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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
6 気丈
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 そこにはもう人はいなかったし、怪異もなかった。


 警察が来るという情報をどこからか掴んで、先に逃げおいたのだ。


 おそらく最低限必要なものだけを取っていったんだろう、物が散らかっているが、その中にひとつ気になるものがある。


 それは小さなファイルであった。


 おそらく取り忘れていったのだろう、部屋の隅の段ボール箱のなかにあった。


 それをペラペラとめくってみると、それはあった。


 異態(いざま)家というふしぎな家系についての話である。


 古くは明治より以前に存在し、愛星友お抱えの穢し屋をしていたらしいが、そのうちの一人・異態(いざま)隕獄(いんごく)が昭和五十八年に愛星友を離反し、祓い屋として異態家・愛星友との敵対をしてきたという。


『似てる』


 ……そう思った。


 自分に、やたらとよく似ている。


 そのファイルにおさめられた資料を、めくっていく。


 離反後の異態隕獄についてのことである。


 文字を読んでいく。


 岩手県警の刑事・尾島(おじま)浩次(こうじ)とともに異態家を壊滅させる……昭和六十二年に一般の女性・星野(ほしの)空良(そら)と出逢う……平成四年に長男誕生……平成五年に長女誕生……そして、平成十年に次男誕生……。


「…………」


 次男は異態隕獄の死後、星野空良の手によって尾島浩次のもとに引き取られる。名は尾島(おじま)青空(しょうく)


 尾島青空。


 せめて違う人間であれば、そうであればまだ逃げ道だってあったろうに。


 最悪だ、と認識。


 識別。


 そして、それがその罪が、彼の生来のものであることを、かれらが認識することを、認めること自体が罪であることを……。


 やはり。


 ああ、さいあく、ほんとうに、ほんとうにやっぱり。


「イザマニクヒコは、俺なんだ……」


 車に戻ってきた彼を観た時、朝飛と優心、それに智和は彼に何か違和感のようなものを感じた。


 何か雰囲気がいつもと違い、どろどろとしたものをなどしているような気がしたらしい。


「なにかわかったかい?」

「ええ、わかりました。わかりましたよ」

「イザマニクヒコについてもか?」

「……ああ。じゃあ、自己紹介しないとな……」


 彼は資料ファイルを一冊持ってくると、「イザマニクヒコは私です」と言った。


 次の瞬間、眩い光がドロリと広がって、彼は姿を消した。


 家にも帰らなかった。


 優心は心配する祖母をなだめつつ、冷めきった彼の飯を見つめた。


 イザマニクヒコ。


 翌日、優心と朝飛はふたり揃って愛星友対策本部の方に顔を出して、智和を呼び、それについて聞いてみると、イザマニクヒコとは漢字で「異態(いざま)肉彦(にくひこ)」というらしい。


 イザマニクヒコは、現人神のようなものだから生贄を差し上げなければならない。


 朝飛が選ばれたのは、肉体・魂の相性が完璧だったから。


「そういうのを考えて、彼は我々の前から姿を消すのを選んでしまったのだろうな」

「とりあえず、どうします? あいつ学校あるって忘れてますよ」

「取り敢えず君たちのところに帰ってくる事は無さそうだな。彼の捜索は我々がやるよ」

「余計な仕事増やしちゃってすんません」

「大事な事は余計な事とは言わんよ。君たちも学校があるだろう。遅刻確定なんじゃないか? 送っていってやろうか」

「今日は秋分の日ですよ」

「あっ、そうか……」


 今日はまだいいとして、明日は普通に平日。


『なにしてんだろう、あいつ……』

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