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2026年9月3週目。昼のカレー五食完売!!感慨深いwww

 九月三週目の土曜日。

 朝からホットクックが静かに湯気を上げていた。

 玉ねぎを切り、人参を切り、じゃがいもを切る。

 いつものように材料を入れ、ルーを溶かす。

 五食分。

 今週も限定五食だった。

 先週は四食売れた。

 最後の一食は自分で食べた。

 だから今日は、「五食で足りるやろ」という気持ちと、「もし足りへんかったらどうしよう」と

 いう気持ちが半分ずつあった。

 とはいえ、一つだけ先週と違うことがあった。

 前日の夜、DMが一件届いていた。

『明日の昼、行きます。』

 たった一行だった。

 予約というほど大げさなものではない。

 それでも、「一人は来る」ということが分かっているだけで、気持ちは驚くほど楽だった。

「ゼロではない。」

 その安心感だけで、包丁を持つ手も軽かった。

・・・・・・・・・・・・・・

 十一時。

 店を開ける。

 先週ほどソワソワしない。

 誰も来なくても仕方ない。

 そんな気持ちは残っていたが、一人は来てくれると分かっている。

 だから今日は、パソコンを開いて小説を書こうという余裕まであった。

 昼の十一時頃。

 階段を上がる音が聞こえた。

 扉が開く。

「こんにちは。」

「どうぞどうぞ。」

 DMをくれた視聴者だった。

「本当に来てくれたんですね。」

「約束しましたから。」

「ありがとうございます。」

 博之は笑顔でカレーをよそい、ウーロン茶を出した。

「はい、千円です。」

「安いですよ。」

「え?」

「カレー食べて、おじさんと喋れて千円でしょう?」

 博之は苦笑した。

「いやいや、そんな価値あるか分からへんで。」

「ありますよ。」

「お世辞ちゃう?」

「ほんまです。」

 その一言が素直にうれしかった。

 食べに来たというより、話しに来た。

 そんな店を目指していたからだ。

 二人でゆっくり話していると、また扉が開いた。

「あ、おじさん。」

「おっ、先週来てくれたやん。」

「また来ました。」

「一週間で寂しくなった?」

「ちょっとだけ。」

「早いな。」

 店内に笑いが広がる。

 その人も自然にカウンターへ座り、カレーを注文した。

 初対面同士だった二人も、動画の話や仕事の話をきっかけに少しずつ会話へ入っていく。

 誰かが笑う。

 誰かが話を広げる。

 博之は時々カレーを運び、時々話に加わる。

 店というより、友達の家に集まっているような空気だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 午後一時を回る頃には、また一人、また一人と階段を上がってきた。

「こんにちは。」

「YouTube見て来ました。」

「小説も読んでます。」

 そんな言葉を聞くたびに、博之は少し照れくさくなる。

 気付けば、五食目のカレーをよそうことになった。

 炊飯器を開ける。

 最後のご飯。

 ホットクックの最後の一杯。

「はい、お待たせしました。」

 五人目へカレーを出した瞬間、鍋の中は空になった。

 博之は思わずホットクックの中をのぞき込む。

「……終わった。」

 思わず笑ってしまった。

「どうしたんです?」

「いや。」

「初めてや。」

「何がです?」

「五食、全部売れた。」

 店内から小さな拍手が起きた。

「おめでとうございます。」

「ありがとうございます。」

 たった五食。

 飲食店としては、決して多くない。

 それでも博之にとっては、大きな一歩だった。

 最初は二十食作って、一杯五百円で売ろうと考えていた。

 だが、管理人にも、コンカフェのオーナーにも、バーのマスターにも止められた。

 安売りするな。

 一人で回せる規模にしろ。

 その結果が、五食限定、カレー八百円、ドリンク二百円だった。

「結局、この値段で正解やったんちゃいます?」

 一人がそう言った。

「五百円で売るつもりやったんですよ。」

「ほんまですか?」

「最初は。」

「それやったら、今日の五食って、五百円の十食売ったぐらいの感覚じゃないですか。」

「利益で考えたら、そうやな。」

「ホットクックも一回で済みますし。」

「それが一番助かる。」

 もし十食売れていたら、昼の途中でもう一度カレーを仕込まなければならない。

 洗い物も増える。

 時間もかかる。

 その手間を考えれば、今の形の方がずっと現実的だった。

・・・・・・・・・・・・・

 その時だった。

 扉が開いた。

「こんにちは。」

「いらっしゃ……あ。」

 見知らぬ男性だった。

「カレー、あります?」

 博之は申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。今日、ちょうど売り切れてしまったんです。」

「えっ、人気なんですね。」

「いやいや。」

 博之は苦笑する。

「限定五食なんで。」

「ああ、そういうことか。」

「せっかく来てもらったのに、すみません。」

「いや、大丈夫です。」

「ウーロン茶ぐらいやったら出せますけど。」

「じゃあ、それお願いします。」

 男性はソファ席へ座った。

 ウーロン茶を飲みながら、店の雰囲気を眺める。

 他の客も自然に話へ加わる。

 カレーは食べられなかった。

 それでも、一時間ほど雑談を楽しんでいた。

 YouTubeのこと。

 小説のこと。

 仕事のこと。

 大阪のこと。

 初対面同士とは思えないほど、ゆっくり時間が流れていく。

 時計を見ると、午後三時が近づいていた。

「今日は昼営業終わります。」

 博之は笑いながら言った。

「夜も営業するんで、もしまだ喋り足りへんかったら、また来てください。」

「夜もやるんですか?」

「はい。近くにネットカフェもありますし、時間つぶして戻ってきてもらってもええですし。」

 すると別の客が笑った。

「せっかく知り合ったんやし、そこらでコーヒーでも飲んできますか。」

「それもええですね。」

 そんな会話が自然に生まれていた。

 客同士が連絡先を交換するわけでもない。

 それでも、この店がきっかけで、少しだけ輪が広がっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 全員を見送ったあと、店内は静かになった。

 博之はホットクックの空っぽの鍋を見つめる。

 五食完売。

 そして、一人は食べられなかった。

「もったいなかったかな。」

 一瞬そう思った。

 だが、すぐに首を振る。

 カレーは売り切れた。

 それでも、その人は帰らず、一時間話してくれた。

 この店は、カレーだけを売っているわけではない。

 話す時間も、この店の商品なのだ。

 六席しかない小さな店が、一時は満席に近い状態になった。

 昼の営業で、そんな景色を見られるとは思っていなかった。

「十分やな。」

 博之はそうつぶやき、空になった鍋を流しへ運んだ。

 夜は、また違う時間が始まる。

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