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そこにはもう人はいなかったし、怪異もなかった。
警察が来るという情報をどこからか掴んで、先に逃げおいたのだ。
おそらく最低限必要なものだけを取っていったんだろう、物が散らかっているが、その中にひとつ気になるものがある。
それは小さなファイルであった。
おそらく取り忘れていったのだろう、部屋の隅の段ボール箱のなかにあった。
それをペラペラとめくってみると、それはあった。
異態家というふしぎな家系についての話である。
古くは明治より以前に存在し、愛星友お抱えの穢し屋をしていたらしいが、そのうちの一人・異態隕獄が昭和五十八年に愛星友を離反し、祓い屋として異態家・愛星友との敵対をしてきたという。
『似てる』
……そう思った。
自分に、やたらとよく似ている。
そのファイルにおさめられた資料を、めくっていく。
離反後の異態隕獄についてのことである。
文字を読んでいく。
岩手県警の刑事・尾島浩次とともに異態家を壊滅させる……昭和六十二年に一般の女性・星野空良と出逢う……平成四年に長男誕生……平成五年に長女誕生……そして、平成十年に次男誕生……。
「…………」
次男は異態隕獄の死後、星野空良の手によって尾島浩次のもとに引き取られる。名は尾島青空。
尾島青空。
せめて違う人間であれば、そうであればまだ逃げ道だってあったろうに。
最悪だ、と認識。
識別。
そして、それがその罪が、彼の生来のものであることを、かれらが認識することを、認めること自体が罪であることを……。
やはり。
ああ、さいあく、ほんとうに、ほんとうにやっぱり。
「イザマニクヒコは、俺なんだ……」
車に戻ってきた彼を観た時、朝飛と優心、それに智和は彼に何か違和感のようなものを感じた。
何か雰囲気がいつもと違い、どろどろとしたものをなどしているような気がしたらしい。
「なにかわかったかい?」
「ええ、わかりました。わかりましたよ」
「イザマニクヒコについてもか?」
「……ああ。じゃあ、自己紹介しないとな……」
彼は資料ファイルを一冊持ってくると、「イザマニクヒコは私です」と言った。
次の瞬間、眩い光がドロリと広がって、彼は姿を消した。
家にも帰らなかった。
優心は心配する祖母をなだめつつ、冷めきった彼の飯を見つめた。
イザマニクヒコ。
翌日、優心と朝飛はふたり揃って愛星友対策本部の方に顔を出して、智和を呼び、それについて聞いてみると、イザマニクヒコとは漢字で「異態肉彦」というらしい。
イザマニクヒコは、現人神のようなものだから生贄を差し上げなければならない。
朝飛が選ばれたのは、肉体・魂の相性が完璧だったから。
「そういうのを考えて、彼は我々の前から姿を消すのを選んでしまったのだろうな」
「とりあえず、どうします? あいつ学校あるって忘れてますよ」
「取り敢えず君たちのところに帰ってくる事は無さそうだな。彼の捜索は我々がやるよ」
「余計な仕事増やしちゃってすんません」
「大事な事は余計な事とは言わんよ。君たちも学校があるだろう。遅刻確定なんじゃないか? 送っていってやろうか」
「今日は秋分の日ですよ」
「あっ、そうか……」
今日はまだいいとして、明日は普通に平日。
『なにしてんだろう、あいつ……』




