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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
6 気丈
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「──いやあ、すまないなあ。しばらく自分探しの為に土に埋まってた」


 数日空けて帰宅。


 今日は「あのバカさん心配だねえ」「あのアホちゃんと飯食ってるかな」「あのウンコマン大丈夫かなぁ」と……優心、朝飛、優心の祖母の三人で言い合っていたところだった。


「つ、土臭い……」

「自分は見つかったか?」

「ハハ。見つかったよ。私の生き方というものはだいたいわかった。私はこの世に生まれてしまった。そのせいで多くの人々を不幸にしてしまう。愛星友に誘拐されかけた新沼朝飛、君がそれを特に理解しているはずだ」

「でもアレお前が助けてくれたろ」

「私は……人間の営みを守りたい。人間が人間らしく普通に生まれて死ぬのを守りたい。私は守護者になる。人間の営みに干渉しない」


 ダメな方に行きかけている──と優心は細目で感知。


「オラッ!!」


 流石に放っておけないので、股間に蹴りを入れた。


「私が女の子になってしまったらどうするのか」

「どうせならねぇんだろ。お前……ダメだろそれは。学生なんだから。ほら、いつもの口癖はどうした?」

「おかわり」

「それじゃない。学生の本分は学業だろ。学習してねえのかよ。そろそろ文化祭始まるんだぞ。お前不参加キメるつもりか?」

「いけないだろうか。私は君たちの世界に干渉したくない」

「なんで?」

「私は異態肉彦である」

「尾島青空だろ」

「それは、私の名前ではない」

「お前の名前だよ。むしろ異態肉彦がお前の名前じゃねぇよ。ふざけるなよお前、しまいにゃ怒るぞ。お前は尾島青空として生きろ。ほんとうにお前ひとりにするとダメだな……新沼! お前こいつちゃんと監視しとけよ。俺もするけど」

「君たちには生活がある」


 金的。


「お前にもある」

「私にはない」

「ある」

「ない」

「ありますね」

「ない」

「ある。お前は尾島青空だ。平成八年十一月三日うまれ、毎日米を五杯は食うし、早寝早起き。尾島青空としての生活を残しておきながら異態肉彦になろうとするのは傲慢だと思う。というか、そうなるのは、愛星友がチョーシこくからだめだろ」


 愛星友がチョーシこくからだめだろ、と言われて気がついた。


「では、私はどうするのが正解なんだ」

「会話ができない……?」

「尾島青空として生きて、たまにビカットマン。お前……俺に偉そうに言えるほど強くないな。偉くもなんともないな。偉くないのに神様ってのも如何わしい。恥を知れ、恥を」


 彼は、天井を見上げた。


「それはいけない気がする」

「いけなくない。本当にしばき殺すぞお前」

「君に私は殺せんよ」

「あっ、おばあちゃん、野村さんに電話。うんこ帰ってきたって」

「はいはい」


 そうしてから、朝飛が言った。


「俺からもひとついい?」

「なんだろう?」

「俺、お前があの基地から持ち帰った資料読んだんだけどさ。なんというか、お前勝手に担ぎ上げられただけで……特になんもしてないんだし別に罪の意識とかおぼえなくてもいいと思ってんすがね」

「それは理屈がおかしい。あのれんじゅうは、俺が生まれてしまったせいでチョーシこいて人を殺しはじめた。生贄自体は君がはじめてなのだろうが、それ以前にもなにか汚いことをしているに違いない。『どうしてそうなったか』をたどると、やはり私の誕生が影響している。ゆえに、私が悪いんだよ」

「その理屈こそおかしいだろ。何神様気取ってんだよ」

「神様だ」

「神様じゃねぇだろテメェこの野郎」


 キレた。


 割と本気で不愉快だったらしい。


 最近は忘れていた空気の読めない陰キャラの仕草をしはじめたので、同族嫌悪が輝いたのだ。


「もし仮に君が私をそこまで本当の意味で想っているのであれは、君が資料を読んだならばわかる通り、それは君と私が肉体・魂の単位で相性がいいからだ。それは不気味ではないか」

「ちがうね」

「なにが……」

「確かに俺はお前のこと割と好きだけど、お前のこういうキショすぎ仕草は本気で嫌いだし、多分好きになったのはお前が優しいからだ。お前、夏祭りのボランティア遅刻してきたことあったろ。あれあとから光輝くんに聞いたけどあの子助けてたらしいじゃねぇかよ」

「いま思えば、あれは愛星友関連の」

「喋ってんじゃねぇぞチンカス」

「…………」

「それだけじゃないんだよ。お前、あの子のこと心配したろ。助けたいって思ったろ。そういう時の目が本当に好きなんだよ。人として尊敬できるところがあるから、そこが好きなんだ」


 そういうところがなきゃお前みたいなカス相性良くても好きになってねぇよ、と吐き捨てる。


 彼は、俯きながらその言葉の意味がわからないから考え込んでいた。


「これ以上言っても無駄そうだな。諦めるか」

「すまない」

「別に良いけど、お前、俺かこいつが『良い』って言うまで『尾島青空』だからな。俺たちが許可を出すまで異態肉彦になんかなるなよ」

「横暴ではないか」

「オーボーも麻婆もあるか。クソが。俺はますます愛星友への怒りが強まったぜ」

「君の親が殺された事件な、あれはおそらく愛星友関係ないよ」

「だからといって怒り半減とはならねぇよ。許せねぇのよ、人の悪意ってやつが。復讐がダメなら、人のために怒るくらい良いだろ」


 彼は微笑む。


「加賀美優心、君は優しいんだな。見たかい、新沼朝飛。彼は優しいんだ。私の見立て通り優しんだ」

「あれ、お前感情が顔に出るようになったな」

「誰も人の話を聞かねぇなあ」


 しかし、と彼は椅子に座る。


「土臭いからシャワーを浴びてこい」

「じゃがいもって呼ぶぞ今日から」

「ミスターポテト」

「新沼朝飛、私は君に謝らないとならない」

「あ? 誘拐のことならぶん殴るぞ」

「違う。君に『鬱陶しい』と言ったことがあったろう。あれは、じつは頭でいらだちを処理できず、君の優しさに甘えて八つ当たりしてしまったんだ。それを詫びたい。どうもごめんなさい」

「あれか。あれ別にいいや。俺も母さんにお前のこと『粗チン』って説明してるし」

「なんてことをしてくれたんだ」


 そういえば「相性」ってなんだろう、と話題が出る。


「あれじゃないか、吸収とかするんでないか」

「ちょっとしてみろよ。吸収」

「するわけがないだろ、バカか君は」

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