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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
4 悪辣・1
18/50

18

 彼はノートをちぎると、指の端に針で穴を空け、文字を描く。


 すると、その文字が美穂には薄っすらと光を放った。


 それはどうやら「縛絡(しばらく)」という怪異の神性を込めた特別なお札らしく、並大抵の悪意は一定時間弾くことができるらしい。


「その間、君はちゃんと休んでおくといい」


 指の傷は治ってしまった。


「お前本当に……」

「違うよ」


 はっきりきっぱりと断言される。


「僕はかつてここら一帯を仕切っていた神……を、食ってしまった天才児でね。名は神戯閃光児(しんざせんこうじ)。ちなみに僕のようなのは岩手だけでなく、全国各地で行われて、僕がその体表として祀られてただけだね。勝てたから。縛絡というのは、僕が食ってしまった神の事だね。あんなものでも役に立つ」

「神を食ったのか……?」

「今は昔、弱肉強食の時代」

「だからそのバカ傷の治り早いのか?」

「これは彼自身の神性だね。僕は関係ない。まぁそこら辺は、僕も善人じゃないので関与しない。君たちで解決する問題だね。それで、君たちに力をくれてやるつもりだけれども……」


 そのツラで感情豊かに話されると調子が崩れるなぁ、と思いながら「力ってなんだい」と問いかける。


「召喚霊術。君たちが元来契約している怪異をこの世に呼び起こすスーパー能力的なあれだよ」

「大昔の人間にしちゃ使う言葉がワクワクすぎるな」

「彼本来の性格が出ちゃってんのかもね。脳は同じだもの」


 あいつってこんな軽い奴なの? ……と思いながら、朝飛は「教えてくれ」と身を乗り出した。


「そう勢い込まさんな。教えるよ。まず、君たちは怪異を知るか?」

「フリーゲームであったな」

「あっ、聞いたことある気がする。俺のいとこがやってたって」

「妖怪とか幽霊とかだよな」

「ああ。人間は元来、生まれる以前から怪異と契約している。『生得怪異』と言うんだがね、それを知るところから始めなければならない」

「どうやって知るんだ?」

「簡単な話、君たちが自分が自分である自覚を持てばいい」

「自覚?」

「僕が補助するから思ってたより簡単にできるはずだ。この男のようなのはとかく混乱に陥りやすいけれど、君たちはまだ簡単だろうから、教えてやろう。まず瞳を閉じて。そして、自分の心と向き合う。身体の中に水がたまっていくイメージ。その水の底に溜まっている『何か』を思い浮かべよう」

「それ、あのアホもやったの?」


 優心が放った質問は、微笑によって躱される。


「とにかくやってみなさい」

「…………うわっ、なんかある。キモッ」

「その気持ち悪さを忘れてはならないよ。もし忘れそうになったら自分の思う気持ちの悪いものを思い浮かべるんだ。これはあのアホもやっているね」

「あのアホに気持ち悪いって感情あるんだ」

「『SNSやってるオバサンが敬語でやたら馴れ馴れしく共感してくる瞬間』が気持ち悪いらしいね、彼的には」


 わかりますわかります! だとか。


「俺のなかのあいつが壊れていく」

「実在の人間に夢を見てはならないね」

「召喚霊術って言っていたけれど、それってどうやるんだ?」

「教える前に聞くのはマナー違反だよ」

「な、なんだよ……」

「地面に陣を描いたり、札を用いたりするのだけれど……そんなものを作っている暇はないからね、いい方法をおしえてあげよう。まずは手遊びというのを知るかい?」

「ええ、まあ。キツネ作ったりとかですよね」

「ああ。そう。片手で狐を作って、それを『召喚霊術の発動条件』だと記憶しておくんだ。ちなみに僕もこの方法を使うことにより、この世に顕現できる」

「お前も片手で狐作れば来るんだ」

「ちょっと違うかな〜」

「教えてくんねぇの?」

「ハハ。まァね」


 二人はそれぞれ狐を作ってみせる。


 優心の股の下から狐が飛び出して、朝飛の頭上に大きな鳥が現れた。


「ふふ。狐罰(こばち)愛並媚(まならび)だね」

「かわいー」

「でっかい。でっっかい」

「凄いね、はじめましてでここまでハッキリとした姿を出せるのは君たちくらいだ。彼の神性にあてられてしまったかな?」

「こいつってなにができるんですか?」

「そうだね、狐罰は一匹の攻撃力が高いのはもちろん、君が育てばポポンとそれなりの数を出せるようになる。愛並媚も同じように。愛並媚は背中に乗れるかもしれないね」


 召喚霊術使えるようになってよかったね、と神戯閃光児が笑みを浮かべる。


「そういえば……お前はなんでそいつに……取り憑いてる? のか? 取り憑いてるんだ?」

「言って理解してくれるかわからないけれど……」


 神戯閃光児は、少し恥ずかしがるような顔をして……。


「僕が生きてた時代に、彼がいたらよかったなって……思ったんだ。彼は誰かを助けることに躊躇いがなくて、そしてなにより強かったから」


 なんとなくわかる気がした。


「僕は百ナン年前からここにいるけれど、僕は彼の弟になりたかった」

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