよ。ありがとうね、尾島」

「あいよ。新沼朝飛、加賀美優心のところへ行ってみよう」

「俺も?」

「いけないか?」

「いけなくないけどさ。……まぁいいか」


 ふたりは優心の無様な姿をおがみに彼のいるクラスへと向かってみると、なにやら女装しているらしい。


「そういうの君の役割だと思うがね」

「なんだとテメェこの野郎」

「しかし彼がおなごの恰好とは想像つかない。早く行こう」

「ワクワクしてんじゃないよ、性悪だなぁ」


 段ボール紙で作った包丁を持たされた少々ホラーチックなメイドの衣装を身にまとった優心がそこにいた。


「性格が悪いぞ、加賀美優心」

「俺に言うなよ」


 どうやら彼のクラスは頭のネジが一人分足りないらしく、優心が起こした流血沙汰を茶化してやろうという考えらしい。


「やべ! 当事者来たぞ!」という声が少し離れたところから聞こえた。


「君のクラスも飲食の提供か」

「お前らの所もだっけ」

「そうだよ、来るかい?」

「どのツラさげていくんだよ」

「そのツラでしょ。いい面の皮持ってんじゃん」

「なんで俺いじめられてんの?」

「お前、それ相応のことはしたし……」


 言い返せない。


「しかし……包丁はお預かりだな」

「おい俺これ取られたらただの血まみれメイドだよ」

「ハハ。それもいいね」

「よくねぇんだわ!!」


「なんか注文しようぜ」「モエモエキュンとかやれよお前」「かわいいぜ加賀美優心」「おい、ミスター。こいつかわいいだろ」「おいメイド! ちゃんとやれや!」……と、朝飛はイキり散らかす。


「君も大概だな……」

「俺って可愛いか?」

「端的に言って地獄だね。まったく似合っていない。もし君が本気で気に入ってその格好をしていたとすると、君の祖母は泣くだろうね。おや、加賀美優心。ここはオムライスなんて凝ったの出してるのかい。良いね、これをおくれ」

「いまのとのろお前が一番カスだよ」

「しかし素人が安易におたくのコンテンツに手を出して、こういうくだんないことをするのは宜しい事なのだろうか。君たち秋葉原に面は通したかい? 概念的なおたくコンテンツとしてもアバウトではないか?」

「お前きっしょいなあ」


 そこに、優心のクラスメイト登場。


「ミスター当事者くんだ。オムライス名前書けるけどどうする?」

「ふむ。ふたりいるが。ひとりだった場合、『尾島青空♡』になるのだろうけれど、ふたりの場合はどうなるのだろう。そこが気になってしまう。頭が震える」

「ひとつのオムライスにふたり分フルネームで書けよ〜加賀美〜」

「お前はなんで俺をいじめたいんだよ」

「それ相応のことはしただろ」

「そろそろ彼をいじめるのはやめよう。いじめた奴はいじめていい、というのは危険だ。『ざまあ』を楽しめるのは根暗だけだよ」

「お前もかなりあれだけど一理はあるな」


 青空♡朝飛


 オムライスの文字。


「よく漢字で書き切ったな」

「男の意地だ、この野郎」

「ふーむ。新婚さんみたいだ」

「新婚さんってこういう事すんの?」

「お前らふたり揃ってバカだから結婚とかしたらこういう事平気でしてそう。気持ちわりぃクソカップル」

「ここぞとばかりに」

「相性最高なんだもんな、お前ら」

「早く食わないと冷めてしまう。ちなみに私は母の鶏のあんかけが好物で、食卓にそれが並んでいるととても喜んでいたというのを思い出した。加賀美優心、君の祖母も作ってくれるがやはり母の味とは違うね。しかし、君の祖母の味も好きだ。しかし、君の祖母は唐揚げを作るのがプロ級だから、君の祖母の料理に限って言えば唐揚げのほうが好きだ」

「食えって、はやく」

「もちろん、唐揚げだけがうまいというわけではないよ。君の祖母のつくる煮物なんかは絶品なんだ。カボチャの物があったろう、あれは甘くておいしかった。サバ味噌なんかもよかった。あれは米によく合うだろうから、今思い出しても腹が減ってしまう。しかし彼女にばかり炊事をさせるのは悪いから、帰ったら私は飯の手伝いをしたいと思う。将来的には彼女の味を引き継げたらいいなとも思っているんだが、君はどう思うだろう?」

「止まんねぇなお前」

「彼こんなんだった? もっと静かな人だと思ってた」

「ちょっとおかしくなっちゃって……」

「あー……」

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