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夜鳴き蕎麦徒然草子  作者: いわん
第十部:文化十三年、江戸日本橋。

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第九十五回:恵比寿さま参り

晩秋。江戸は日本橋。

橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いていた。

提灯に書かれている屋号は「清吉」。暖簾には「二八」と書いてあった。


「おい、出かけるぞ」

店主は若者に声をかけた。

「……天ぷらの仕入れ、ですか?」

「それもあるが……まぁ、さっさと支度しな」


店主と若者は連れ立って歩いていた。

いつもの天ぷらの四文屋とは違う方向へ向かう。

たどり着いたのは。

宝田恵比寿神社だった。


店主は黙って、境内へと入った。

若者もそれに倣う。


店主は賽銭を入れ、祈った。若者も祈った。


授与所へと向かう。

店主は尋ねた。

「……商売繁盛の札を授かりたいのですが……」

授与所の巫女は答えた。

「それではこちらに初穂料をお納めください」

店主は、初穂料を納めると、お札を受け取った。

大事に懐へとしまう。

そうして、神社を後にした。


その日の夜。

今日の「清吉」は平穏だった。

酔っ払いも、騒がしい客も来なかった。

常連客も、一見客も、皆、美味しそうな表情で、熱々の蕎麦に舌鼓を打っていた。

皆のほころぶ顔を見て、店主は安心するのだった。

屋台の棚の上には「商売繁盛の札」が置かれていた。


日本橋の夜風に吹かれて、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。


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