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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ある聖戦の裏側で

作者:雨杜結依
最新エピソード掲載日:2026/06/02
空の向こうから、なにかが僕たちを覗き込んでいる。
善悪なんてどうでもいい。ただ、この胸に燻る愛や、嫉妬や、未練――人間という生き物が垂れ流す、醜く肥大した感情だけを、奴らは愉しげに“観測”している。

降臨した“使徒”の前に、世界はあっけなく削られていく。
抗うための兵装《感情燃焼機関》は、僕たちの感情そのものを燃料にして炎を上げる。戦えば戦うほど心は摩耗し、大切な記憶の輪郭が、体温と一緒に消えていく最低の兵器。

命を燃やす英雄たちのまぶしさに、僕はいつも目を細めていた。
才能も、出力もない僕には、戦う資格すらない。世界の救済なんてどうでもよかった。僕の狭い視界には、ただ一人、幼馴染の小宮依里だけがいればよかった。

誰よりも壊れやすいあいつが、世界の“救世主”へ祭り上げられていく。
依里の声が、どこか遠くのスピーカーから聞こえる気がして、胸の奥が冷たく震えた。

遠くへ行かないでくれ。僕を置いていかないで。

……だから、あいつが傷つき、無力な少女に戻るたび、心の底で酷く安堵してしまう自分を、僕は殺せそうにない。

当の依里は、「私がやらなきゃ、みんな死んじゃうから」と、取り憑かれたような笑顔で心を焼き、また戦場へ向かう。

これは、世界を救う英雄の物語じゃない。
……愛するほどに壊れ、守りたいと願うほど怪物に堕ちていく、僕たちの記録。
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