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第九十五回:恵比寿さま参り
晩秋。江戸は日本橋。
橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いていた。
提灯に書かれている屋号は「清吉」。暖簾には「二八」と書いてあった。
「おい、出かけるぞ」
店主は若者に声をかけた。
「……天ぷらの仕入れ、ですか?」
「それもあるが……まぁ、さっさと支度しな」
店主と若者は連れ立って歩いていた。
いつもの天ぷらの四文屋とは違う方向へ向かう。
たどり着いたのは。
宝田恵比寿神社だった。
店主は黙って、境内へと入った。
若者もそれに倣う。
店主は賽銭を入れ、祈った。若者も祈った。
授与所へと向かう。
店主は尋ねた。
「……商売繁盛の札を授かりたいのですが……」
授与所の巫女は答えた。
「それではこちらに初穂料をお納めください」
店主は、初穂料を納めると、お札を受け取った。
大事に懐へとしまう。
そうして、神社を後にした。
その日の夜。
今日の「清吉」は平穏だった。
酔っ払いも、騒がしい客も来なかった。
常連客も、一見客も、皆、美味しそうな表情で、熱々の蕎麦に舌鼓を打っていた。
皆のほころぶ顔を見て、店主は安心するのだった。
屋台の棚の上には「商売繁盛の札」が置かれていた。
日本橋の夜風に吹かれて、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。




