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夜鳴き蕎麦徒然草子  作者: いわん
第六部:文化九年、江戸日本橋。

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第五十四回:魚河岸の寿司屋台。

秋。江戸は日本橋魚河岸。そこには多くの寿司の屋台があった。

八丁堀は岡っ引きたちを引き連れ、魚河岸を見回っていた。

「邪魔するよ」

八丁堀は、一つの寿司屋台を訪れた。

「……ついこの間、そこの屋台で食当たりが出たろう。お前んところは大丈夫か?」

寿司屋台の主人は答えた。

「うちは大丈夫ですよ。なんなら、食べてっても構わんですぜ、旦那」

「……いや、そこまでしなくていい。気をつけてくれよな」

そうして、八丁堀は次の寿司屋台に向かった。

「おい」と次の寿司屋台の主人に声をかけようとした時。

そこに「清吉」の店主がいた。

「……清吉の。なんでこんなところに……」

「……なんでって……寿司を食いにきたに決まってるじゃないですか、旦那」

その手にはコハダの寿司があった。

「……それもそうだな……」

「八丁堀の旦那も昼飯に寿司ですかい?」

そう言いながら、店主はコハダの寿司を頬張った。

「そうなら気楽なんだがな……見廻りだよ。ついこの間、そこの寿司屋台で食当たりが出たんでね」

「……食当たりで旦那が見廻り……???」

店主は首を傾げた。

「……まぁ、そういうこともあるんだ。行くぞ!」

そう言い残して、八丁堀は部下と一緒に去っていった。


その日の夜。江戸は日本橋。

橋の袂の夜鳴き蕎麦屋「清吉」。提灯に灯りが付いていた。

八丁堀がその暖簾を上げた。

「いらっしゃい……って、旦那ですかい」

八丁堀の顔は疲れていた。

「かけ……いや、花巻を頼む……」

「あいよ。花巻一丁ね」

店主は、蕎麦を一束、茹で始めた。

「……旦那。随分疲れてますね……」

「昼に見廻り、さっきまで詮議書書きだ。疲れもするさ……」

「……さいですか……」

「とある武家の使用人が食当たりで死んでな。それで御達が来たのよ。『魚河岸の寿司屋台を検分せよ』ってな」

「お武家さんの使用人が、ですか」

店主は茹で上がった蕎麦を湯切りした。

八丁堀の愚痴は止まらない。

「……随分と可愛がられてたみたいでなぁ。主人の嘆きっぷりったら、そりゃ酷かったらしい」

「ほほう」

「で、そこから、寿司屋台の検分の御達さ。とんだとばっちりだよ……」

店主は黙って椀に蕎麦を開け、出し汁をかけた。

蕎麦の椀にちぎった海苔を乗せた。

「はいよ。花巻、お待ち」

店主は花巻蕎麦を八丁堀に差し出した。

八丁堀は、蕎麦の椀を受け取る。

「本当に、今日は疲れたぜ……」

八丁堀は出し汁を啜った。

「カァーッ……出し汁が五臓六腑に染み渡る……」

そうして、八丁堀は蕎麦を啜るのだった。


秋の夜風に吹かれて、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。


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