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沖田総司の兄は、弟を救うために人生をやり直す。  作者: 炙り〆鯖
第一章 新徴組と新撰組の兄弟
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第十話 山南の死



それから一月経った。


弥一郎は気持ちが少しは落ち着いたのか、芳次郎と共に新徴組隊士として働くようになっていた。


しかし、林太郎は焦る思いが隠せないでいた。


(トシはなぜ返事を寄越さないんだ……。何かあったのか?

一刻も早く総司を療養させなければならないのに!)


「また手紙待ちですか。父上は文通がお好きなんですね」


林太郎の顔を見てそう言ったのは芳次郎だった。


「別に好きではない。仕方なくだ」


「隠さなくていいですよ。顔に書いてあります」


芳次郎は林太郎の顔をじっと見つめてそう言う。

林太郎はその様子を見て、はぁと溜息をこぼした。


「……そうか。それより弥一郎は最近どうだ」


「最近は泣かなくなったので慰める必要もなくて、助かっています」


顔色ひとつ変えずにそう返す芳次郎に、林太郎は思わず眉をひそめた。


(こいつはどうしてこう、可愛げの欠片もないんだ…。みつは俺に似てるとか言っていたが、いったいどこがだ)





「林太郎さん、総司さんから文が」


頭を悩ませている林太郎にそう声をかけたのはみつだった。


「!本当か」


林太郎はすぐさま手紙を受け取り中身を開いた。




― 兄さんへ


今月は少し遅くなっちゃってごめんなさい。

色々忙しかったんだ。


でも、僕は元気だよ。この前もたくさんの攘夷浪士を捕まえて近藤先生や街の人にたくさん褒められたんだ!


新撰組の仕事は楽しいし、僕はちゃんとやってる。だから大丈夫だよ。




それと、山南先生が亡くなられた。悲しいけど、山南先生の分まで僕も頑張らなくちゃ。


また手紙書くね。


総司 ―





「そうか、山南さんが……」


林太郎はそう呟きながら、そっと手紙を閉じた。


(山南さんが亡くなるのは知っていた。だが、こんなにも早い時期だったのか……。

亡くなったとしか書かれてないが、死因は何だ?あの人も強い、攘夷浪士なんかに簡単にやられるとは思えないが…)


「そう……あの方、亡くなられたのね」


いつの間に手紙を覗いていたのか。みつは悲しそうな顔でそう呟いた。


「私はそこまで詳しくは存じ上げませんけれど…。

とても心優しいお方でした。

……でも、総司さんは元気でやっているみたいだし、よかったですね林太郎さん!」


みつは、林太郎がやたらと総司のことを心配しているのを気づいていた。無理に明るい声を出そうとしているのが林太郎にもわかった。


「ああ、そうだな。京は攘夷浪士の巣窟だし、江戸よりも危険が多い。こういうこともある」


林太郎もそう返す。


「母上、その袖口から出ているものはなんですか」


唐突にそう呟いたのは芳次郎だった。

みつの着物の袖口から、白い紙の端が覗いていた。


「あら、すっかり忘れてた!林太郎さん、あなたにもう一通文が届いていたんでした」







「……どういうことだ」


林太郎は自分の目を疑わずにはいられなかった。

その手紙の差出人は、またもや永倉であったからだ。





― 山南先生は切腹された。立派な最期であった。


山南先生は新撰組から脱走した罪を問われて、局中法度に則り切腹を言い渡された。

追っ手に選ばれたのは総司だ。そして先生の介錯をしたのも、総司だった。


総司は隠しているつもりかもしれないが、ひどく落ち込んでいるように見える。


俺と原田は先生に再度逃げるよう勧めたが、駄目だった。先生は最初から死ぬつもりだったらしい。


俺からしても、最近の副長には思うところがある。

あいつが作った法度がなければ山南先生も死ぬことはなかった。

それに、俺にはわかる。副長が追っ手に総司を選んだのは、総司が行けば先生は逃げられないと踏んだからだ。


奴はいよいよ鬼になった。恐怖で新撰組を締め付けようとしている。



俺もそろそろ、新撰組に居続けるのは我慢ならないかもしれない。


林太郎。あの時、俺もお前と江戸に戻っていたら、何か違ったのだろうか。

最近はそのようなことばかり考えてしまって、どうしようもないのだ。 ―





(山南さんが切腹されられた…?それに介錯をしたのは総司だと?

総司は山南さんをそれこそ兄のように慕っていたし、山南さんも総司のことを可愛がってくれていた。それなのに……)


「クソ!トシの野郎何考えてるんだ!」


林太郎は思わず拳で机を大きく鳴らした。


林太郎はもう一通の手紙の差出人が永倉だと知るといなや、嫌な予感がしたので自室で一人で封を開けたのであった。みつと芳次郎はこの場にはいない。


総司を休ませてほしいと、そう忠告したのに。なぜ。なぜ総司をそこまで追い詰める。

林太郎はそう思わずにはいられなかった。






「……ということらしい」


「そんな、山南先生が切腹だなんて……」


林太郎は、兵助に山南のことを打ち明けていた。

かつての試衛館の仲間として、兵助にも伝えねばならないと、林太郎はそう思ったのである。


兵助はにわかに信じ難いというような表情で、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。


「新撰組の内部が今どうなっているのか、もはや俺には全くわからん。近藤先生やトシが何を考えているのかも」


「そう……ですよね。あんなにいい人が切腹させられたなんて、何かの間違いかと思いたいくらいです…。

しかも、総司に追わせて介錯までさせるなんて……」


兵助の声は震えていた。


「総司は、いったいどんな思いで……」


兵助はそこまで言いかけて、その場に蹲ってしまった。床の畳にぽつぽつと涙の染みができていた。


「……総司は山南さんのことを俺に隠していた。切腹のことも、介錯のことも」


「…!どうして総司は、そうやっていつも一人で抱え込むんだ!

林太郎さん、総司のことをどうにか助けてあげてくださいよ…!このままじゃあまりにも可哀想です!」


兵助の声は大きくなった。


「そんなこと、俺が1番わかっている!」


「!」


林太郎が声を荒らげた。兵助はハッとした表情で口を噤んだ。


「わかっているんだ……俺だって……。だから江戸に一緒に戻ろうと、そう何度も言ったのに……」


林太郎の声は徐々に小さくなり、ついには黙り込んで下を向いた。


「……すみません、林太郎さん。僕が言い過ぎました。林太郎さんが総司のことを心配していない訳がないのに」


「いや、俺も頭に血が上っていた。すまない」


お互いに頭を下げた後、両者は再び黙り込んだ。

長い沈黙がその場を支配していた。




「俺は今から京へ行く。新撰組はおかしい」


先に沈黙を破ったのは林太郎だった。


「今から…!?気持ちはわかりますけど…!

みつさんや芳次郎を置いて行くつもりですか!?」


兵助の悲痛な声に、林太郎は痛いところを突かれたように目を見開いた。


「……そうだな。お前の言うことは正しい。

けどな兵助、総司だって俺の家族なんだ。

近藤先生やトシ、永倉たちもいるのはわかってる。

それでも、総司にとって兄は俺だけだ」


「林太郎さん……」


「ここで総司を見捨てたら、俺は一生兄を名乗れない。だから行かせてくれ」


林太郎は兵助に頭を下げた。


ここまで言われると、兵助はもう林太郎を止めることはできないと思った。


「……わかりました。京は危険ですから、くれぐれもお気をつけて。総司にもよろしくお伝えください」


兵助の返事を聞いて林太郎は深く頷くと、屯所を走って去って行った。


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