第二十四回:物価高
とある長屋。日も明けた頃。
「清吉」の店主は帳面を前に腕組みをしていた。
ここしばらく続く物価高。米、醤油、鰹節。蕎麦粉の仕入れ値も高くなってきた。
――さて、どうしたものかな……
「値上げするか?」
首を横に振った。かけ蕎麦は十六文。
「具を減らすか?」
再び首を横に振った。具を減らしたところで大した差は出ない。
店主は決断した。
――仕方あるまい……
店主は利益を削る判断をした。幸いにも蓄えはある。どうにか過ごせる算段はあった。
決断したら、迷いはもうなかった。
今夜のために、店主は蕎麦粉を升で測る。
まずは蕎麦を一升分、いつも通りに二八で淡々と打った。
蕎麦は一日およそ六升。
出汁を決める鰹節もケチらなかった。出汁をケチるほどに客足は離れる。店主はそう考えた。
その夜。
いつものように、日本橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いた。
いつもの風景。
いつもの常連客。
そこに混ざる夜の荷揚げを中心とした一見客。
この時間では、もう四文屋も開いていない。客は自然と夜鳴き蕎麦に集まる。
常連客も、一見客も、物価高を愚痴った。
「こうも何もかも高くなっちゃぁ、ろくな飯も食えねぇ。四文屋のタネもスカスカだ」
四文屋も、この物価高でなかなかに厳しいようだ。
かけ蕎麦を頼んだ常連の一人が言う。
「それに比べて、ここは、今日も同じ味、同じ値段だ。ありがてえこったよ」
その言葉に、蕎麦を茹でながら、店主は少しだけ笑うのだった。
「はいよ。かけ、お待ち」
店主の出したかけ蕎麦を、客は美味そうに啜るのだった。
夜風に吹かれて、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。




