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沖田総司の兄は、弟を救うために人生をやり直す。  作者: 炙り〆鯖
第一章 新徴組と新撰組の兄弟
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第五話 新徴組



それから一ヶ月後。


季節はすっかり春へと移り変わり、桜の花びらが舞う頃だった。


しかし、江戸に到着した林太郎たちは激動の日々を過ごしていた。


なんと長い道のりを経て江戸に到着したその数日後に、清河が何者かによって暗殺されたのである。

その後、清河の同志たちも次々と捕縛されていき、組織目的を失った浪士組は、結局幕府により江戸の治安を守る組織――「新徴組」として再組織された。



「いやぁ、まさかこんなことになるなんてな」


そう呟いたのは良之助だ。

林太郎と良之助は、市中見廻りのため江戸の街を歩いていた。


「清河先生がいない今、琴は大丈夫なのか」


良之助が清河と共に江戸に来たのは、清河が琴の存在を許容していたからだ。

林太郎は良之助にそう尋ねる。


「そう、俺も心配だったけど…まあ、今のところは大丈夫そうだ。なんせこの治安だ。腕が立つ者であれば多少は見逃されるだろう」


この頃の江戸は、不安定な幕府体制や様々な思想の流行が、治安の悪化に拍車をかけていたのである。

さらに清河が暗殺されたことにより、彼の思想に賛同していた者たちは次々と浪士組を離脱していった。結果的に、新徴組の隊士となる人数もかなり減少していた。

良之助の言うことも最もであった。


「でも、何はともあれ…お前が一緒に江戸に来てくれてよかったよ」


「そうか」


「まさかお前が同い年で、弟と妹の年齢まで同じだとは思わなかったしな。琴もお前がいると安心すると言うし。

あと、やっぱり林太郎は強い。それに、俺は理心流のことはよくわからないから勉強にもなる」


林太郎と良之助は、新徴組隊士として再会し、自然とよく言葉を交わす仲となっていた。

林太郎は仲のいい試衛館一派のほとんどと京で別れ、良之助もまた琴と二人きりで浪士組志願のためはるばる故郷からやって来た。隊内で気心の知れた者が少ないという点においても、二人はよく似ていた。


林太郎は、気づけば良之助と行動を共にすることが増えていた。


「お前も十分強いだろう。お前が使う法神流とやらは、俺は一生使いこなせる気がしないがな」


林太郎もまた、良之助の剣の腕も認めていた。


「まあ、理心流とは根本が違うだろうしな」


良之助が呟く。

天然理心流と法神流は、どこからどう見ても全く似ていない。でもだからこそ、お互いの欠点を埋め合わせることができ、戦いに有利なのだ。林太郎は、一回目の人生の時からこれを実感していた。




「そうだ、そういえばだ林太郎。あの弟から手紙は来たのか?」


良之助がふと思い出したようにそう尋ねる。


「ああ。元気にやっているようだ」


「そうか。それは何よりだ」


良之助はそう言い微笑んだ。


林太郎の元へは、既に総司から一通目の手紙が届いていた。総司自身が変わらず元気に過ごしていることを皮切りに、また近藤や土方をはじめとした京に残った者の状況も詳しく記されていた。


「新撰組と言うらしいな」


林太郎がそう呟く。

林太郎は総司たちの行く末が、一回目の人生と結果が変わらなかったことに内心安堵していた。


(とりあえず、行く宛てもなく浪人になるなんてことがなくてよかった)


「俺たち新徴組と名前が似てるよな。とは言え向こうは会津藩か。松平様も大変だろうな」


林太郎たちの所属する新徴組は庄内藩の預かりとなっていたのに対し、新撰組は会津藩預かりとなり京の市中警備を任されていたのである。その会津藩の藩主というのが、松平容保であった。


「いや、どうやら俺たちとは異なるらしい。向こうは近藤先生が局長で、組内のことは比較的一任されてるようだ」


「えー、じゃあ向こうは結構自由なんだな。こっちは厳しくて大変だよなあ」


林太郎の話を聞き、良之助は不満そうにそう言った。


新徴組は、新撰組に比べ庄内藩からの直接の支配が強く、実際新徴組の主導権を握っていたのはほとんどが庄内藩の藩士であった。

良之助の言うことも一理ある。


「いや、そうでもないらしい。総司がトシの局中法度は厳しすぎると嘆いていた」


総司からの手紙には、副長が土方となったことも記されていた。が、そうなるまで色々あったらしい。


「そうか…。まあ、自分たちで隊を指揮するのも大変だよな、楽なわけがない」


良之助は深く頷いた。

新徴組も、今の形に落ち着くまで、清河の暗殺をはじめとし、清河一派の捕縛や多くの浪士の離脱など、様々なことがあった。





「林太郎さん!お疲れ様です。そろそろ交代です」


ちょうど新徴組の屋敷が見えてきた頃、駆け寄ってきたのは兵助だった。


「そうか。ではよろしく頼む」


市中見廻りの交代だった。林太郎は手に持っていたかたばみの提灯を兵助へと渡した。

かたばみは庄内藩の家紋であり、新徴組の隊士たちが市中の警護する時はこの提灯を持つ決まりがあった。


「あれ?織衛は?俺も交代のはずなんだけど」


良之助と交代するはずの隊士は玉城織衛(たまきおりえ)という男だった。直心影流(じきしんかげりゅう)剣術を使う隊士で、腕も立つ。

しかし、その姿が見当たらない。


「それが……それはもうぐっすりと熟睡していて。僕も起こしたんですが、一向に起きないのです」


兵助は心底困ったというような表情を浮かべそう言った。


「あいつ……また寝坊か。これで何回目だ」


良之助は呆れたように額を抑える。


「叩き起しに行くか」


そう提案したのは林太郎だ。


「いや、いい。お前はもう家に帰れ。みつさんも芳次郎もお前の帰りを待っているだろう。

俺も織衛を引っ張り出して説教して、そうしたらすぐ帰る」


「そうか。でも、それでも起きなかったらどうする」


「その時は琴にでも頼むさ」


琴も兄と同じく新徴組の隊士として認められていた。そして、はっきり言って琴は強かった。特に長刀の技術は恐ろしく高く、長刀を持った彼女と本気でやり合えば、兄である良之助ですら勝てるかどうかわからない。林太郎はそう思っていた。


とにかく、そこらの浪士では琴に遠く及ばない。琴は女でありながら、新徴組の隊士として十分に戦える実力を持っていた。


「それなら大丈夫だな。では俺は先にお暇するとするか」


「ああ。林太郎、また明日」


林太郎は良之助に軽く相槌を打った後、背を向け帰路についた。




一方その頃、屋敷で休んでいた琴はくしゃみが止まらなかったそうな。


※史実では、沖田林太郎と中沢良之助は年齢差がありますが、ここでは同じくらいの歳としています。

また、玉城織衛は実際は馬場兵助の上司に当たる人物でしたが、ここでは同僚としています。

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