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第九十八回:「弥次喜多」続編
文化十三年。霜月も終わる頃。江戸は日本橋。
橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いていた。
提灯に書かれている屋号は「清吉」。暖簾には「二八」と書いてあった。
常連客が暖簾を上げた。
「天ぷら、頼むよ」
「あいよ。天ぷら一丁ね」
店主は蕎麦を一束、鍋に滑り込ませた。
「どうしたい、店主。今日はご機嫌だねぇ」
常連客が尋ねた。
店主は答える。
「……そう見えますかい……特に何もありゃしませんが……」
常連客は言葉を継いだ。
「いつぞやは、眉間から皺が取れてなかったが、今日は逆だね。随分と柔和に見えるよ」
「……さいですか……あのときは失礼しやした……」
常連客は笑った。
「まぁ、なんにせよ、機嫌がいいのはいいこった」
「……ありがとうございます……はいよ、天ぷら、お待ち」
店主は天ぷら蕎麦の椀を常連客へ差し出したのだった。
「やってるかい」
別の常連客が入ってきた。
「いらっしゃい。何にしましょう」
店主は注文を聞くのだった。
今日最後の客が帰って行った。
店主はいそいそと帰宅準備をする。
屋台の棚には、十返舎一九の「弥次喜多」の続編が置いてあった。
新刊ではないが、店主がようやく手に入れた一冊だった。
霜月の風が吹き、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。




