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夜鳴き蕎麦徒然草子  作者: いわん
第五部:文化八年、江戸日本橋。

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第四十六回:天ぷら蕎麦の「具」

秋も深まった頃。江戸は日本橋。

橋の袂の「夜鳴き蕎麦屋」。屋号は「清吉」。

その店主は今日の分の蕎麦を打ち終えると、蕎麦の具材を仕入れに行った。

馴染みの天ぷら屋へと顔を出す。


天ぷら屋は店主に告げた。

「今日は、芝エビのかき揚げは終いだ」

店主は驚いた。

「そいつは困る。具なしじゃ『天ぷら蕎麦』は作れねぇ」

天ぷら屋は尋ねた。

「芝エビ以外じゃだめかい?」

店主は答える。

「いいもんだったら、かまいやしねぇが……何があるんだい」

「ちと早いが、青柳の貝柱、なんてのはどうだい」

「……味見してもいいかね?」

天ぷら屋は青柳の貝柱のかき揚げを店主に差し出した。

「ほらよ。四文な」

店主は毒づいた。

「銭は取るのかい……はいよ、四文だ」

店主は、青柳の貝柱のかき揚げを食べた。

自分の蕎麦に合うか、確かめるように咀嚼する。

そして飲み込んだ。店主は頷いた。

「……うむ。これも悪くねぇな……」

天ぷら屋は告げた。

「今日はこいつならあるぜ。買ってくかい?」

店主は頷いた。

「あぁ、今日はこいつで頼む。いつもの量をくれ」

「毎度ありぃ」

天ぷら屋は、青柳の貝柱のかき揚げを揚げはじめた。


その日の夜。江戸は日本橋。夜鳴き蕎麦「清吉」。

常連客が店主に尋ねた。

「今日は芝エビじゃないのかい」

店主はぶっきらぼうに答えた。

「天ぷら屋に芝エビがなかったんでね。今日は青柳の貝柱で」

「……わかった。そいつをもらおうか」

常連客が「青柳の貝柱の天ぷら蕎麦」を注文した。

店主は、蕎麦を一束、茹で始めた。

茹で上がった蕎麦の湯切り音が客の耳に届く。

湯気とともに出し汁の香りが鼻をくすぐる。

出し汁がかけられた蕎麦の椀に、青柳の貝柱のかき揚げが乗せられた。

かき揚げに出し汁がじんわりと染みていく。

「あいよ、天ぷら一丁」

店主は、天ぷら蕎麦の椀を差し出した。

常連客が天ぷらを食べて、目を見開いた。

「……これも美味いねぇ。もしかして、どんな天ぷらも蕎麦に合うのか……」

続いて注文した八丁堀も頷いた。

「青柳の貝柱も悪くねぇな……これも、いい塩梅だ……」

「……仕入れ次第で天ぷらの具材はこれからも変わるかもしれません。ですが、これからもご贔屓に」

店主は常連客にそう告げるのだった。


秋の深まりを告げるように、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。


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