王国歴1447年から1448年頃
七 ひわの下書き 白霜の月
お手紙拝見しました。お子様を授かったとのこと、心からお喜び申し上げます。
春には生まれると伺い、指を折って数えてみましたが、芽吹きの月の頃でしょうか。
こちらは変わりありません。お義母様は、嫁いで二年にもなるのに、と朝の挨拶のたびに申しますが、主人は何も申しません。〔閨に通わない人から、何を授かれというのでしょう〕
袖の葉はあれから三十二枚になりました。茶会から戻るたびに一枚ずつ刺しているので、数えれば何度伺ったかが分かります。主人の袖はもう葉で埋まりかけていますが、主人は気づいていません。
初めての茶会の日のことは今もときどき思い出します。〔帰りの馬車で、自分の指ばかり見ていました〕
お体を大事になさって、重い鉢は女中に運ばせてください。
八 つぐみより 白霜の月
白霜の月に入り、温室の窓には朝ごとに霜の花が咲いて、中の鉢の花と外の霜の花とを、窓の硝子一枚を隔てて見比べられるようになりました。お祝いのお言葉、ありがとうございました。お腹の子は日ごとに重くなり、近ごろは温室まで歩くのにも息が切れて、途中の石の腰掛けで一休みしております。
主人は聖燭の月の祭礼の支度で、月の初めから半ばまで領内の村々を回ることになりました。生まれる前にもう一度、ひわ様と静かにお茶をいただきたいと存じますが、この体では温室の炉の前に長く座っているのもつらく、今度は奥の小部屋に支度をいたします。寝間の隣の暖炉のある部屋で、横になったままでもお茶をいただけるよう、寝椅子に厚い敷物を重ねておきます。
温室の棚の二つの実が、この冬はいつになく重たげに色づき、そっと触れただけでもはちきれそうでございます。ひわ様に見ていただきたくて、まだ摘まずにおいております。お気に入りの一輪も、もちろん用意してお待ちしましょう。
それから、あの日の指貫は今も温室の棚の、二つの実の隣に置いてございます。お返ししなければと思いながら、お見えになるたびに忘れてしまうのは、きっと私がお返ししたくないからでございましょう。
ひわ様のお義母様のお言葉は、どうかお気になさいませんように。花は咲く時が来れば咲くもので、私とて二年かかりました。こちらにいらっしゃる日だけは、お屋敷のことはお忘れになって、温かいお茶をゆっくり召し上がってくださいませ。
九 ひわの下書き 白霜の月
お誘い、承りました。聖燭の月の五の日の朝に発ち、昼過ぎには伺います。
お義母様は身重の方のお見舞いならと許してくれましたが、子のある家へ通えば子が移るかもしれない、とも申しました。主人はそれを黙って聞いていました。
奥の小部屋でお茶をいただくのは初めてですが、横になったままでよいのなら、私もお行儀を気にせずにすみます。寝椅子が冷えないよう、私の膝掛けも一枚持って伺います。
指貫はそのまま棚に置いておいてください。〔あれがそちらにあるかぎり、伺う口実がひとつ残ります〕
二つの実、楽しみにしています。重い実なら、摘むときは私が下から支えますので、つぐみ様はどうか横になっていてください。
十 つぐみより 芽吹きの月
芽吹きの月の三の日の明け方、男の子が生まれました。お産は長うございましたが、母も子も無事で、主人は知らせを聞いて領内から馬を飛ばして戻り、赤子を抱いたまま、しばらく何も言わずに窓の外を眺めておりました。
聖燭の月の茶会では、お腹が重くて温室まで参れず、小部屋で横になったままのお相手になってしまいましたこと、お許しくださいませ。それでも、二人並んで押し花を作りましたのは、寮の頃にもしなかった遊びで、楽しゅうございました。茎と茎を互い違いに重ねて押すと、花と花がぴたりと合わさって、どちらの花びらもずれずにおさまるのでございますね。何度も押し直しているうちに、二輪とも花がすっかり開ききってしまい、少し形が崩れてしまったのはご愛敬でしょうか。それを見て、ひわ様が袖で顔を隠してお笑いになったのを覚えております。
あの二つの実は、ひわ様が下から支えて摘んでくださったので、ひとつも傷まずにすみました。押し花のほうは、あの日の二輪を一枚の紙に挟んだまま、寝間の書物のあいだにしまってございます。
その後、お屋敷でまたつらいお言葉をかけられてはおりませんか。子のことは、授かる家も授からない家も、神様のお決めになることで、誰のせいでもございません。どうかひわ様お一人で背負い込まれませんように。
ひとつお願いがございます。赤子の産着の胸に、ひわ様の針で葉を一枚刺していただけませんでしょうか。花冠の月には温室の花もそろいますので、お気に入りの一輪を用意して、産着を持っておいでくださる日をお待ちしております。
十一 ひわの下書き 芽吹きの月
ご出産、おめでとうございます。母子ともにご無事と伺い、お手紙を読み終えるまで息をつめていたのに気づきました。
産着の葉は喜んで縫わせていただきます。若芽の色の糸で、胸のところに小さな葉を一枚だけ刺し、花冠の月の茶会に持って伺います。
押し花はとても楽しい時を過ごすことができました。あれほどよいものであることを知っていたら、学生時代になぜしていなかったのか、悔やまれるくらいです。押し花は寝間の書物のあいだにしまってくださったと伺い、花の色があせないよう願っています。〔あの日、二輪のどちらが私の花だったのか、途中から分からなくなりました〕
お義母様が、男の子とはめでたい、あちらにあやかりなさい、と夕餉の席で申しました。主人は匙を置いて、何も言わずに席を立ちました。
袖の葉は三十三枚になりました。〔私の花は、一つも実を結ばないのに〕
茶会の日を、針箱を整えてお待ちしています。




