第一話 青い青い地球
ロケットの打ち上げ自体は成功した。しかし、問題はその後だった。
ロケットには、一個人が遺したカメラがカプセルの中にぽつんと一つ載せられていた。
同盟国の技術をかき集めて作られた、最高級のカラーフィルムカメラ。それが、落ちてきたのは……。
敵国である、連邦だった。
「これは、軍事機密である。合衆国に返還すべきではない。」
磨かれた革靴にたくさんの徽章を縫い付けた軍衣を着た白髪の男がそう発言する。
「いや、これは、人類の未来であり、希望でもある。返還するべきだ」
純白の白衣を爽やかに羽織っている若者が少し苛ついて言い返す。
ジリリリリリリ――。
「はい。はい……。こりゃあ大変だ。合衆国の大統領様が、うちの総書記に頭を下げたんだってよ。で、判断は俺らに任せるってことらしい。どうする?小僧。」
軍衣の男は皮肉交じりに、若者を煽る。
「軍としては、ミサイルに使える、その『ロケットエンジン』とやらを貰えれば、後は好きにしていいのだが……。」
若者の顔が輝く。しかし、すぐに顔が苦くなった。
「まあ、ロケットエンジンくらいなら……。いいでしょう。
二七研究所から、ロケットエンジンの技術を提供しましょう。その代わり、写真は返還しますよ?」
「ああ、交渉成立だな。」
男はそう言って、会議室を後にした。会議室に一人残っていた若者は、少しばかりの涙を流していた。
連邦での決定から二週間ほど経った頃、合衆国の研究所では、一つだけ遮光カーテンが閉まり切った部屋があった。
連邦の国章が入った封筒から慎重に薄い薄いフィルムを二枚取り出す。
赤い光だけを頼りにしている部屋の中には、ツンとした薬品の匂いが充満していた。
手袋越しに触れるそれは、あまりにも軽かった。軽すぎた。人類の未来が彼の手のひらの中にあると思うと、手の震えが止まらない。
親友は、慣れた手つきでフィルムを現像液に浸す。時計の秒針の音と、たまに響く分針の音が心臓に響く。
何分経っただろうか。天羽の手ににじみ出た汗が、ポツリと床に落ちる。
黒い闇の中に、白いモヤッとしたものが現れた。雲だった。次第に碧い輪郭が浮かび始める。
写真で何度も見た輪郭。そして、二度と同じものが撮れない雲。
そこには、一つの惑星があった。
誰も、その光景には名前をつけられなかった。
ただ一人、天羽真を除いて、すべての人類が自分たちの住む場所を初めて外側から覗いた。
浮かび上がった碧い一つの惑星を見てフッと、溜息が漏れる。
写真の中には、国境線はなかった。
あっち側の国は、宇宙開発はいつも銃殺刑と隣合せだ。そう知りながらも、自由なこの国で宇宙開発をしている。
俺は、電報を送ると共に、もう一枚のフィルムを封筒へ入れた。国境を隔てて同じ空を見る男のもとへ。




