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第三十四回:海苔の大不漁
日本橋の夜鳴き蕎麦屋。屋号は「清吉」。
その店主は困っていた。
花巻用の海苔が手に入らないのだ。
仕入れ元の棒手振りが「海苔が高い。仕入れられない」と愚痴っていた。
「大森でも品川でも、海苔が獲れないらしいですぜ」
店主が直接、海苔を問屋に仕入れに行った。
やはり、値段が跳ね上がっている。とても買えた物ではなかった。
――こいつは厳しいな……
店主は悩むのだった。
その日の夜。江戸は日本橋。
橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いていた。
提灯に書かれている屋号は「清吉」。暖簾には「二八」と書いてあった。
品書きから「花巻」が消えていた。
常連が「花巻は?」と聞く。
「しばらくは終いでさ。海苔がなくてね」
「……そうかい……」
常連客が寂しそうに呟いた。
「代わりにしっぽくの具を増やしましたぜ」
「……いや、今日はかけを頼むわ……」
常連客はかけ蕎麦を注文した。
店主は、蕎麦を一束、茹で始めた。
隣でかけ蕎麦を啜っていた八丁堀が口を開いた。
「江戸中で海苔が無ぇらしい。大不漁だとよ。お上に献上する分も危ういらしい」
店主は沈黙するばかりだった。
――さて、どうすべきか……
寂しい風に吹かれ、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。




