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教皇庁に禁書指定されたジャンヌ・ダルク伝  作者: しんの(C.Clarté)
上巻・第十七章 オセールとの休戦協定/修道士リシャール/トロワ降伏

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17.7 修道士リシャール(2)救世主と反キリスト

 4月16日、修道士リシャールはサント・ジュヌヴィエーヴ修道院にて、パリで最初の演説をした。


 その翌日から24日の日曜日まで、毎朝5時から10時または11時まで、罪なき幼子の墓地(納骨堂)に建てられ、「死の舞踏」が祝われた場所にある、野外の舞台に立って説教した。


(⚠️死の舞踏(Dance of Death/La Danse Macabre):中世末期の寓話。擬人化された「死」が人々を墓へ導き、逃れられない死の恐怖を前に人々が半狂乱になって踊り続けるという14世紀のフランス詩が起源とされる。長引く戦争とペスト流行による、当時の「諦観・死生観」がよく表れている)



 高さ9フィート(約2.7メートル)の舞台の周りには、聴衆が5000〜6000人も集まり、リシャールは「アンチ・キリスト(反キリスト)の到来が間近に迫っている」ことと「世界の終わり」について語った。[1400]



「シリアで、私はユダヤ人の集団に出会った。

 どこへ行くのかと尋ねると、こう答えた。


『私たちはバビロンに向かっている。なぜなら、

 メシア(救世主)がそこで生まれたのは真実で、

 彼は私たちの相続地を回復させて、

 約束の地に再び連れて行ってくれるからだ』


 シリアのユダヤ人はそう言ったが、聖書にはこう書かれている。

 彼らが『メシア』と呼ぶ者こそが、実はアンチ・キリストである。

 彼はペルシア王国の首都バビロンで生まれ、ベツサイダで育ち、

 若いころはコラジンに住んでいる。それゆえに神はこう言われた。

『コラジンよ、汝に災いあれ! ベツサイダよ、汝に災いあれ!』」


(⚠️コラジン(Chorazin)とベツサイダ(Bethsaida):どちらも新約聖書に登場するガリラヤの町。町の人々は、盲人を癒すなどの奇跡を目撃したにもかかわらず真の信仰には至らなかった。そのため、キリストは嘆いて厳しく叱責した。それが上記の言葉につながる)



 リシャールは、さらに付け加えた。


「1430年は、これまで見たこともないような

 奇跡を目撃する年となるだろう。[1401]

 時は近づいている。罪人の子、破滅の子、

 邪悪な者、深淵から吐き出された獣、

 《《荒廃をもたらす忌まわしい者》》が生まれた。

 彼はダン出身で、ダンについてはこう書かれている。


『ダンは路上の蛇、小道の毒蛇となる』


 預言者エリヤ、エノク、モーゼ、エレミヤ、

 福音者ヨハネがもうすぐ地上に戻ってくる。

 ダビデとシビュラ(巫女)の証言に従い、

 時代を挽臼ひきうすで砕き、摺鉢すりばちでつぶすかのごとく、

 怒りの日がまもなく到来するだろう」[1402]


 善良な修道士リシャールは、「悔い改め、償い(苦行)を行い、むなしい富を捨てるように」と呼びかけて話を締めくくった。


(⚠️荒廃をもたらす忌まわしいもの(abomination of desolation):旧約聖書『ダニエル書』第11章31節、預言者ダニエルが最後に見た幻に登場。傲慢な異国の王が「荒廃をもたらす忌まわしいもの」を立てた後、世界は終わるとされる。訳語はさまざまだが、キリスト教の終末論で頻出する)


(⚠️さらに補足:トロワ司教の叙任権をめぐり、ベッドフォード公はフランス中の聖職者たちから「荒廃をもたらす忌まわしいもの」と呼ばれ非難された)



 聖職者たちによれば、修道士リシャールは信仰心の厚い能弁な演説家だった。

 リシャールの説教は、過去100年間に例がないほど人々の心を動かし、信心深さを思い出させた。


 彼が現れたのは、まさに時宜を得たものだった。


 当時、パリ市民の間では賭け事が大流行しており、司祭までもが恥ずかしげもなく熱中していた。7年前には、ダイス(サイコロ)遊びの愛好家だったサン・マリー教会の参事会員(聖職者)が自宅で賭け事をしていたことが知られている。[1403]


 戦争と飢餓に苦しんでいるにもかかわらず、パリジェンヌ(パリの女)は装飾品アクセサリーを身につけて着飾った。彼女たちは魂の救済よりも、自分の美しさを気にかけていた。


 リシャール修道士は、男たちのチェッカー盤(チェス、将棋、囲碁など駒と盤があるゲームの総称)と女たちのアクセサリーに対して、ひときわ大きな声で雷のように非難した。


 特に、ブローニュ・ラ・プティ(Boulogne-la-Petite)で説教していたある日、彼はダイス(サイコロ)とエナン(尖った髪飾り)を激しく非難し[1404]、聴衆の心を動かすほどの力強い言葉で熱弁を振るった。


 人々は家に帰ると、賭博台、チェッカー盤、カード、ビリヤードのキューとボール、ダイスとその収納箱を通りに投げ捨て、家の前で大きな火をつけた。通りではこうした火が100件以上、3〜4時間燃え続けた。


 パリジャン(パリの男)が示した模範に倣い、翌日にはパリジェンヌ(パリの女)も、頭飾り、詰め物、装飾品、そしてフードの前面を支えるために使う革片や鯨の(ひげ)・骨を公衆の面前で燃やした。


 若い娘たちは、悪魔の装いを恥じて、悪魔の角[1405]としっぽ[1406]を脱ぎ捨てた。[1407]



(⚠️悪魔の角:当時流行していた円錐状の髪飾り「ブロカール」のこと)

(⚠️悪魔のしっぽ:ドレスの後ろに広がる引きすそ「トレーン」のこと)

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