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身体の動かし方というのを、なんとなくで理解。
木々を操りながら、猿からの攻撃を躱し、身を捩る。
術者本体を叩く、
カルトにハマって猿のニオイぷんぷんにさせた有象無象のチンカスどもならば、大して脅威ではないが……。
なにしろ猿の数が多すぎる。
本体を叩くまでが遠すぎる。
何十体目かの猿を殺し終えたところで、体色が白にかわり始めた。
おおよそ三分の制限時間があるらしい。
『倒しきれないのはしょうがないよ、ここはいったん逃してもらおう。一瞬目潰しに光らせて!』
「新沼、加賀美、愛並媚、目を守りなさい。光るぞ」
瞬間、姿を人間のものに戻して手のひらに光のエネルギーを溜め込み、ドッと放つ。
れんじゅうの視界が利かなくなった瞬間に愛並媚に飛び乗り、その場をあとにした。
うひゃあ、疲れたなあ。
ドッと疲れた。
「本当に疲れた……心臓がバクバクいっている」
「大丈夫かよ」
「いきなりタイプチェンジをして、いきなり力を制限時間いっぱいまで使い続けたのがいたずらをしたんだろう。使い方によっては俺の首を絞めてくる代物にちがいない。すまない、君たち。僕は少し眠る」
「休めろ、身体」
適当なところで降りて、熟睡におちたデカアホを抱えて佐々木家に着くと、どうやら母親が帰ってきたらしい。
美穂の母親に挨拶をぶちかます。
「その子は?」
美穂の母親は、朝飛におぶられたまま眠って起きないアホを心配しているらしい。
「すいませんこいつ疲れすぎて」
「お布団出そっか?」
「いいんですか?」
「娘からお話聞いてるから」
あの子のために頑張ってくれたんでしょう、と。
優心は「ありがとうございます」と小さく頭を下げた。
このようにして敷いてもらった布団に、雑に投げ落としてもこの男は目を覚まさなかった。
「本当に寝てるの? 大丈夫? なんかの病気とかじゃない?」
「こいつびっくり人間なんで。まぁ大丈夫だと思います」
朝飛は頭を撫でてから美穂の母親にそう言った。
「じゃあ、なんか怪しいこと起こるまでこのままこのミスタードアホの寝顔でも眺めてましょうかね」
「なんか食べます? お菓子とかありますよ」
「羊羹食いたい」
「ありますよ」
「あ、俺も欲しいです」
どんな夢を見ているんだろう。
そんな事を思いながら、顔を眺めてみる。
あまりいい夢ではないのだろう、眉間にシワなんか寄っている。
外からバイクの走行音がすると、彼はようやく目を覚ました。
「おはよう」
「……おはよう」
「いやな夢でも見たかい」
「いや。家族に会えたよ。だから、いやな夢ではないな」
けれど、と彼が不思議そうに言う。
「おかしいこともあった。なぜだろう、俺には兄や姉……弟なんかも、いたような気がするんだ。夢にぼんやりと面影が出てきた」
「夢だからなあ〜」
「夢って情報の処理とかだろ。俺の兄貴姉貴を見たんじゃねぇの」
「……そうかもしれない。君たち何を食っている」
「羊羹。お前のもあるよ」
「きんつばは無いのかい」
「贅沢言うなぃ」
ぱくぱく、ぱくぱく、おいしい。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。身体も落ち着いてきた」
「なら良かった」
「ん? 来たか。思っていたより早いな。……ごちそうさまでした。佐々木くん、君はなるべく新沼と加賀美から離れないように。奥さんは警察に通報できるように準備をしていただきたい」
札が燃えて塵になった。
『来たよ』
『そうらしい』
『変身はまだやらないほうがいいから、生身で戦うことになる。喧嘩はできるかい?』
『好きじゃない』
窓ガラスを突き破り、男が飛び込んできた。
「我慢できなくなって、とうとう強硬手段に出たか。恋愛に奥手な性格異常者の根暗はこれだから気色が悪い。根暗に失礼だ。君のようなのは、この世界において、大人しく家に閉じこもっておくほうがよろしいな」
「き、きさまに俺の何が分かる……」
「分かるさ。君は知能も低いのだろう」
「黙れ……黙れ!!」
「君にそうやって怒る資格はない。分からないか? 分からないだろうな。人とまともに関わるのをしないで、自分の思い通りにしたくって、猫ちゃんの事を殺してしまえるような男だ。きっと何も分からないままで生きているんだろう」
あれ、めちゃくちゃキレてる。
優心はふと思った。
「なぜ君が生きている? なぜ君は生きていける。どのツラをして? 面の皮が分厚いなあ。よく剥がれんだろう可哀想に。可哀想だ、可哀想。哀れなり。哀れ哀れ。ハァ……」
「殺すぞ貴様」
「無理だよ」
「殺す」
「無理だな」
「うううう」
「まぁ、理解できんでしょうな」
うわあああああああああああ、と喉から血が出る勢いで叫んで殴りかかってきた男の顔面に蹴りを叩き込む。
「一分かな。……いや…、二十秒で終わらせよう」




