EX01 仮想論文:信頼連鎖
*以下の文書は、フィクション作品「交叉路物語」内のインターネット上で発見され、のちに作中世界で「信頼連鎖」として実装されたインターネット・システムの、発想元となった文書=仮想論文となります。作中では、主に「04 仮想インターネット小史(電子防疫学概論より)」で言及されています。
読了いただかなくても物語を追うという面では支障はありません。
■概要
トラスト・チェーンとは、あるコンピューターのコントロール権に関連付けした防疫計画書を、ブロックチェーン上の観測行為に感受性を持ったスーパーポジションブロックの中に格納することにより、第三者からのコントロールを制限しながら、その本来の所有者による恣意的更新を可能とする機構である。この機構は、ハッシュ・ファンクションなどの不可逆性パズルの利用や、ネットワーク内における、各ノード・コンピューターに対する演算力の要求、格納データの一貫性の保持やノード間の報酬制度など、その多くをいわゆるブロックチェーン基礎概念に負うものである。 実際のネットワークシステムは、今日業務用言語として定着しているオブジェクト指向言語などではなく、メタプログラミングの可能なより汎用性、抽象度の高い、高級言語で記述されることが推奨される。
■イントロダクション
電子ネットワーク空間へのブロックチェーンの導入により、種々の通信・取引履歴が不正に改ざんされる可能性はそれ依然と較べ格段に低くなった。しかしいまだ、その通信・取引履歴によって担保された電子資産の所有を証明する個々人の電子金庫や、ブロックチェーンネットワークに参加する各ノード・コンピューターは、クラッキングやマルウェア感染の脅威にさらされ続けている。そのセキュリティの多くは第三者が発行する、多くの場合は中央集権的なセキュリティソフトウェア|スキームに依存し、常に、そのソフトウェア|スキームに欠陥が生じた場合のリスクにさらされている。 また、今日われわれが「コンピューター」と呼んでいるものも、将来における技術発展、とくに人工知能の分野や、その革新を機に新たに発見されうる理論や技術と相乗することによって、その重要性や個々人の生活・人格への密着性・浸透性は否応にも増すことと思われる。つまるところ、それが第三者にコントロール権を剥奪された際に生じる被害も、単純な経済的・情報的なものにとどまらなくなる恐れがある。 トラスト・チェーンとは、上記の問題や懸念を緩和・解決するために、個々人のコンピューターのコントロール権に関連付けられた防疫計画書をブロックチェーンに組み込むことによって、そのネットワークに参加するノード間で相関的に保護しようとする防疫機構・思想のことをいう。セキュリティ・スキームは必然、その本来の所有者による定期的な、あるいは緊急時における更新を余儀なくされるため、通常の不可変なブロック(Stable Block)ではなく、後述する、そのほかのノードによる観測行為に感受性を持った、スーパーポジションブロックに格納される。また、そのセキュリティスキームの更新の際にはユーザーがそのスキームの対象としているコンピューターとは別にトラストチェーン・ネットワークと通信し、本人認証を行える、独立した通信装置・経路が必要とされるだろう。 この機構の中では、個々人のセキュリティ・スキームはブロックチェーンベーシックコンセプトに準じて、ネットワークに参加するそのほかのノードにより断続的に観測・保持されている。そのため、悪意ある第三者があるチェーンに於ける善意のノードの過半数を克服しない限り、スキームが改ざんされコントロール権が略奪されることはない。無論、ブロックチェーンそのものにつきまとう、51%攻撃や、善意のノードの転向、悪意のノードの潜伏などのリスクはそのまま抱えることになるが、少なくとも個々人が、第三者提供のソフトウェアによるセキュリティプログラムのみで、重要なコンピューターのコントロール権を悪意ある攻撃から守ることとは別の側面から、あらたな防犯・防疫価値を提供しうるだろう。 また、この機構は、セキュリティスキームを電子的に記述できるものならば、どんなものでもそのネットワークに組み込み、保護することができるという点で、大いに応用価値があるものだと思われるが、それについては本概要の範囲を超えるものなので、ここでは詳述を控える。
■ブロックチェーン・ベーシック・コンセプト
トラストチェーン・ネットワークは、以下の記述まで一般化されたブロックチェーン基礎概念に準ずる。すなわち、
・あるネットワーク全体は、そのネットワークの参加者たちによって申請され、ノードによって産出・観測される、ある方向性を持ったブロックの連鎖によって構成される。・各ブロック内には、暗号演算を介して産出された直前のブロックのデータ=レファレンスが格納される。演算に用いられる暗号式には、産出された値からもとのデータの特定が困難な暗号式、すなわちハッシュ・ファンクションなどが想定される。・各ノードがブロックを産出する際には、そのネットワークで共有・法規化されているパズルを所定の時間・計算機時間内に解読できる程度の演算能力が求められる。この演算力は、産出されたブロック内のデータ及びレファレンスを書き換えようとする際に要求される計算労力へと翻換される。・ブロックの産出やその代行の際には、そのネットワークで法規化されている報奨制度に基づいて、計算労力を支払った、あるいは提供したノードに報酬が支払われる。この報酬制度は、ノードがそのネットワーク上に継続的に参加する、あるいは計算労力を支払うことに利点を見いだせるかたちで設計される必要がある。・各ノードは断続的に、レファレンスの連鎖であるネットワーク全体図を受信する。ゆえに、レファレンスと矛盾したデータの改ざんは、ネットワーク上で正規の更新として認識されない。・あるネットワークの全体図は、その参加者による多数派合意によって保持される。つまり、ある更新されたレファレンスがネットワーク上で正規のデータとして認識されるには、そのネットワークの法規に従って、そのネットワークに参加するノードのうち過半数=51パーセントの同意を得る必要がある。
■セキュリティスキーム Security Scheme
セキュリティスキーム(以下SS)とは、あるコンピューターの一定期間における防疫計画を暗号化・抽象化して提示したもののことをいう。 これには古典的な英数字の組み合わせによるパスワードから、それをある規則に従って自動更新するプログラム、それに加えて用いられる各種・各層の本人認証手段、もっと広範な意味でのセキュリティ・ソフトウェアやそのアップデートスケジュール、ユーザーによるそれらの併用方針までをも指す。つまりSSはユーザーが電子記述して提示できる範囲で抽象化することができ、その解釈、適応範囲、それによる設計も、各ユーザーの判断や電子記述スキルに準じる。
例えば、①本人認証手段。②本人認証手段と結びついた交信経路。③(不正アクセスされた際をも想定した)そのコンピューターに課す行動規範。④行動規範を逸脱した際のアラート機能。 上記の記述をスキーム内に組み込むことによって、セキュリティスキームを改竄されるか、行動規範として書き込んだプログラム記述を逆手に取られない限り、対象のコンピューターが規範を逸脱した挙動をとったり、コントロール権を略奪されることはないだろう。 さらに、これはスキームの記述者の知識・技術に依存したものになるが、より抽象的な例示として、以下のようなものが挙げられる。①特定のセキュリティ・プログラム|ソフトウェアを、(そのアップデート|スケジュールも含めて)信頼し続ける。②特定の認証・交信経路の更新を(そのアップデート|スケジュールも含めて)信頼し続ける。 上記二つを組み合わせた形で、より特徴的な、あるいは抽象的なスキームを記述することも可能となる。例えば、・特定種、あるいは特定の抽象構造を持つ(マルウェア含む)プログラムを実行しない。・行動規範の読解の幅を制限するため、コンピューター自身の言語を制限する。
暗号化されたSSを提示されたネットワーク上の観測者は、ユーザー自身がSSと共に提示した目標保持期間中、SSを大幅に更新することなく活動を続けているかぎり、衛生的な電子活動を行っていると評価する。逆に、第三者にスキームを解読され、不正アクセスを通じてコントロール権をはく奪されたり、あるいは目標保持期間中にも関わらずそれを防ぐために、自らが提示した可変範囲を超える形でスキームの大幅な変更が必要となった場合、そのユーザーの電子活動は衛生的ではないと判断される。 各ユーザーはSSを提示して、トラストチェーンネットワークに参加する。また、そのトラストチェーンネットワーク上で合意・法規化されている、ある基準を満たしたユーザー|ノードが、参加者の電子衛生活動に対するオブサーバー(観測者)・ノードの役割を果たす。
■原版情報とその同期引証の結びつき
ある一定以上の公開性を持ったネットワーク上にセキュリティスキーム(SS)を提示・保管することは、それが暗号化されたものであれ、それをもとに悪意ある第三者によってそのSSの対象となるコンピューターを不正利用される恐れがある。これを防ぐために、トラストチェーンネットワーク(TCN)上には、SSそのものではなく、不可逆処理を施された一対の同期引証(Coherence Quotation)が格納される。 同期引証(CQ)は同期プロトコルを介して二つのネットワーク上に格納される。そのため、引証はその一方が更新されたとしても、もう一方の引証が更新されない場合、更新が完了されない。 原版の情報が更新されると、サーバー間のフィードバック機能を通じて、引証にも更新が伝達され、新たな引証ペアが生成される。しかし原版は、その引証がそれと同一、あるいは紐づけられたサーバー|デバイス上にある限り、引証の双方で更新されなければ、更新が正規のものとして処理・完了されないという制約を受ける。また、先述の不可逆処理により、引証側からの一方的な内容の更新は、原版の内容に影響を与えることができない。
■機密情報の原版および同期引証の関係性防疫網
あるユーザーがある機密情報を意図しない改変から保護するために、その同期引証の保管場所を分散する手順を紹介する。 あるユーザーが、サーバー(A)に、ある機密情報(原版)を保存する。その同期引証を生成する際に、ユーザーは、外部の分散型通信プロトコルにそのことを伝達し、それを介して同期引証の一方を、外部のサーバー(B)に保存する。外部プロトコルは、サーバー(B)から受け取った、(B)内の引証の保管情報(アドレス、タイムスタンプ)などを、サーバー(A)を介しない経路でもって、ユーザーに返還する。これらの保管情報は、サーバー(B)に保管された引証の所有者証明となる。 この手順を取ることによって、
・サーバー(A)の管理者はサーバー(B)内の引証の保管情報を知らず、・配布役の外部プロトコルは機密情報(原版)を知らず、・サーバー(B)の管理者は機密情報(原版)も、その所在(サーバーA)も知らない という環境を、そのユーザーは獲得できる。これはすなわち、ある機密情報と、その更新を制限する引証(A,B)の所在を知っているのは、彼だけであることを意味する。
次節からは、上記の機密情報を、あるユーザーにとって重要度の高いコンピューターのセキュリティスキームに、サーバー(B)を、あるトラストチェーン・ネットワークに置き換えた場合を想定する。
■トラストチェーンによるスキームの保護とその限界
トラストチェーンネットワーク(TCN)上のブロックに、セキュリティスキームの同期引証の一方を組み込んだ場合、それはそのスキームを提示したユーザーのみならず、悪意ある第三者にとっても、ブロックチェーンの一貫性保持の原則にしたがって、個人の観測のみでは改変が不可能となる。つまり、TCNにセキュリティスキームの同期引証が組み込まれたコンピューターは、コントロール権とその認証手段・経路が不可変な状態で保存されているため、不正アクセスは可能だが、もともとの所有者のアクセスを弾いてコントロールの略奪をすることは不可能という性質を持つ。これがあるコンピューターの防疫に関するトラストチェーンの限界でもある。 ところで、個人による恣意的な観測=更新が不可能なセキュリティスキームとは、それが解読され対象のコンピューターへの不正アクセスが許されている状況のもとでも、スキームを提示したユーザー自身がスキームを変更して悪意ある第三者によるアクセスを締め出すことが不可能であることを意味する。だが、SSの同期引証の一方をTCN上に保持しつつ、本来の所有者の意思に応じてそれを更新することが可能となれば、悪意ある第三者の不正アクセスの継続を遮断することが可能となるだろう。ポイントとなるのはSSの同期引証を格納しているブロックの可変性であり、これを担保するのが、通常の不可変な(ステーブル)ブロックと性質を異にする、スーパーポジションブロック(以下SPB)と、TCN上のオブサーバーノードによる多数派観測合意である。
■スーパーポジションブロックとゼロシフト
多数派観測合意はTCN上で、以下のようなふるまいをするスーパーポジションブロック(SPB)を通して処理される。
SSの同期引証の一方を格納したブロック(1)と、それが中に存在しないブロック(1-1=0)が、同一座標上に重ね合わせの状態(0|1)で存在することを想定する(上記左図)。対象のSSに更新の必要性が生じていない間、ブロックチェーンのセキュリティ向上のための防壁ブロック(Stable block)は、1系統・0系統の両チェーン上に産出されていく。 しかし、悪意ある第三者によってこのSSが対象としているコンピューターに不正アクセスが生じた場合、TCN上の(後述する)オブサーバーノードによる「多数派観測合意」を経て、重ね合わせブロック(0|1)は(0)へと変化する。つまり、ブロック(1)とその後続の[1]系統鎖が廃棄される。これを便宜上ゼロシフトと呼ぶ。ゼロシフトは不可逆的であり、一度廃棄された1系統チェーンにブロックが追加されることはなく、TCN上で正規のチェーンとして扱われることもない。 同期引証の原版となったSSは、ゼロシフトによって、その同期引証が「あるブロックの中に存在しない」とTCN上で解釈されている限り、その更新が可能となる(ブロックチェーン基礎概念の一貫性保持の原則から解放されているため)。このSSはユーザーによる更新を経たうえで、あらたな同期引証がとられ、別系統のチェーン上のSPBに格納される。
TCNのノードは、ゼロシフト前の各SPBを[0|1]の重ね合わせ状態として受け取っている、つまり、あらかじめ[0]化後のブロック=中身が空のブロックと、そこから延伸されている鎖も観測しているので、あるSPBの[0]化は、格納情報の一貫性保持の原則に対する違反として感知しない。しかし、[1]として記述・格納された情報の内容が変化した場合(e.g. [1]→[1’])は、それを原則に対する違反として受けとめる。
■悪意ある第三者によるセキュリティスキームに対する攻撃シナリオと、本来の所有者による防衛シナリオ
以下、悪意ある第三者が、あるユーザーのコンピューターを攻撃した場合のシナリオについて考える。 悪意ある第三者が対象のコンピューターのセキュリティスキームの解読に成功し、それを、本来のユーザーがアクセスできない内容へと更新し、コントロール権をはく奪しようとする。しかしこのセキュリティ・スキームの同期引証が発行されている場合、攻撃者は原版の同期引証を新たに発行・更新しなければならない、原版の更新を完了できない。さらにこの一対の同期引証の一方が、トラストチェーンに組み込まれている場合、その同期引証が組み込まれたブロックの後続ブロックすべてを克服して内容を改竄しなければ、スキームを更新できない=本来の所有者のアクセスを締め出すことができないため、対象のコンピューターのコントロール権を獲得できない。
この状況で、所有者が、この悪意ある攻撃者を自身のコンピューターへのアクセスから締め出すためには、以下のような手続きが考えられる。 所有者はスキームの対象とするコンピュータとはべつに、TCNそのものと交信できる通信装置・経路をあらかじめ用意しておく。その通信装置・経路は、防衛対象コンピューターに関連づけているのとは別の、本人認証機能を備えているのが理想だろう。所有者はその装置・経路を介してTCNと交信し、セキュリティスキーム(原版)の更新必要性を告知する。ここで、分散プロトコルを介して、トラストチェーンに同期引証の一方を組み込んだ際、そのネットワークから返還されたアドレスやタイムスタンプなどを、証明書として使用することが考えられる。事前に、証明書とその交信装置・経路自体を、所有者とTCNの間である種の契約として暗合化し、解号ルートを取り決めておくのも有効であろう。 証明書を受け取ったTCNのオブサーバーノードたちは、そのTCNの規定に沿って、所有者にスキームの更新を許可する。所有者のSS更新を発端に、その新たな同期引証の発行・更新が、所有者とTCNのノードたちのあいだで観測・合意される。あらたに更新・暗号化されたSSに対する解読結果を持たない攻撃者は、対象のコンピューターへのアクセス権を失う。 以上の一連の手続きを、便宜的に多数派観測合意と呼ぶ。
■悪意ある第三者によるセキュリティスキームとトラストチェーンネットワークに対する同時的攻撃シナリオ
前節から示唆される通り、悪意ある第三者がTCNに参加しているコンピューターのコントロール権を完全に掌握しようとする場合、対象コンピューターのSSだけでなく、その同期引証の一方が格納されているTCN上の証明書や、所有者がTCNと緊急通信に用いる独自の装置・経路まで把握しておく必要がある。 証明書やユニークルートを取得していない場合、攻撃者は以下のような手段を取らなければならない。すなわち、①対象のコンピューターのSSを解読したうえで、②そのコンピューターが参加しているTCNに目当てをつけ、さらに、標的のSSの同期引証を格納しているSPBのTCN上の座標を特定し、③そのSPBを無効とするため、その後続ブロック分だけ課せられているパズルを解いて、④攻撃対象SS(原版)と、TCN上の同期引証の内容を、ほぼ同時に自分がコントロール権を得られる記述に更新する。
これらを善意のノードによる抵抗を防ぎながら実行する必要があるのだが、なお悪いことに、光子回廊を用いた、SSを複数のSPB間で移動するための、オブサーバーノードによる座標観測によって、悪意ある第三者が標的のSPBの座標を獲得することは、非常に困難を極めることになる。
■光子回廊と格納座標の非在観測
ある光子が一定方向に走り続ける円環状の通路を想定する。この通路の所定の位置には、外部から挿入可能なフィルタが設けられており、それぞれが光子の通過確率を局所的に偏らせ、その観測点における尤度を変化させる。 以上の記述を、TCN上の機構に沿うかたちで書き換える。先述した通路を便宜的に光子回廊と呼び、図のように区分けする。
各アルファベット[a,b,c,d..n,n+1]は偏光フィルタが挿入されうる位置であり、また、この通路を駆け抜ける光子がそれに干渉されうる各地点[A,B,C,D..N,N+1]を示す。光子の通過確率を偏らせるには、放出の設定と観測角度のあいだに一定の対応関係をもたせる必要がある。観測者は、放出点に付与された角度パラメーターを参照し、それに呼応する角度でフィルタを挿入する。 光子回廊は、TCN上の一つ以上のチェーンに関連づけて、以下のように運用される。 あるチェーンのオブサーバーを務めるノード間で、回廊上に光子が放出される際にそれが透過するゲートの角度が共有される。これにより、各オブサーバーノードは目標とする地点で光子に干渉しうる偏光フィルタの角度を調整することで、任意の座標パラメーターを取得できる。また、このA,B,C,D……Nに分割されうる光子回廊とは、トラストチェーンネットワーク上で各部屋(A,B,C,D……N)がそれぞれひとつのSPBとして扱われる。さらに、N+1はSPBではなく、信頼連鎖が構築されるサーバー内のポケット=ブロックチェーンの外を意味する。 [0|1]から[0]に観測されたSPBとは、つまり、光子の所定の座標パラメーターが取得されることにより、ある地点に光子が存在する確率がきわめて低い、すなわち「非在」とみなすことが合理的である、という合意が形成されたもののことにほかならない。
以下、トラストチェーンネットワーク上での、ゼロシフト時における、オブサーバーノードたちによる、観測結果の民主的収束の一連の手続きについて記述する。(*あるチェーンネットワークCNに対し、オブサーバーノードと光子回廊の各部屋=SPBは、N+1 ≦ sum OBNの関数で関連付けられる) あるユーザーが、TCN上にSSの同期引証(CQ)を格納することを申請する。SSの同期引証はそのユーザーの社会的信頼度、電子生活衛生度、共同体内貢献度などをもとにした評価に応じて、複数[a,b,c,d……n]の分割地点を持つ光子回廊内に保管される。この光子回廊は上述のa,b,c,d……nに合わせたn個のSPBとしてTCN上で処理され、そのどれもがこの時点ではCQを格納している可能性のある[0|1]の状態である。
上図は、TCNの一部を切り出し、その中のSPBの位置関係を樹形図として表したものである。各[0|1]ブロックはSPBを現し、そこから右手に1系統、左手に0系統の鎖が伸びていることを表す。 このTCN上にCQを格納しているユーザーX、Yを想定する。XのCQは光子回廊の各部屋(x,x+1)=SPB(x)を、Yは各部屋(a,b,c,d,d+1)=SPB(a,b,c,d)を割り当てられているものとする。
ユーザーYのCQが格納されている可能性のあるSPB[a]の、親SPB[x]のユーザーXが、何らかの理由により、CQの更新必要性からゼロシフトを申請する。これにより、親SPB[x]から連なる[a]を含む1系統の鎖は有効鎖から外れるため、[a]を移設する=ユーザーのCQが[a]においてもっとも「非在」である可能性が高いことが、ノード間で合意認証されなければならない。この認証は以下のような手続きによってとり行われる。
I,ユーザーY①そのTCNに参加しているオブサーバーノードが、それぞれ別個に観測器を用いて回廊中の光子の座標パラメーターを取得する。②観測の際、各オブサーバーノードは、事前にメンバー間で共有されているゲートの角度と、事前に分配され、互いに内容が秘匿されている「ゼロシフトの対象座標に対応する観測座標」に合わせて、回廊のb以降の地点[b,c,d,d+1]いずれかに、フィルターを挿入する。これは、非在合意が、各オブサーバーノードの観測結果を収斂した際、(すでにTCN上でゼロシフトが認証されている座標を除いた)もっとも光子の存在確率が0に近い座標で形成されるからである。(e.g. [a]における非在を合意形成する際、ON[1]は[b]に、ON[2]は[c]に……と分担してフィルターを挿入することにより、[a]より光子の存在確率が0に近い地点が発生してしまう可能性を抑制する)③各オブサーバーノードが観測結果を持ち寄り、「光子の存在確率が最も0に近いのが[a]」という結果に対する合意が取られる。④オブサーバーノードの観測・合意によるCQの非在座標(ここでは[a])がTCN上で伝播され、ネットワーク上で、b,c,d……nのいずれかに存在すると処理・認証される。[a]のゼロシフトが完了([1|0]→[0])され、[b.c.d……n]は引き続き[0|1]の状態を維持する。
II,ユーザーX①そのTCNに参加しているオブサーバーノードが、それぞれ別個に観測器を用いて回廊中の光子の座標パラメーターを取得する。②観測の際、各オブサーバーノードは、事前にメンバー間で共有されているゲートの角度と、事前に分配され、互いに内容が秘匿されている「ゼロシフトの対象座標に対応する観測座標」に合わせて、回廊の[x+1]の地点にフィルターを挿入する。これにより、「ある光子が[x+1]に在る可能性が最も高い=ある光子が[x]ある可能性が最も低い」という結果が得られる。③各オブサーバーノードが観測結果を持ち寄り、「光子が引き止められている可能性が0にもっとも近いのが[x]」という結果に対する合意が取られる。④各オブサーバーノードの観測によるCQの非在座標(ここでは[x])がTCN上で伝播され、ネットワーク上で、あるCQが[x]に存在しない=(残る可能性は)[x+1]に存在する=TCN上のSPBの中にないと認証・処理される。⑤[x]のゼロシフトが完了([1|0]→[0])され、一貫性保存の法則から解放されたセキュリティスキーム[x]は、ゼロシフト申請時専用の通信装置・経路を通じて、ユーザーの更新安全性が確認されたのち、更新が許可される。
以上の手続きを経ることにより、親SPBのゼロシフトの影響で移設を余儀なくされた後続のSPBの機能的移設を、それを新たに生成し組み込む場合に比べ、遥かに容易に行うことができるだろう。
加えて、前述のような機構により、悪意ある第三者が特定のCQを格納している特定のSPBを攻撃しようとしても、彼が事前にオブサーバーノードから情報を詐取していない限り、攻撃目標のTCN上のアドレスを特定することが非常に困難になる。 また、攻撃者が何らかの手段でオブサーバーノードから観測機能を詐取できたとしても、ノード間で共有されているゲートの角度を知らなければ、回廊上の特定位置=ブロックでSSの座標パラメーターを委託されている光子の尤度を調整できないため、この場合もアドレスの特定を行えない。さらに、攻撃者がオブサーバーノードの観測機能とゲートの角度の両方を取得した、あるいはあるオブサーバーノードが攻撃者に転向したとしても、ひとりまたは少数ノードの観測結果では、過半数合意に達することができないため、彼の攻撃は無効となるであろう。
■トラストチェーンネットワークの樹形構造とそれによる各ブロックの階位
TCNはSPB[0|1]を起点に分岐するネットワークとして、以下の図のように構築・延長されていく。
(樹形様TCN図 上記[a-o]はSPBを示し、各SPBの前後に複数挿入されているであろうStable Blockはここでは省略している)
*座標表記(Address description)
TCNとはこのように、rootブロック(図では[a])を発端として拡張し、必要性に応じて量子的点滅を繰り返す幻影の樹形図を構成する。よって、各SPBはそれがネットワークのどこに位置するかにより、程度の異なる格納情報の移設リスクを抱えている。 各SPBのアドレスは、rootブロックから[0]系統を通った場合は末尾に[0]を追加し、[1]系統を通った場合は末尾の[0]を[10]に置換する形で導き出される。また、アドレスから導き出される階位(Tier)と、rootブロックも含んだ、rootからのブロック数によって求められるランクにより、そのSPBの保持安定性が示唆される。このことから、電子生活衛生度・計算機力に関する実績のない新規ノードほど、低い階位のSPBにそのCQを保存するよう、エコシステムが設計されるだろう。 階位、ランク共に、どちらも数値が少ないほどヒエラルキー上位であり、同階位内では、アドレス桁数が少ない方、ランクが高い方がヒエラルキー上で上位の扱いとなる。
i.e. i=10 (アドレス): 2(ランク) > j= 100 : 3
同階位内のSPBは、TCN上で同程度の安定性を持つ、言い換えると、ゼロシフト発動時にそれ自身の移設必要性が生じる先行SPBを同じ数だけ抱えている。また、階位表記はあくまでTCN上でのヒエラルキー=安定性の高さを示したものであり、上階位のSPBによるゼロシフトがそれ以下の階位のSPBすべてに影響するわけではない。このことは、先に記したアドレスから明確になる、つまり、以下のように座標末尾の(そのSPB自身を示す)0を1に変えた座標群に対して、そのSPBのノードは移設に際した責任を負うことになる。
i.e)
Tier I b=00 → 01 = 負担ブロックは Tier III f=010, g=0100 Tier IV h=01010
Tier V i=10 → 11 = 負担ブロックは Tier VII m=110 , n=1100 Tier VIII o=1110
□補足:法規設計とエコシステムに関するいくつかの覚書
■セキュリティ・ステーク Security Stake
目標期間、あるいはそれを超過して、ブロックチェーンに組み込んだセキュリティ・スキームを更新する必要なく維持することは、そのほかのノードに緊急時の労力を払わせずにネットワークコンピュータの保持・拡大に貢献しているという点で、トラストチェーン全体にとって有益である。 これを利用し、トラストチェーンに参加する各ノードには、スキームをブロックに組み込む際に提示した目標保持期間と、実際の(前述のような緊急の更新の必要なく)保持した期間によって、報酬が支払われる法規の設定が想定される。
■拡大と報酬 Expansion & Reward
あるユーザは次のユーザを招致=SPBを付け加えるために、一定数のステーブルブロック(SB)の産出が課されるようなデザインが有効となるだろう。チェイン全体の拡張とセキュリティの向上に貢献したユーザに恩恵が生じるよう、あるユーザのSPBのあとに加えられたSPBとSBの数が、彼のセキュリティ・ステークの報酬やSS移設時のペナルティ軽減に影響するよう設計されるのが望ましい。
■価額と評価値
あるチェーンネットワークの中でトークノミクスや、ユーザー、ノード間の信頼評価が行われる場合、ステーブルブロック(SB)は純粋にあるチェーンの克服困難度を高めるための防壁ブロックではなく、そこに、チェーン内のあるユーザーやノードに関連付けた通貨の取引額や評価値を刻むことが考えられる。その場合、1系統鎖のSBに刻まれた情報は、その参照性を安定させるため、ゼロシフト時に0系統鎖にまとめて移設される(Bridge)、あるいは定期的に0系統鎖に抽象・圧縮化されて格納される機能(Rollup)が求められるであろう。
■ゼロシフトのスロット化による調整
ゼロシフトが複数ユーザー間で一斉に発動すると、ネットワーク全体に負荷が集中し、剪定ストーム(Pruning Storm)を引き起こす危険がある。そのためTCNでは、階位ごとにゼロシフトの同時発動数に上限を設け、さらに発動間隔の最短値を定める仕組みを導入する。特に高位のゼロシフトについては、緊急時を除き遅延処理とし、下位処理の後に順次反映される。このスロット化によって、ゼロシフトの発動は平準化され、ネットワークの安定性が維持される。
■トラストチェーンネットワークの全容とその運営
前節までは、視覚的にブロック同士のヒエラルキーがわかりやすいよう、ネットワーク全体の一部を切り出した樹形図を引用していたが、実際のところ、TCNは図のような方向と形状で発達していく。
右記表は各SPBのアドレスを、その安定度に従って降順に記したものであり、「(Root→)」表記の通り、全てのSPBが次の群の根になりうることを示す。000…Nは、原理的に各チェーンは可算無限的延長が可能であるが、実際のところ、そのチェーンに割り当てることのできる演算力・電力、またそのチェーンのブロック生成難度により上限を受けるため、Nと表記した。これらのTCNの性質から、どのような法規設計と、エコシステム運用が考えられるだろうか。
◼️セキュリティー・スイッチ Security Switch
始祖ブロックからの0系統チェーンは原理的に、ゼロシフトによって廃棄されることがない。ゆえに、優先して延長していくことによって、後続の、最も堅牢なブロックから、新たなチェーンを分岐・発生させることができる。この性質を利用して、始祖0系統チェーンのSPBは、詐取を防ぐためのセキュリティスキームを格納するためではなく、そこから派生する1系統チェーンの棄却・分離を担う「スイッチ」として運用されることが推奨される。 このような機能を埋め込むことにより、あるヒエラルキー下位の信頼連鎖(群)で電子疫病が蔓延したり、ある信頼連鎖(群)のノードが、それ自体や他の信鎖、あるいは信鎖全体にとって不利な行動に転じた場合、その群をゼロシフトによって切り離すことが可能となるためである。 この機能を利用しつつ、TCN全体の多様性と繁栄を維持するため、各1系統-分岐鎖(群)には、必要に応じて、それまでのチェーンとは異なる、言語、法規、エコシステムを設定していくことが推奨される(TCN基礎部の記述に、最も抽象度・拡張性の高い言語を設定する理由はここにある)。
◼️信頼連鎖の多層化と観測領域の分散化 Layer N Solution
あるSPBをRootブロックに設定して、そこからの分岐鎖群をチェーンネットワーク内チェーンネットワークとして運用する場合を想定する。チェーンネットワーク内チェーンネットワークには、その親鎖のオブサーバー・ノードとは別のオブサーバー・ノード群や、言語、法規を設定することにより、独自のエコシステムやチェーンカルチャーが形成される可能性を得られるだろう。この場合もまた、0系統鎖はセキュリティスイッチチェーンとして運用され、そのSBには定期的に1系統鎖の(CQを除いた)情報群が圧縮格納(Rollup)されることが推奨される。これは、このチェーンの親鎖のオブサーバー・ノードを含む、チェーン各層のオブサーバー・ノードによる、TCN全体の相互参照性や参照労力の低減=関係性防疫網の質を高めるためである。 また、以下のような運営の応用法が考えられる。すなわち、
・個々のチェーンに、個人所有・コミュニティ所有・専用言語記述・特定アプリケーション特化などの、個別・特殊な属性を付与する。・ある鎖(群)には、同程度の演算力を持つノード及び衛生観念を持つユーザーを参加させ、互いに計算や衛生保持活動を競わせる。また、その演算力を、下位の(例えば設定されたパズルの難度が低い)関係チェーンの防衛に割り当てた場合には報酬を与える。・1系統末端に近い、階位の低い鎖(群)には、より特徴的な言語・前衛的な演算手法を用いているノードを実験的に参加させ、様子を見、全体の資料とする。そこでの成績を鑑みて、優良鎖(群)及び信鎖全体の法規の再考案を行う。




