↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜鳴き蕎麦徒然草子  作者: いわん
第八部:文化十一年、江戸日本橋。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/99

第七十八回:「物書き老人」再訪。

初冬。江戸は日本橋。

橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いていた。

提灯に書かれている屋号は「清吉」。暖簾には「二八」と書いてあった。


「やってますかい」

老人が暖簾を上げた。いつぞやの「話好きの物書き老人」だった。

「……これは、ご隠居。お久しぶりです」

「『ご隠居』呼びはやめてくれい。老いた身じゃが、まだこれでもご奉公しておるんじゃ」

老人は力強く言った。

「……これは失礼しました。で、今日は何にしましょう」

「天ぷら、ちうのは、なんの天ぷらかね?」

「今日は、芝エビのかき揚げで」

「芝エビ!そいつはいい。それをいただこう」

店主は蕎麦を一束茹で始めた。

「……そういや、物書きしている、と前におっしゃてましたが、どんなものを?」

「……くだらないことを覚えてるのう……」

「物書きじゃないんですかい?」

「趣味で書いてるだけじゃ。世に出す予定もない」

「さいですか……ぜひ、読んでみたく思ったんですがね……」

「貸本で、三馬や一九、馬琴を読む方がマシじゃ。わしみたいな素人よりもよっぽど読み応えがあるぞい」

「さいですか……はいよ、天ぷら、お待ち」

店主は老人に天ぷら蕎麦を差し出した。

老人は蕎麦を啜り、芝エビのかき揚げを一口齧る。

「蕎麦の出汁とかき揚げが絶妙で……これは美味いのう……」

「お褒めに預かり光栄ですが、それ、『四文屋』の天ぷらですぜ」

「……ほう……じゃが、大店の天ぷら蕎麦より美味いぞい。なぜじゃろう……」

「もしかすると、そこは、その店で揚げてるのかもしれやせん。でも、たとえ四文屋でも、餅は餅屋。天ぷらは天ぷら屋、でさぁね」

「……うむ……そうかもしれんのう……」

そう言って老人は、天ぷら蕎麦を楽しむのだった。


初冬の夜風に吹かれて、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。


翌日。南町奉行所。

その日のお奉行は、一日中、ご機嫌だった。

――「清吉」の蕎麦はそんじょそこらの大店より美味い。さて、次はいつ行けるのやら……

お奉行の機嫌の良さの理由を知らない同心たちは首を傾げるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。