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男は蹌踉めき壁にもたれてから、その壁をダンと叩いてもう一度彼の方に向かっていくが、今度は脇腹を蹴られた。
男は床に落ちていたガラスを掴み上げ振りかぶる。
「これでいいか」と判断した彼はそのガラスで腕を斬り、胸倉をつかみ、何度も顔面を叩いた。
十九・八秒。
「二十秒も保たなかったか」
男の背中がぼこぼこと膨れ上がり何かが生まれようとしている。
「二十秒をこしたか。これは俺の慢心だ。君たち、すまない」
「あっ、へー。お前も慢心とかするんだ」
「めちゃくちゃイキってたろさっき」
「っていうか前見ぃや」
それはどうやら男の生得怪異であるらしい。
ずいぶんと頭の悪い怪異と契約していたらしく、周囲にドロっとした影があふれ出した。
結界を形成しているらしい。
「神戯閃光児、こいつを知るか?」
『名前を付けてはいけない怪異だねえ。とても強いけれど、取り憑いた人間の精神を破壊してしまうんだ。これと同質の存在を何度か見たことがあるよ。まさかまた見る事になるとはなあ』
「なるほど」
随分と気持ちの悪いものを。
その怪異は男から這い出ると、ゆっくりと立ち上がった。
身長は二メートルほどだろうか。
『ここからは怪異バトルだよ。僕も一度君から出る』
「ほう。出られるのか」
『僕が君に取り憑いていたのは、あくまで一時的な延命の為だしね。君の頭部はちゃんと治ってるし』
「そうか」
『すぐに戻ってくるよ』
「なぜ?」
『なぜって、僕がいないと君がビカットマンになれんだろう。僕はビカットマンを見るのが好きなんだ』
からだから光が抜けるような感覚。
「……奥さん、家の裏にあるだだっ広い空間は空き地か?」
「え!? ええ、まあ。でも、どうして?」
「神戯閃光児、やるならそこでだ」
「了解。君たち全員目を閉じろ」
身体から力が抜けるような感覚。
怪異の前にもうひとつ、怪異が現れた。
「いいかい君たち、そこのミスターアホアホマン以外は僕の姿を直視してはならないよ。この至近距離で僕を見ると人間は簡単に気がおかしくなってしまう」
優心は「たしかサングラス持っていたような気がするなぁ」と思い懐を漁ってみると、七つくらい持っていた。
「かけろ」
「何処に隠してたんだよお前それ」
「いいからほら」
「俺も一応かけておきたい」
「おう」
神戯閃光児は怪異を伴って外に飛び出していった。
彼らもそれを追って外に飛び出す。
「うわっ」
「どうかしたかい」
「空変だよ、まむらさき!」
「ふむ、なるほど。異界というわけか」
家の裏から眩い光がした。
「至近距離で見ると気が狂う怪異……鬼剣舞……」
彼が何かを言っている。
朝飛はそれを見ていた。
「光と影……俺にも解ることが奴には解らないはずがない。おそらく戦闘能力では同等……奴は無策で俺との同化を解かないはず。……何かをさせたがっているか? ここからは怪異バトルになるっつったって……あの、バッキャロォ……」
目を細め、見つめつつ、何を言われても驚かないように準備を始める。
「新沼」
ほら来た。
「空に行けるかい」
「構わないよ」
愛並媚を召喚し、空に舞い上がると、彼は両手を組み合わせて外向きのカエルを作ってみせた。
すると、空に黒い泥のような影が広がり、そこから二メートル級の爬虫類が落ちてきた。
恐竜──!!




