エピローグ
憑依能力。系統的に言えば、憑依術。
「・・・もしもし!! もしもーし!!」
「聞こえてるよっ!! 何だよ!!」
「何だよじゃねェよ!! もう子供生まれちまッたよ!!」
「ええっ!? マジで!?」
憑依能力とは、術者が対象に直接触れることで術者の意識を対象に乗り移らせ、対象を術者の思うがままにコントロールできる能力。
それは、対象に意識があろうとなかろうと関係なく、強制的に対象の意識を押し退けることができる。また、解除の際、術者の意識は距離に関係なく術者の体へと戻る。
「マジだよ、マジ!! こんな大事なときに何やッてんだ!!」
「仕事なんだから仕方ないだろ!! あ、ところでさ、ツバメ、怒ってる・・・?」
「怒ってるよ!!」
「うおッ!! ツバメか!!」
シャーマンやイタコなどが扱う、術者の肉体に死者の精神を乗り移らせる降魔術とは少し勝手が違う。
「ったく、人に子供生ませといて、自分はお仕事かっ!!」
「だから、仕方ないだろ!! 通報が入ったんだから!!」
「もう・・・。ところで決めたの? 子供の名前」
欠点は、術者の意識は対象へと移ってしまうため、術者は術中、文字通り「気を失った」状態になってしまうという点だ。
「え、えっとぉ〜、え〜、その」
「決めてないの・・・?」
「いやいや決めてたよ!! えっと、あ、そだ、ツバキ!!」
「ツバキ?」
「そう、ツバメのツバと、ユウキのキで、ツバキ」
「と・・・?」
「と?」
「双子だってこの前言ったじゃない!!」
また、この世には憑依能力を代々受け継ぐ血筋が存在し、今でも一般人と何ら変わりのない生活を送っている。
彼らは先天的に憑依能力の才を持つが、決して初めから完成されたそれを備えるというわけではない。精神力を高めることで憑依能力は向上、進化し、徐々に高度な憑依技術を覚えていく。
「え、じゃ、じゃぁ・・・。そだ!! ユメ!! 男の子はツバキで、女の子の方は、ユメ!!」
「今度はユウキのユと、うちのメ?」
「おうよ!! いい名じゃね!?」
「安直すぎてヘドロが出るわ」
「ヘドじゃなくて!?」
憑依能力には幾つか種類がある。生命体に憑依する「生物憑依」は憑依術の基本だが、その派生として、遠距離の対象に憑依する「遠隔憑依」や、複数の生命体に憑依する「多重憑依」、無機物に憑依する「非生物憑依」、意識を等分してその意識の一部だけを憑依させる「分身憑依」などがある。
ただ、利点の多い術ほど習得は困難であり、高い精神力を必要とする。難易度の高い憑依術を発現できないままに一生を終える者も少なくない。
「まったく。そっちも忙しいんでしょ? さっさと仕事済ましてきなさいよ!!」
「了解!!」
今から七年前、春の麗らかなな日差しの中、一人の青年が憑依術の基本である「生物憑依」を習得した。
そこから、一つの物語は始まり、そして終わりを告げた。
「今の状況は?」
「おおチキンソウルさんですか!! あのベランダで泣いてる子です。火は初めよりは弱まりましたが・・・」
「大丈夫です。少し下がってて下さい」
その青年は大人になり、チキンソウルと呼ばれた。
「あの、イトウさん、なんでチキンソウルなんですか?」
「お前は新米だから知らないか。異名だよ。あの人、憑依能力が使えるんだ」
「ひょ、憑依!?」
「ああ。で、チキンソウルってのは、彼の妻がつけた名らしい」
「えぇ〜、信じられねぇっすよ。そんなの。あっ!! 子供出てきた!!」
「よし、保護してこい」
今はその憑依能力を使って、かつて恩師がしてくれたように、火事場などで逃げ道が分からない人や、泣いて動けない子供を救っている。
「じゃ、俺はこれで!!」
「もう行ってしまわれるんですか」
「はい。今日は子供の、誕生日なんで」
ここから、一つの物語が、また始まる。
そしてこれからも、続いていく。
完結です。
あとがきみたいなのを活動報告に書いておきましたので、できればお越しください。
とりあえず、ありがとうございました。