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沖田総司の兄は、弟を救うために人生をやり直す。  作者: 炙り〆鯖
第一章 新徴組と新撰組の兄弟
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第十一話 京へ



林太郎が京へ向かうため、江戸の街を走っている最中だった。


突然、道の向こうから悲鳴が響き渡る。林太郎は思わず足を止めた。


「あっ…!お巡りさん!助けてください、向こうで騒ぎが!」


「いや、俺は、今は……」


「その羽織、あなた新徴組でしょう!どうか助けてやってください、お願いします!」


街の人々に縋り付くように頭を下げられ、林太郎は困ってしまった。


(早く総司のところに……いや、この騒ぎを放って置く訳には)



「林太郎!兵助から話を聞いてお前を追って来たんだ」


その時、後ろから走ってやって来たのは良之助だった。


「何を考えてるんだお前は」


続けて良之助が少し怒ったような口調でそう言う。

余程急いで来たのか息も絶え絶えな様子だ。

林太郎が何かを言い返そうとしたその時だった。


「やめてください!」


再び女の悲鳴が響く。それに続き何かが倒れる音がする。

騒ぎを聞きつけたのか、二人の周りには既に野次馬のような人だかりができていた。


「おい、話は後だ。行くぞ」


「……ああ」


林太郎は良之助にそう返事をすると、二人で悲鳴のする方へ駆けて行った。






騒ぎの発端は吉原の料亭だった。


「動くな!新徴組だ!」


良之助の叫び声を聞き、十数人の浪士たちが一斉に刀を抜いた。


「刀を収めろ。抵抗すれば問答無用で斬るぞ」


林太郎が続けてそう告げる。

しかし浪士たちは一向に刀を収める素振りがない。


「ちょっとツケておいてくれたっていいじゃねえか。こわ~いお巡りさんまで来ちまった」


「そう言って、いつも払いに来ないではないですか…!」


「うるせえなぁ」


浪士の一人が店主を蹴り飛ばし、芸者の女たちから悲鳴が上がった。


「その人を離せ!」


再び良之助が叫ぶ。


「ははっ、こっちの人数見てみろよ?幕府の犬たかが二匹に何ができる?

離してほしければ来いよ」


浪士が挑発するように笑う。


「仕方がないな」


林太郎が小さく息を吐いてそう言った。

良之助は林太郎と目を合わせると、刀の柄に手を掛ける。


「お前ら、やってしまえ!」


浪士たちが一斉に動いた。






「林太郎、上!」


良之助の叫び声と同時に、林太郎は身を沈めた。

頭上を良之助の刀が薙ぐ。

良之助がそのまま敵の懐へ飛び込み刀を突き刺すと、男が崩れ落ちた。


それでも二人に休む暇はなく、次々と別の浪士が斬りかかってくる。


「お前の剣はいつまで経っても慣れない。天狗剣法とはよく言ったものだ」


林太郎がため息混じりにそう呟いた。


「褒め言葉として受け取っておくよ」


良之助がそう言い、迎え撃とうとした瞬間だった。

林太郎が、良之助に斬りかかろうとする浪士の刀を弾き飛ばした。そして怯んだ男の胴へ一撃を叩き込む。

そのまま林太郎は突き進み、斬りかかってきた二人の浪士を連続で斬った。


「……褒めてはない。変幻自在で合わせずらい」


林太郎は不服そうに返事をしながら、新たに斬りかかってきた浪士の剣を受け止める。


「でも、お前なら合わせられる」


良之助がそう言い刀を振りかざす。林太郎の背後を狙っていた浪士が地面に倒れ込んだ。






「さすがに骨が折れるなあ」


良之助が刀を構えたまま、困ったようにそう呟いた。

林太郎と良之助は自然に背中を預けていた。浪士たちはじりじりと間合いを詰めてくる。


「お前ら、怯むな!行け!」


一人の浪士の声を合図に、二人を囲んでいた浪士たちが一斉に飛び込む。



二人はしばらくそうして奮闘していたが、林太郎が不意を突かれ肩を切り裂かれる。


「林太郎!大丈夫か!」


良之助の視線がわずかに林太郎へ向いた、その一瞬だった。


「良之助、後ろ!」


良之助の背後で浪士が刀を大きく振りかざしていた。斬られる― そう思った時だった。


「兄上!助太刀いたします!」


ガキン、という金属音が大きく響いた。

良之助を斬ろうとした刃は防がれ、男は上半身を大きく切り裂かれて倒れた。


現れたのは琴だった。


「琴!どうしてここに……いや、なんだその格好」


琴の足元から頭まで見上げて、良之助は訝しげにそう言った。


「潜入していたのです!ここらは近頃良くない噂が多いですから」


琴は芸者の格好をしていた。

琴の変装はなるほど板についていて、まるで気づかなかった、と林太郎は思った。


「クソッ……三人にもなれば分が悪い!ここは一旦引くぞ!」


「あっ、おい待て!」


追いかけようとする良之助の肩を叩いた琴は、首を横に振る。


「後を追いましょう」







「やはり薩摩か」


良之助が腕組みをする。


林太郎と良之助、琴は屯所へ帰っていた。

林太郎は負傷した肩に包帯を巻いているところだった。


「ええ、最近ああいう騒ぎを起こした者はもっぱら薩摩藩邸に逃げ込むんです」


琴がそう返す。


「挑発だろうな。薩摩は戦が始まるのを待っている」


林太郎もそう呟くが、声色はどこか上の空である。





「林太郎さん!怪我をしたと聞いて…大丈夫ですか!」


心配そうに部屋に入ってきたのは兵助だった。


「ああ。掠り傷だ、問題ない。だが……」


「これで京へは行けなくなった、そうだろ林太郎」


良之助が腕組みをしたままそう言った。


「だから掠り傷だと言ってるだろう。俺は行くぞ」


「林太郎!」


腰を上げた林太郎を止めたのは良之助だった。


「一旦そこに座れ」


「……」


「林太郎」


「……わかったよ」


林太郎は渋々腰を下ろした。


「無茶ですよ林太郎さん、せめて傷が治ってからにしたら」


「それでは遅いんだ」


心配そうな顔をする琴を遮り、林太郎は呟いた。

良之助はそれを見て眉をひそめ、大きくため息を吐いた。


「林太郎、弟が心配なのもわかるが……それと同じくらい俺たちはお前が心配なんだ。

京への道もその傷で行くのは無理だし、今の京は江戸とは比べ物にならないくらい危険だ。今のお前を行かせる訳にはいかない」


「良之助さんの言う通りですよ!それでも行こうとするなら、もう僕は林太郎さんを屯所の柱に縛ってでも止めますから!」


得意気にそう言う兵助に、林太郎は苦笑いするしかなかった。



「……だったら、そんな危険な場所にいる俺の弟はどうする」


林太郎の言葉に、部屋が静まり返る。

その場にいる全員が言葉を失った。


「……それでも駄目だ、林太郎。お前が弟に会う前に倒れたら終わりだ。

わかってくれ、林太郎。お前のためを思って言ってる」


「俺のため?」


林太郎は自分でもありえない声が出たと思った。

こんなことを良之助に言っても意味がない、言ってはいけない。そう思っていても、勝手に口が開いていた。


「お前はいいよな。妹が近くにいて、元気に生きていて。

良之助、お前に俺の気持ちはわからないさ」


やってしまった、と思った時にはもう遅かった。


法神流は天狗剣法とも呼ばれていたそうです。

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