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夜鳴き蕎麦徒然草子  作者: いわん
第十部:文化十三年、江戸日本橋。

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第九十八回:「弥次喜多」続編

文化十三年。霜月も終わる頃。江戸は日本橋。

橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いていた。

提灯に書かれている屋号は「清吉」。暖簾には「二八」と書いてあった。


常連客が暖簾を上げた。

「天ぷら、頼むよ」

「あいよ。天ぷら一丁ね」

店主は蕎麦を一束、鍋に滑り込ませた。

「どうしたい、店主。今日はご機嫌だねぇ」

常連客が尋ねた。

店主は答える。

「……そう見えますかい……特に何もありゃしませんが……」

常連客は言葉を継いだ。

「いつぞやは、眉間から皺が取れてなかったが、今日は逆だね。随分と柔和に見えるよ」

「……さいですか……あのときは失礼しやした……」

常連客は笑った。

「まぁ、なんにせよ、機嫌がいいのはいいこった」

「……ありがとうございます……はいよ、天ぷら、お待ち」

店主は天ぷら蕎麦の椀を常連客へ差し出したのだった。

「やってるかい」

別の常連客が入ってきた。

「いらっしゃい。何にしましょう」

店主は注文を聞くのだった。


今日最後の客が帰って行った。

店主はいそいそと帰宅準備をする。

屋台の棚には、十返舎一九の「弥次喜多」の続編が置いてあった。

新刊ではないが、店主がようやく手に入れた一冊だった。


霜月の風が吹き、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。


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