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宇宙開発、あるいは銃殺刑 ~JAXA職員は1951年の宇宙開発で無双する?~  作者: 北雪篇


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第二話 朝鮮戦線

「名前は?」


白衣を着た男の声が、鼓膜を打った。万年筆が紙を削る音だけが、室内に響く。


喉がひりついている。灰でも飲んだかのようなざらついた渇きだ。


「天羽真(あまう まこと)です。」


「今は何年だ?」


天羽は、眉をひそめた。


窓の外では、笑えないほどの吹雪が怒り狂っていた。おかしい。昨日まで、俺は生ぬるい夏の筑波にいたはずだ。


見覚えのない古臭い病室。埃っぽい毛布は、まるで鉄でも入ってるかのようにクソ重かった。


白衣の男は、気にした様子もなく、万年筆を走らせていた。


ラジオがやけに大音量で鳴っている。内容は、ノイズでよく聞き取れなかった。


「二〇二五年です。」


カリッ。


「違う。もう一度聞く、今は何年だ?」


「だから、二〇二五年……。」


万年筆を運ぶ男の手が止まる。男はゆっくりと顔を上げた。茶色い瞳が天羽を見つめる。


その視線は、少なくとも記憶が正常な者に向けるものではなかった。


「朝鮮戦線では、自由を守ろうとする数多くの勇士たちが、戦死しています。

また、国防総省は、近いうちに共産主義勢力の侵攻を阻止する作戦を継続するとの声明を出しています。」

 

男は、静かに口を動かした。


「違うな。今は、一九五一年だ。錯乱しているのか?」


「は?嘘だ。」




壁には色あせたポスターが張られていた。


ラジオにはノイズ混じりの英語が流れている。演説らしい。


妙に芝居がかった口調だった。


――処理が追い付かない。


つくばの熱気が、猛吹雪に暗殺でもされたのか?ありえない。意識では否定している。それでも、五感はそれを現実だと突きつけてくる。


「クソ……。」


 一九五一年。半世紀以上も前だ。


病室の窓の外に見えるのは、制服を着た軍人ばかりだった。誰も彼も、分厚い書類の束を持って、駆け足で移動している。


男は、机の上の身分証を指ではじいた。


「では質問を変えよう。JAXA。この機関はなんだ?私はこの機関を知らない。」


男は一拍置いて話を続ける。


「政府機関か?」


「企業か?」


「それともどこかの軍の工作機関か?」


ふざけるんじゃない。軍の工作機関?そんなこと言われてたまるか。


JAXAはそんな組織じゃない。


今から数十年後の未来を言ってやりたいが、それができないのがかゆい。


「どれでもない。」


天羽は吹雪の向こうを見た。


建物の奥のほうから、乾いた破裂音が聞こえた。白衣を着た男の顔が険しくなる。


距離からして近くはない。ただ、軽い音には聞こえなかった。


「人類を宇宙にぶっ飛ばす機関だ。」


男の万年筆のペン先が止まった。ラジオのノイズだけが病室に流れていた。


「鳥じゃなく、人類をか。正気か?一体その先に、何があるんだ?」


そうなるだろうな。ガガーリンさえもまだ地球が青いという事実を自分の目で確かめていない。


そんな時代に、宇宙に人をぶっ飛ばすと言ってもわかる人のほうが少ないだろう。


最悪、夢物語と言われて終わりだ。


「強いて言うなら、未来かな。」


「未来?」


男が、眉をひそめた。


「日本が、未来を握っているのか。あの敗戦国がか?」


「ああ、そうだ。あの敗戦国が、だ。宇宙開発では、何十人も死ぬ。確実にだ。だけど、五〇年後の人間は今日を覚えていない。」


天羽は窓の外を見た。


吹雪の向こうに空は見えていない。それでも、その先にあるものは知っていた。


「今日がなければ、五〇年後はない。」


誰かが、先陣を切らなければならない。失敗するのも、笑われるのも。


「だから、宇宙に行く。」

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