15
九月十八日の頃に、さすがに小うるせぇので優心の祖母が折れて彼が飛び込んできた。
「おかわりもらっても?」
「家に来て初日とは思えないほどの食欲……」
「飯は食わねば戦えん」
「何と戦うんだよ」
「ちくわ」
「お前……思ったより真面目じゃねぇな……?」
優心もミスター厚かましいマンに耐えかねておおよそ同居人とは思えない睨みつけとともに、それはそれとして態度も軟化していた。
「しかし、秋だな。君は身体の線が細いから風邪なんぞ引かないように気をつけなければならない。俺はそういうものにかかったことがないので、なお一層気をつけよう」
「バカは風邪引かないっていうしな」
「ほう」
なにが「ほう」だよ、と思いつつ米を食う。
祖母はミスター小うるせぇマンが来てから少し気が楽になったような顔をすることが増えた。
ストレスが軽減したのだろう。
それは優心にとって嬉しいことだが、少しモヤッとするところもある。
嫉妬なのだろうか。
隣で有り得ないほど頬をパンッパンにして飯を食っている男は、悔しいが確かに善人ではある。
そんな人間を傷つけた負い目もある。
自分が祖母を安心させることはできないのはわかっている。
けれど……人の心はそう簡単じゃない。
学校に登校する。
「俺は新沼と登校するが、君はどうだろう」
「ひとりでいいだろ、なんで懸念点みてぇなツラしてんだ」
「一緒に住んでいるのに、わざわざ登校をずらす意図が分からない」
「あのさー……」
「なにか?」
「ハァ……もういいや……」
登校する。
あの一件以降、優心に近寄ってくる人はいなくなったが、どうやら彼はそうではないらしく、よく女子れんじゅうに声をかけられているのを目撃する。
「嫉妬か?」
「ゲ」
遠巻きにその様子を眺めていると、気がつけば朝飛がいる。
「『ゲ』って酷いな、お前」
「アイツの暴走止めろよ」
「ほんのちょっと前までは止められたんだけどなぁ。今はなんかもう無理だ。あんまり関わり深くないんだけど、あいつ変わっちゃったよ。人柄っていうのかな、そういうのが前面に出るようになった」
「……やっぱり、親の死か」
「あいつ、すげー泣いてたもん。そりゃあ、変わるわな」
軽く言い過ぎている。
けれど、顔を見てみれば彼を見つめる朝飛の顔は悲しげだった。
友を想う顔でありながら、それ以上に何か……。
「そんなに心配ならずっと傍に居りゃいいのに」
「あいつに人の情緒はわからんよ」
「幼稚っての?」
「頭の作りが俺たちとは違う。病気とかなのかもしれないけど、アイツはまだ人間になりきれてない」
「幼稚なんじゃん」
「幼稚ってのも違うんだよなぁ〜……難しい……じゃあもう、あの顔を見ろよ。普通女子に囲まれてあんなアリ見るみたいな顔するか?」
「男色なんじゃねぇの? ほら、お前に引っ付いてるし」
「ないだろ。あいつコンビニのアダルトコーナーたまに凝視してるし」
キモ。
「加賀美、新沼。ふたりしていったい何のお話か」
ミスターキモスケベがやってくる。
「お前の話だよ」
「ほう。気になるな」
「お前がキモいって話だよ」
「俺はキモいかい?」
「キモくはねぇけど、ちょっとキモい」
「どっち? そうだ、それはそうと、新沼。相談があるんだ。さきほど、後輩女子に相談を受け、彼氏になってほしいと言われてしまった」
「プロポーズじゃん」
「どうやらストーカーがいるらしく、その男を諦めさせる為に彼氏がいるということにしておきたいらしい」
なるほど、と優心。
「容姿だけ見れば高身長でハンサムだものな」
「中身はアレだけど、高嶺の花だって見せつけるにはいいかもしれないけれど……ただ、悪手じゃないか?」
「ストーカーは逆上があるからな」
「はは、逆上か」
「俺を見るな」
じゃあどうしよっか、と話し合いをする。
「ここでウウダウダするより、その後輩女子をまじえて話し合ったほうがいいだろ」
「ふむ、それもそうだ。同席してくれるか? 加賀美」
「はぁ? なんで俺まで……」
「最悪君を使うかもしれない。本人がいないところで勝手に話を進めるのはいけないことだろう、と学習している」
「俺が教えた」
優心はため息をついて、「わかったよ」と返した。
TAKAKOすき!




