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 春陽は自室で分厚い本を読んでいた。

『天華国史書』と書かれた本には、国の成り立ちやこれまでの歴史が細々と記載されている。

 本来、これを読めるのはこの国の帝のみ。代々帝の部屋で厳重に保管されているはずだが、だらしのない兄は手の取りやすい所に置いたままにしていた。それを借りてきたのだ。

 ここに、雪花が抱えているものに関する何かが書かれていないかと一縷の希望を胸に。

 

 初めは偶然だと思っていた。

 何らかの事情でたまたま彼女の近くに氷があったり、六花殿が北側に位置するから寒さが強かったりするのだと自分にいいように解釈していた。

 しかし、先日氷の中に身を置く雪花を見れば、偶然などと言っていられない気がした。

 春陽の中で、彼女が何かしらの力を無意識に発しているのではないかという結論に至ったのだ。決して誰かを陥れようとか巻き込もうとか、そういった気は雪花からは一切感じられない。

 そしてもしかしたら、彼女が感情を表さないのも、そこに訳があるのではないかと考察した。

 本の隅々まで目を通す。読み落としのないようにくまなく探した。

 

(……これは、どういうことだ?)

 

 春陽がある頁に差し掛かった時、ふと手が止まった。

 美しい顔の眉間に、しわが寄っていく。

 

(これは初めて知った……いや、違う。どこかで聞いたことがある……)

 

 それは初めて知ったように思えて、どこか既視感のある情報だった。

 春陽は頭を捻る。思い出したいが、思い出せない。思い出そうとすると、頭がズキズキ痛んだ。

 

(これを管理しているのは兄上と、それから……敦矢殿だ。敦矢殿なら何か分かるかもしれない)

 

 帝に何かあった時のために閲覧を許可されている唯一の人物、文官の中でも最高位に位置する敦矢。

 彼なら何かわかるかもしれないと、淡い期待を抱く。

 

「和正」

 

「はっ」

 

「これから敦矢殿のところへ行く。これらを運んでくれ」

 

「承知しました」

 

 必要そうな書簡をかき集め、春陽は部屋を出て、敦矢の元へ急いだ。


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