103.ドリアードの里に入ると
『コウ!アンタはそこに正座しなさいっ!あ、姐さんと“ミー”はくつろいでてね!』
『なーぅ。 なうな』
『うふふ、は~い』
そうのたまう彼女の言葉に従い、にゃーさんと此処まで案内してくれたドリアードの“ミー”は居間の方へ。
取り残された俺は玄関と居間の間で正座。どうしてこうなった。
「・・・・・・」
『・・・なに? 何か文句あるわけっ!?』
「・・・いや」
『ふーん・・・』
こんにちは、朝霧鋼です。
私は現在、ドリアードの里にある友人宅に招き入れられて床に正座をさせられております。
玄関先で宥めよう作戦は速攻で潰されました。
ちなみにその友人と言うのが、今私の目の前で生意気おっぱいの下で腕を組んで仁王立ちをしている彼女でございまして。
見た目は光加減で少し緑っぽく見える白い肌に青々とした緑の髪とくりっとした赤いどんぐり眼。
髪には瑞々しい葉やキレイな小さい花も混ざっていて、足元が根になっていることからも分かる通り、ドリアードです。
さっき玄関先で投げつけられたのは、おそらく彼女の髪の中の葉であろう。
その葉っぱが疲労回復効果のあるハーブであったあたり憎めない相手だ。
ちなみに里で一番歳若い彼女は見た目は10代の半ば頃で、お姉さんに比べるとお胸の果実はまだまだと言ったところですな。
サイズで言えばCの―――ごすっ。
戦闘力を目測で量っていたら拳骨が振ってきた。
「いたっ・・・なにすんだよ」
『なんか不愉快な感じがアンタからした』
「・・・気のせいじゃないかな?」
『ホントかしら・・・? ところでさ』
「はい」
『アンタ憶えてる?』
「えっと・・・?」
『あたしと!アンタが最後にうちに来た時にした話!!』
「あー・・・」
森を離れる前に、頼んでたモノの受け取りと挨拶に来たな。
その時は―――
『言ったよね? 人間の街に無事に着いたら連絡寄越しなさいって。 あとちょくちょく帰って来なさいよって!』
「そういえば・・・」
うん。
何か別れ際に言われた気がする。
ってか言われてたわ、うん。
いや、でもさ。あのね。
『まさか・・・アンタ忘れてたの?』
「いやいや、まさかまさか」
頭の隅に大事に仕舞っておき過ぎて取り出すのが困難だっただけでござる。
うん。 ほら、ちゃんと言われて思い出せたし?
口には出せないが、心の中でそう付け加えておく。
『・・・ふーん。 まぁいいわ。 けど! アンタが人間の街に行ってからもう3ヶ月以上経ってるんですけど!!』
「いや、まぁ、はい・・・」
『連絡も来なければ、全然ちょくちょく帰って来ないじゃないの!!』
「それは・・・」
『あん!?』
「ごめんなさい!」
「舐めたこと抜かしたらぬっ殺すぞごるぁっ!」と言わんばかりの視線で刺されて反射的に秒で謝る俺。
気の弱い奴ならショック死するだろコレ。
なんとか話をしなければ。
『うー・・・』
「でも、あのさ」
『・・・なによ』
「人間の街からここに帰って来るのって、片道で1週間近く掛かるんですよ」
いかん。
思わず敬語になってしまった。
『・・・それが?』
「往復するだけで一ヶ月の半分近くが消えちゃうの!」
『だから、ちょくちょくは帰って来れていないってこと?』
「ああ。 まぁ、はい・・・」
『ふぅん。 まぁ、アンタの言う通り時間が掛かるのは考慮してあげる。 で、連絡の方は?』
「・・・・・・連絡手段がありません! 人間の街からドリアードの里まで来る人も動物もいないし!伝書鳩も街に居る奴は弱いし!!」
『あー・・・うん。 それは、うん。そうね・・・確かに』
そうなんだよ。
この世界、連絡手段が地球に比べてえらい少ないんだよな。
伝書鳩とか現役だし。使わないけど。
行商人に頼んだりすることもあるらしいし。
『なふ』
『うふふ・・・』
今までの遣り取りをにゃーさんは欠伸混じりに眺めており、ミーはなにやら笑顔で見ている。
どうやら居間で寛いでる組からの援護は期待出来ないらしい。
『はー・・・、まぁいいわ。 帰って来たから今回は許してあげる』
「おお・・・!」
言葉に詰まっていたら、相手からお許しの言葉が出た。
そのことに内心安堵していたところに
『た・だ・し! 次はないんだからね! わかった? わかったなら返事!!』
「はいっ!!」
俺は素直な良い子なので元気良く返事して応えるぜ。
そしてこのあとはお土産攻勢でご機嫌取りを頑張らねば(ゲス)。
『お話は終わったかしら~?』
『まぁ、うん』
『なぁふ。 なう、にゃあ』
「おっふ」
俺たちの会話が切りよく途切れたところで、居間の2人から声が掛けられた。
にゃーさんからは尻尾で軽く頭ぺんぺんされてお小言混じりっぽい感じに。
多分、「ちゃんとしなさいよ」的なことだと思われる。
『コウちゃんはまだ子どもなんだから、大目に見てあげなさいね~』
『わかってるわよ。 だから今回も折れてあげたの!』
『そう。 “リーア”は良い子ね~』
『ふ、ふん。 ま、まぁ? あたしの方がお姉ちゃんだからね! しかたないわよね!』
『なっふ、にゃぁ~なう』
「・・・・・・」
この何気ない様に繰り広げられている会話をお聞き頂けたであろうか?
朝霧鋼34歳、ここでは子ども扱いである。年齢的な意味で。
基本、森に住んでいる連中の寿命が長くて成長速度が緩やかなせいではあるのだが。
こういう扱いはいつまで経っても慣れないし、ちょっと尻の据わりが悪くなる。
ちなみに。ミーはエレクと同じ300歳付近で、リーア―――俺の友人のドリアードは150歳位。
多少の差異はあるが、大体の連中は単純計算で人間の10倍近く長い寿命と、10倍遅い成長速度になっている。
外見年齢もそんな感じ。
と、なればですよ?
俺の34歳=この森では“3歳児”として扱われる訳で。
ぶっちゃけ俺と一番年齢が近いのってエレクの家のおねしょの治らない下から3番目の子なんすわ。
ちなみにオークの村では年齢喋ってないからああいう扱いだっただけであって、歳を言ったら対応は変わってたと思う。
この扱いの唯一の利点は、年齢を知っている連中の女性陣の多くが俺を幼児認識している為に“銭湯に連れて行かれた子ども”状態になることだろうか?
いや、違う違う。
あれはあれでイイモノだが、不慣れなこの世界ですることも大抵は「子どものすることだから」と大目に見てもらえて、失敗をすることが出来ることか。
・・・プライドってあれでしょ? 燃えないゴミの日に捨てたやつでしょ?ぼく知ってる。
目の前の3人の会話を、そんなことをつらつらと考えながら聞いていたら、リーアに声を掛けられた。
『あ、そうだコウ。 まだ言ってなかったわよね。 おかえり』
「あ、ああ。 ただいま、リーア」
そして俺の返事を聞いて、満面の笑みを浮かべたリーアが言う。
『違うでしょ? リーア“お姉ちゃん”でしょ?』
「いや・・・」
そうなのだ。
目の前のリーアは俺が子どもで自分の方が年上だからということで、何かにつけて俺に“お姉ちゃん呼び”を迫ってくる。
『ん?』
「えっと・・・・だな」
『んんー?』
だが考えてほしい。
三十路の俺が見た目が中高生のリーアを「お姉ちゃん」と呼んでいる様を。
無様と言うか不気味というか、犯罪臭しかしねぇ。
そんなん街中で見たら通報するわ。俺ならするね。
しかしここは異世界。
そんな俺の倫理観と常識は通用しないし、弱肉強食の世界である。
そして俺はこの中で一番弱い。
つまり・・・
「た、ただいま・・・リーアお、お姉ちゃん・・・」
『ん!よろしい!』
満足気に頬を緩ませるリーアを見ながら、俺は心の中で泣き悶えて願った。
どうかエレクの元に残してきた3人娘には知られませんようにと。切に。
お読みいただいて、ありがとうございました。




