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彼は自分がわからなかった。
いろいろなことを考えたくなかった。
しかし、頭が回ってしまう。
こういう時は無心になれるところが一番いいと思った。
なので、土を掘って埋まってみた。
『こんな事をしてもなんにもならないと思うよ』
『黙ってくれ』
『しかしね、君。きみはあまり自分の出自というのにこだわり過ぎる。そんな大したものでもないだろうに、どうしてそう……今まできにしてすらいなかったじゃないか』
『静かにしてくれ』
『何が嫌なの』
『ひとりにしてくれ』
とにかく思考が働いてしまう。
「ふふ」
頭が回転してしまう。
考えたくないことがぐるぐると回り始めて、考えてはいけないような真実が姿を現すたびに、彼の頭が壊れていく。
ここ最近ずっと溜まっていたストレスが、溢れてくる。
「ングフフフ」
──全部俺のせいなんじゃないか?
考えた。
「グキュフフフフッフフ」
わかりやすい例で言えば、新沼朝飛の誘拐未遂事件がある。
あれは、愛星友の三下が「イザマニクヒコ」への「生贄」として目をつけた市内の男子高校生が誘拐されかけるという事件である。
その市内の男子高校生というのは彼のクラスメイト。
悲鳴を聞いて駆け付けて助けたつもりだったが、そんなものはいわゆるマッチポンプに似たようなものだろう。
「グススフフフ」
それで、感謝して、友達になりたいと思ってしまったが、嫌われっぱなしだったのが幸いしたろうか。
さいわいした?
ふざけるな。
自分の為に人が不幸になって、自分の為に恐怖を味わったその誰かを、その隣で、抹茶ケーキなんぞ食ったのか、おまえは。
死ねよ。
死ねよ。
人類史の恥さらし。
「グフフフフフ。ンー……あー……フフ、フフ。なぁ、おまえ。私たちのテーマソング作らないか?」
『テーマソング……? な、なぜ急に……』
「もし、俺達のあとをついでどこかの怪異とどこかの人間がくっついて、ビカットマンになったときに、テーマソングがないと困るだろう……だって、ヒーローにテーマソングは欠かせないのだから」
『…………わかった……』
「じゃあ歌詞考えよう。子どもでも歌いやすいように、英語はなしにしよう。でもあまり単調じゃ子どもたちも飽きてしまうから、格好いいものがいい。そうだ、私は日●の、『野郎に●境はない』が好きなんだ。主演が私に似ているんだけれど……その主題歌が好きなんだ。ああいうのはどうだろうか。ああいやだめだな、もうちょっとヒーロー感のあるものがいいかもしれないな。どうしようか」
『君の好きなようにしたらいい』
こわれた。
前々から心にヒビは入っていたし、頭にも衝撃が蓄積されていたけれど、今回のこれで完全に壊れてしまった。
神戯閃光児はなんとなくそれを察したので、付き合う事にした。
「びかーっと、ひかーって、あらわるせんしー」
『…………』
「せいーぎの、ぱんーちが、やみころしー」
『…………』
「せいぎのみかたの、さらなるみかた、ひかりをやどしたかめんのせんしビカットマン!」
『……いいんじゃないかな』
「じゃあ、次に愛星友のれんじゅうが現れたらこの歌を歌って登場してみないか? きっと、テーマソングとしてもマーケティングは成功すると思うんだ。どうだろう」
『いいとおもうよ』
「なんだい、おまえ、わりと話のわかるやつじゃないか」
会話なんかしてこなかった。
人間ともそうだ。
いままで、頭のなかでこれが普通なのだととらわれていた事で妹を数年無視してきた……そして、これから仲良くなろうという時に、死んだ。
育ての母は何を思ったのだろう? 育ての父はどう考えていたのだろう? 妹としていてくれようとしたあの子は、何を言っていたのだろう。
頭が痛い、何も考えたくない……いや、おそらくもうまともに思考もしていない。
自分でもおかしくなっているのが分かる。
なまじ頭がいいから。
自分にはやはり人間は理解できない。
人間の輪のなかで生きていくことは、やはりいろいろな観点から見ても難しいと思う。
けれど、目の前で泣いている誰かを思いやることはできるはずだ。
「やろう、神戯閃光児」
『ん?』
「俺たちが、ヒーローになろう」
自分が生まれたせいで傷つけてしまった誰かを、自分の手で見守ろうと決めた。
「一寸先が闇の独壇場だった時代ははるか昔だ」




