表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜鳴き蕎麦徒然草子  作者: いわん
第ニ部:文化五年、江戸日本橋。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/37

第二十回:日本橋の灯火

江戸は日本橋。

橋の袂に、一台の「夜鳴き蕎麦屋」に灯りが付いていた。

提灯に書かれている屋号は「清吉」。暖簾には「二八」と書いてあった。


「今日も寒いねぇ」

常連客が肩を振るわせながら、暖簾を上げて入ってきた。

「あったかい、かけ、頼むよ」

「はいよ、かけ一丁ね」

店主はいつものように蕎麦を一束、茹で始めた。

椀に出汁を入れている最中に、別の客がやってきた。

「かけ、頼むよ」

「はいよ、かけね」

常連にかけ蕎麦を出すと、続いて、また、蕎麦を茹で始めた。

初冬のこの時期は、暖かい蕎麦はよく出る。店主はいつもより多くの蕎麦を準備していた。


夜半。客の流れが落ち着いた。

それは、もうすぐ「夜明かし」で熱燗を引っ掛けた客の来る頃合いでもあった。


案の定、千鳥足の客がやってきた。一見客だった。

「やってるかい?ここは何があるんだい?」

「かけと花巻、しっぽくでさぁね」

「いくらだい?」

「かけが十六、花巻が二十四、しっぽくが三十二でさ」

「しっぽくの具はなんだい?」

「蒲鉾に麩でさぁ」

「それで三十二?高過ぎやしねぇか?」

相手は明らかに酔っていた。赤ら顔であった。

「うちが高いと思うんでしたら、他の夜鳴きに行っていただいて結構ですよ」

店主の言葉に、男は激昂した。

「おい、俺様は客だぞ、そんな口、聞いていいと思ってんのか!表、出やがれ!」

店主はうんざりしながら、屋台の外へ出た。


店主と酔っ払いが対峙する。酔っ払いの息は酒臭かった。相当飲んでいるようだった。

酔っ払いが腕を振り上げた時。

その腕を背後から掴む男がいた。

八丁堀だった。

「あんまり、おいたが過ぎる真似はするなよ?」

八丁堀が言った。珍しく怒気をはらんでいた。

酔っ払いは、八丁堀に気圧されると、頭を下げつつ、すごすごとその場を離れていった。

「……助かりましたぜ、旦那」

店主は言った。

「この時期は、熱燗で千鳥足になってる連中も多いからな。困ったもんだよ」

八丁堀は酔っ払いを掴んだ手を払った。


「まだまだ、寒い季節は続きやすからね。熱燗を飲みたくなるのは、人情でしょうよ」

店主は答えた。

「俺たちは、勤め中だからな。酒は御法度だ。だから、あんたの屋台が大事なんだよ」

「……ありがとうございやす……」

店主は八丁堀に頭を下げた。

「じゃあ、改めて、かけを貰おうかな」

「はいよ。かけ一丁ね」

店主は屋台に戻り、蕎麦の準備をするのだった。


冷たい夜風が吹き、屋台の風鈴がチリリンと鳴った。

夜空から、ポツリポツリと雪が舞い降りてきた。


江戸は、あと一週間ほどで、新しい年を迎えようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ