18.7 戴冠式当日(2)参列したジャンヌの動向
古めかしい言い方で「神秘劇(mystery)」と呼ばれた儀式の間じゅう[1510]、乙女は王のそばを離れなかった。[1510]
以前、シャンドスの古い軍旗を退却させたあの白い軍旗を広げてしばらく掲げていたが、その後は、ジャンヌから片時も離れなかった者たち、小姓のルイ・ド・クートや、シャロンを経てランスまでついてきたリシャール修道士が、代わる代わるジャンヌの軍旗を持った。[1511]
(⚠️シャンドスの軍旗(standard of Chandos):過去80年間、イングランド軍が勝利したときに翻った軍旗。オルレアン包囲戦ではグラスデールが掲げていた。詳しくは、第十三章「13.7 レ・トゥーレル奪還(2)総攻撃」を参照)
▼13.7 レ・トゥーレル奪還(2)総攻撃
https://kakuyomu.jp/works/16817330649585060746/episodes/16818792437090822111
*
ジャンヌは最近見た夢の中で、シャルル王に王冠を授けていた。
そのため、この日のジャンヌは、夢で見た王冠が天からの使者によって教会に運ばれてくるのを待っていた。[1512]
通常、聖人たちは、天使の手から王冠を受け取るのではなかったか?
聖セシリアには、天使がバラとユリの花輪で飾られた王冠を授けた。
聖カタリナには、天使が不滅の王冠を授け、カタリナはそれをローマ皇后の頭上に置いた。
しかし、ジャンヌが待ち望んでいた、奇妙なほど豪華で壮麗な王冠は、最後まで出てこなかった。[1513]
ランスの大司教は、聖堂参事会(聖職者)が用意したさほど価値のない王冠を祭壇から取り上げると、両手で王の頭上に掲げた。王の周りに円を描くように並んだ12人の貴族たちは、腕を伸ばして王冠を支えた。
ラッパが鳴り響き、人々は「ノエル!(万歳)」と叫んだ。[1514]
かくして、フランス王シャルル七世は、偉大なるトロイア王国の気高きプリアモス王の血脈を受け継ぐ子孫として、油を注がれて戴冠した。
(⚠️プリアモス王(Priam):ギリシャ神話に登場するトロイア王国最後の王。プリアモスはトロイア戦争で殺され、王国は滅亡するが、英雄アエネアスと結婚した王女とトロイア人の生き残りがイタリア半島に逃れてローマを建国。古代ローマの始祖となり、ローマ帝国滅亡後はヨーロッパ各地の建国神話で始祖とされた。フランス王家の場合、歴史上の祖先は初代国王クロヴィスだが、神話上のルーツはトロイア王家と英雄にさかのぼると主張していた)
**
正午から二時間後(午後2時)、「《《神秘劇》》」は終わりを迎えた。[1515]
その時、ジャンヌはシャルル王の前にひざまずき、泣きながらこう言ったと伝わっている。
「美しい王よ、今ここに、神の望みは達成されました。私がオルレアンの包囲を解いたのも、あなたをこのランスの町まで連れてきて、聖なる塗油式を受けさせて、あなたが真の王であり、フランス王国が帰属すべき御方であることを明らかにしたのも、すべては神の意志でした」[1516]




