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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
1 序章
2/57

2

 生真面目な彼を気に食わない者はいた。


 新沼(にいぬま)朝飛(あさひ)というのもそのうちの一人だった。


 言わんでいいことを言う、空気を壊す。


 そんなやつの何処に好きになる要素があるのか。


 社会人になったとしてもあまり身内には置いておきたくないような人間、と言われたとすると、一番最初に思い浮かぶのがこの男である。


 嘆かわしい。


 平成二十五年、七月十九日。


 夏休みの前日、終業式の日ということもあって、午前で授業が終わるぞという際のこと。


 友達がいるわけでもないのでひとりトボトボと帰宅していると、突如ナンバープレートが雑に偽装された黒いバンが朝飛の真横にとまり、男が飛び出してきた。


 朝飛はすっかり男に捕らえられ、バンのなかに押し込まれた。


「助けて」と叫ぶ。


 そこに現れたのが彼だった。


 彼は閉じかけたドアに左腕を突っ込むと、男の胸ぐらを掴み、無理矢理腕を引き、がりがりと肉を抉るようにさせながら男を車窓に叩きつけた。


 それは突然のことだった。


「うわあああ」


 男の仲間たちは驚きながらクルマを走らせたが、既にバンのドアは空いてしまっている。


 彼は「速度違反です。シートベルトを締めて、未成年のいる車内で煙草を吸うのはマナー違反です。受動喫煙になりますよ」と言いながら、車窓から外を眺める。


 そして、庭先に広がったビニールプールが見えたところで朝飛を投げ飛ばし自分も飛び出す。


 彼はアスファルトの上を転がり頭から血を流しながら車に石を投げつけ、携帯電話でその様子を撮影。


 警察に通報した。


 パトカーが来る。


「随分と乱暴に車のなかに連れ込まれそうになっているもので、これはヤバいと思い干渉するに至りました。ナンバープレートがラミネートされた紙を貼り付けたものでしたので、それじゃあ逃さない為にと不躾ながら車に傷をつけました。これがその写真です。役に立つようでしたら役立ててください。すいません此処までのようです。さよつなら」


 血が止まらないのも構わないで言いたいことを言うと、スマホを警官に預けて気絶した。

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