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婚約破棄された翌日、王家の紋章が私の腕に現れました  作者: あめとおと


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第4話 王女の忘れ形見



 黄金の光が消えた後も、会議室には重苦しい沈黙が漂っていた。


 誰も口を開かない。


 王宮魔術師たちは信じられないものを見たような顔で魔法陣を見つめている。


 エレノア自身も状況を理解できずにいた。


 王族反応。


 それが何を意味するのかはわからない。


 だが、その場にいた全員が動揺していたことだけは理解できた。


「鑑定は明日まで継続する」


 やがて国王が口を開いた。


「本日はここまでだ」


 その声には僅かな震えが混じっていた。


◇◇◇


 そして翌日。


 エレノアは再び王宮へ呼ばれた。


 昨夜はほとんど眠れなかった。


 もし本当に王家の血を引いていたら。


 もし違ったら。


 考えれば考えるほど不安になる。


 だが答えは今日出る。


 逃げることはできない。


 案内された先は昨日と同じ会議室だった。


 中へ入ると、国王、王太子、第二王子、レオンハルト、そして複数の宮廷魔術師たちが待っていた。


 空気は昨日以上に張り詰めている。


「エレノア嬢」


 国王が静かに呼ぶ。


「はい」


「まずは結果を伝えよう」


 心臓が大きく脈打つ。


 ロバート伯爵とマーガレットも固唾を呑んで見守っている。


 国王はゆっくり立ち上がった。


「結論から言う」


 誰も息をしない。


 そう思えるほど静かだった。


「そなたはクラリッサ第一王女の実娘である」


 世界が止まった。


 聞こえたはずなのに。


 理解が追いつかない。


「え……」


 思わず声が漏れる。


 国王は続けた。


「複数の血統鑑定、継承紋、王家秘術による照合、その全てが一致した」


 否定の余地はない。


 そう告げられているのと同じだった。


「つまり」


 第二王子エドワードが柔らかく微笑む。


「君は私たちの姪ということになる」


 姪。


 その言葉が胸に落ちる。


 王族。


 王女の娘。


 国王の孫。


 どれも現実味がない。


「そんな……」


 エレノアは震える声で呟いた。


「私が……?」


「そうだ」


 国王が答える。


 その目は赤くなっていた。


 二十年間探し続けた娘。


 その忘れ形見が目の前にいる。


 そう思えば当然だった。


◇◇◇


「陛下」


 エレノアは恐る恐る尋ねた。


「母は……クラリッサ王女は……」


 国王は目を閉じた。


 その表情だけで答えがわかってしまう。


「残念ながら、生存は確認されておらぬ」


 静かな声だった。


「だが最後までそなたを守ろうとしたことだけは判明している」


 胸が締め付けられる。


 顔も知らない母。


 会ったこともない母。


 それでも。


 自分を守ろうとしてくれたのだと知るだけで涙が滲んだ。


「……そうですか」


 それしか言えなかった。


◇◇◇


 その時だった。


「陛下」


 魔術師長が前へ出る。


「もう一つ報告がございます」


「申してみよ」


「継承順位についてです」


 会議室の空気が変わる。


 王太子が小さくため息を吐いた。


 どうやら重要な話らしい。


「エレノア様は第一王女の直系血族です」


「うむ」


「そのため王位継承権を有しております」


 エレノアは固まった。


 継承権。


 つまり王位。


 国王になる資格。


「え?」


 思わず素の声が出る。


「わ、私は伯爵令嬢です!」


「昨日まではな」


 第二王子が苦笑した。


「今日からは少し事情が変わる」


 全く笑えない。


 人生が変わるどころではない。


 ひっくり返っている。


◇◇◇


 その後。


 正式な書類への署名や説明が続いた。


 だがエレノアの頭にはほとんど入ってこなかった。


 そんな彼女を見ていた国王が不意に立ち上がる。


 そして。


 ゆっくりとエレノアの前まで歩いてきた。


 誰も声を出さない。


 国王は震える手を伸ばした。


「陛下?」


 その手が優しく頬に触れる。


 まるで壊れ物を扱うように。


「クラリッサによく似ている」


 涙を堪えるような声だった。


「目元が特にな」


 その瞬間。


 国王の目から一筋の涙が零れ落ちた。


「……会いたかった」


 掠れた声。


「ずっと会いたかった」


 二十年。


 娘を失った父の言葉だった。


 エレノアの胸も熱くなる。


 気付けば自分も泣いていた。


 血の繋がりなど知らなかった。


 けれどその言葉だけで伝わってくるものがあった。


◇◇◇


「エレノア」


 国王は涙を拭う。


 そして優しく微笑んだ。


「改めて言おう」


 その声は祖父としてのものだった。


「王家へようこそ」


 その瞬間。


 会議室にいた全員が立ち上がった。


 王太子も。


 第二王子も。


 騎士団長も。


 魔術師たちも。


 一斉に頭を下げる。


「お帰りなさいませ」


 その言葉にエレノアは息を呑んだ。


 昨日まで自分には居場所がないと思っていた。


 婚約者に捨てられ。


 未来を失ったと思っていた。


 だが違った。


 失ったものばかりではなかったのだ。


 そして同じ頃――。


 王都の別の場所では。


 自らの愚かさに気付き始めた男がいた。


 エレノアを捨てた元婚約者、アーネスト・グレイソンである。





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