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夜鳴き蕎麦徒然草子  作者: いわん
第四部:文化七年、江戸日本橋。

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第三十四回:海苔の大不漁

日本橋の夜鳴き蕎麦屋。屋号は「清吉」。

その店主は困っていた。

花巻用の海苔が手に入らないのだ。

仕入れ元の棒手振りが「海苔が高い。仕入れられない」と愚痴っていた。

「大森でも品川でも、海苔が獲れないらしいですぜ」

店主が直接、海苔を問屋に仕入れに行った。

やはり、値段が跳ね上がっている。とても買えた物ではなかった。

――こいつは厳しいな……

店主は悩むのだった。


その日の夜。江戸は日本橋。

橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いていた。

提灯に書かれている屋号は「清吉」。暖簾には「二八」と書いてあった。

品書きから「花巻」が消えていた。


常連が「花巻は?」と聞く。

「しばらくは終いでさ。海苔がなくてね」

「……そうかい……」

常連客が寂しそうに呟いた。

「代わりにしっぽくの具を増やしましたぜ」

「……いや、今日はかけを頼むわ……」

常連客はかけ蕎麦を注文した。

店主は、蕎麦を一束、茹で始めた。

隣でかけ蕎麦を啜っていた八丁堀が口を開いた。

「江戸中で海苔が無ぇらしい。大不漁だとよ。お上に献上する分も危ういらしい」

店主は沈黙するばかりだった。

――さて、どうすべきか……


寂しい風に吹かれ、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。


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