後日談① 変わらない娘
結婚式から三か月後。
王都郊外にあるアシュフォード伯爵邸は、朝から慌ただしかった。
「お母様!」
明るい声が玄関ホールに響く。
マーガレットは思わず笑顔になった。
「まあ」
扉の向こうから現れたのは、愛娘だった。
エレノア。
今では王家の姫君。
そして騎士団長夫人。
立場だけを見れば、以前とは比べものにならないほど高貴な存在になっている。
だが。
「会いたかったです!」
次の瞬間には抱きついてきた。
昔と全く同じだった。
「ふふっ」
マーガレットは娘を抱き締め返す。
「そんなに急がなくても逃げませんよ」
「でも会いたかったのです」
少し頬を膨らませる姿まで昔のままだ。
◇◇◇
「やれやれ」
ロバートも苦笑する。
「先週も来ただろう」
「先週は先週です」
「今日は今日か」
「はい!」
即答だった。
ロバートは笑うしかない。
王宮へ行っても。
結婚しても。
王家へ迎えられても。
この子は変わらない。
◇◇◇
「ところで」
ロバートが周囲を見回す。
「騎士団長殿はどうした?」
すると。
「置いてきました」
「置いてきた?」
「仕事中ですので」
その答えに夫婦は顔を見合わせた。
可哀想に。
そんなことを考えた時だった。
外から馬の足音が聞こえる。
続いて。
「エレノア様!」
切羽詰まった声。
聞き覚えがあった。
玄関が開く。
そこには息を切らしたレオンハルトが立っていた。
◇◇◇
「見つけました……」
その一言に。
マーガレットが吹き出した。
ロバートも肩を震わせている。
エレノアはきょとんとしていた。
「どうかなさいましたか?」
「どうかなさいましたか、ではありません」
珍しく呆れた声だった。
「護衛も付けずに王宮を出ないでください」
「実家です」
「実家でもです」
「でも」
「でもではありません」
完全に説教だった。
◇◇◇
そんな二人を見て。
ロバートは小さく笑った。
婚約破棄された日。
泣きながら帰ってきた娘を思い出す。
未来を失ったと思った。
幸せになれないのではないかと思った。
だが違った。
今のエレノアは笑っている。
心から。
幸せそうに。
「マーガレット」
「ええ」
二人は静かに頷き合う。
血の繋がりなど関係ない。
この子はずっと自分たちの娘だ。
そして。
幸せになってくれた。
それだけで十分だった。
◇◇◇
その夜。
王宮へ戻る馬車の中。
エレノアはレオンハルトの肩にもたれかかっていた。
「楽しかったです」
「それは良かった」
「また行きたいです」
「もちろんです」
優しい返事。
エレノアは微笑む。
実家もある。
王家の家族もいる。
愛する夫もいる。
失ったと思った未来の先には。
こんなにも温かな幸せが待っていたのだった。
【後日談① 完】




