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パドマの箱庭  作者: 菌床
8/14

08:五歳児の我慢


 いくら身分差を感じない前世の記憶を有する私だって、それなりに現世で貴族としての尊厳や立ち居振る舞いなどの教育を受ければ、その身に相応しい「斯くあるべき」意識は歳相応に醸成する。

況や成人女性の意識があるのだから、その必要性を同年代より純真さなく打算的な視点を多大に含み、理解をしているつもりだ。


理性はそのつもりではあったのだが。

如何ともし難い反抗心を私はクロヴィス王子殿下に抱いた。


初めて保護者なしのタイマンで接したのがまさかの王族、此方が平身低頭するしかない最高位。

狭い私の世界で唯一家格の上である辺境伯の双子が「キミらはウチの子」だと言える程の気安さも相俟って、かの王族の尊大さは「なんだこいつ自分勝手で嫌な態度」と見えたのだ。


天上天下唯我独尊のストラス邸の五歳児は、命令されなれていないのである。

どうかちゃんとあの時は猫で顔を隠せていたと信じたい。



つまり何が言いたいかといえば、私は現在進行形で理性放棄の上、絶賛五歳児をしていた。


「レム兄様、空に晴天を齎すまたは天候を司る神様の御名を教えて下さい」

「なんとも健気な抵抗だね…」


私が真顔で切り出した質問にギレムお兄様は食事の手を止め、思わず目頭を押さえ俯いた。

仕方あるまいよ、王子殿下の発言のせいで私達の楽しい夏の計画に狂いが生じたのだから――。




 凡そ半日ほど時間を遡ったあの後から語るとしよう。


昨晩、我がストラス伯爵家が主催した夜会は何事も無く幕を閉じ、見送った使用人曰く、参加した大人も子供も実に満足げな面持ちで各々帰って行ったそうだ。

良かった良かった、お疲れ様みんな頑張ったね!で終わるはずだった。


そう、家族に報告事案を抱えた私が気不味い顔をして起きて待っていなければ。


「社交辞令かと思いますが」の前置きをしたにも関わらず告げた王子殿下の言葉にお父様は頭を抱え、お母様は天井を仰いだ。お兄様方はというと、気丈にも前後の会話の流れを聞き出し、その後ぴたりと揃って長い溜息を吐いて俯いた。

大変息の合った仲良しでございます。かわいいね。


そこからの行動は意外にも早かった。

「まぁどうせ冗談でしょうねうふふ」などと悠長に構えず、両親はお顔を引き絞め即座に辺境伯爵家へ手紙を送る決断をした。

夜会の余韻に浸る暇もないとはこの事である。


夜会の参加御礼もそこそこに、記した事案は以下のような文面だ。

『娘の話では、王子殿下が我が家に滞在を希望する旨を頂いたとの事です。ストラス領で避暑を楽しまれる間の何時になるかはまだ未定ですが、ご子息達もご一緒に我が邸へ滞在されては如何ですか?』と。


平たく言えば「一緒に王族案件巻き込まれる?」である。

実に、遅い時間に届けられた辺境伯家の驚嘆が聞こえそうな内容だと思う。


王子殿下が子供部屋にいらした事、そこでの様子を辺境伯夫婦も双子から聞いていたのだろう。

恐らくその上でしたためたであろう返信が、翌早朝、我が家に届いた。


『恥ずべき事と重々承知しておりますが、まだ我が家の子供たちの教育は不十分。滞在された王子殿下に不躾な真似をする恐れがあるのなら、その恥を正直に申し上げるのが臣下としての当家の在り方でございます。お誘いのお心遣いだけを頂戴させて頂く不義をご寛恕ください。』


閣下の文面から滲み出る「やめておきます、頑張って下さい」。


アロイーズやオリアーヌが歳近いクロヴィス王子殿下と誼を結ぶのには丁度良い機会ではあるのだろうけれど、閣下達はこの様に判断を下したようだ。

お父様もお母様もそれは予想していたのか、ただただ粛々と頷いていた。

朝食の席で、もうどちらのお顔と態度からも「ですよねー」感が溢れ出していた。


ただ家族で唯一、私だけがその返信を聞き、絶望して顔を青くしてはしおしおと項垂れる。


(…つまり、双子のお泊りが王子退場まで延期…そして私は…また王子とタイマン…)


嫌である。非常に嫌である。

何が嫌って、そりゃあ双子と遊べない期間が延長されるのも憤慨ものだが、何より、ほぼ初対面の相手が断れない立場なのを分かって命令してくるような子どもの相手をすることだ。

泊りに来るってなんだよ、自分の宿泊先で早起きすれば良いだろ。

「一緒にどう?」と誘うのならばまだ可愛げがあるのにあの言い草は癪に障る。

全体的に口調は随分と大人っぽいのだが、行動はどう考えても問題児だろ。


傲慢不遜と書いて王子殿下と読んで差支え無いのでは?

他のやんごとなき御身分の方々が如何様かは知らないが、少なくともクロヴィス殿下はそう私の中で既に印象付けられている。


それに、万が一億が一、彼が我がストラス邸に滞在するとなれば、歳近い私が遊び相手になるのは火を見るよりも明らかだ。

あーあーあーあー!嫌である!!

この様に全力で嫌なのだが、現実として飲み込まなければいけない。


「…まぁ、尊き方々は御忙しいであろうから」


現実をなんとか飲み込み、あれ程楽しみにし我慢していた双子との交流を延期されたにも関わらず、文句一つ零さない。

だがあからさまに萎れた私を見て、お父様がそっと言葉を濁して慰めてくれる。

続いて語られた話では、我が家主催の夜会を皮切りに他家も続々と別荘で夜会を催し王族を御招きするであろう事や、滞在期間も二週間に満たないとの事だった。


で、あれば私が今すべき事はへこたれている事ではない。

気持ちを切り替え音もなく顔を上げ、ギレムお兄様へ告げた質問が先程のアレである。


私はこれより寸暇を惜しみ、教えて頂いた御名を唱え祈りをしましょう!

神よ!どうか我が祈りをお聞きください!

このストラスの地に晴天を!矮小な身に雲外蒼天を御恵み下さい!!


王子殿下の滞在中に雨が降らなければ良いのだ!

そうすれば!奴は!ウチに来ない!!



「『祈りとは己の為に在らず』をこんなに体現した実例、今まで見た事ねーな」


私が気落ちしていたからか、午後の訓練を軽めにしてギランお兄様とお茶をしていた時の事だ。

静々とお茶会室に入って来たお母様とギレムお兄様の同情に満ちた目は今や憐憫を伴い、ソファーに行儀悪く寝転びギランお兄様に頭を撫でられている私を見ていた。


「何故…神は私に試練を与え給うたのか…」

「『乗り越えよ、さすれば女神ロテュス様への道は拓かれる』ってか」


苦笑しながら零すギランお兄様の指が優しく私の地肌を撫でる。

あー甘やかしてくれている、嬉しい。

お膝に頭を乗せてしまおうもっと撫でて下さい、沁みる。


午後に届いた王家の書簡には、明日よりクロヴィス王子殿下を預ける旨が記されていた。

本当もう王族案件嫌過ぎる。

なんでだよちゃんと親しろよ、命じるなよ。一方的に決定すんな。


そもそもこういうのは身分云々の前に、親が子供同士の交流を目にして相性なり関係性をちゃんと把握して先方に相談するのが普通だろうよ。

辺境伯夫人はそこをちゃんと押さえてお母様に打診してくれたぞ。

寧ろお母様の方が誘うくらい、家格に胡坐をせず弁えた御方だぞ。

陛下達も夫人と同じ年代だろうに、何故それが出来ないのかとつい比べてしまう。


私のお母様は辺境伯夫人よりも一回り上だからか、相手が王家でなくとも飲み込み受け入れてくれる度量があるけれど、それにしてもこのやり方を私は好かない。

家族にまで嫌な思いをさせているのではと、本当、昨日の自分の迂闊さが悔やんでも悔やみきれない。


はぁと何度目かになる溜息を思わず漏らすものの、実際に受け入れの準備の指示や手配をし、あれこれと気を揉み苦労をするのは大人達だ。

彼等の心労は計り知れない。

他家であれば、王族が邸に足を運び且つ宿泊するなど誉れであると考えるのだろうけれど、どうやら我が家全体の認識は私と同じであるようで、誰も彼もが畏れ多さに言葉を失している。


「まぁ…我が家の家格は王子殿下も知るところですからね。

 力の及ぶ限りは尽くしましょう。貴女達も協力しなさい、良いですね?」

「はい…」


未だしなしなで身体の力が抜けた私をギランお兄様が抱き上げ縦抱きする。

ぽんぽんとそれこそ乳幼児をあやすように背中を叩いてくれつつ、対面に座るギレムお兄様と視線を交わして苦笑を漏らしながらお母様の言葉に頷いていた。

ああもう、明日が憂鬱過ぎる。



こうして翌日、来て欲しくない王子殿下は我が家に満面の笑顔で訪れたのだ。


「雨が降ってからでは其方らの準備が間に合わないであろうからな」


挨拶もそこそこにして、この態度である。

私の顔に猫を追加させるように、傍らのギレムお兄様がそっと肩を撫でてくれた。

大好きなお兄様の体温で猫が喜んで寄って来るのが分かる。


「我が家へのお心遣い、誠に痛み入ります。

 早速ですがご滞在頂くお部屋へ案内致しましょう」


先取して『フォーメーション:穏やか』の発動だ。

お顔立ちに威厳がありつつも意外とほんわかしているお父様と信頼と安定のギレムお兄様が、殿下を始め王族付きの方々を準備した部屋へと案内する。

敢えてここで社交力観察力共に優れるお母様を向かわせるのではなく、家主のお父様を同伴させ、我が家の歓迎の意を示しつつ滞在中のお過ごし方を提案する目論見だ。


今回、ストラス家の対クロヴィス王子殿下作戦目標は「迂闊な娘への二撃目をさせない」である。


字面にすると酷いとも思うが、かく言う私も懸命だと納得している。

己の社交力もだが制し切れない五歳児が暴れるのがとても恐ろしい。

ただでさえ精神安定剤である仲良し双子天使が近くにいないのだ。

此処は私よりも、周囲の大人達の方が良く把握していた。


クロヴィス殿下は既に剣術も学び始めていると聞く。

故に、武術に精通しているお父様から「我が家の護衛達と手合わせを致しますか?」と提案し外で存分に遊んでいただくのだ。

もしも殿下が図書室や、夜会の際にも話題に挙げ興味を見せていた魔法について話をされるようであれば、付き添ったギレムお兄様の出番である。

ここでやっとお母様が投入される。

『フォーメーション:捕縛組』だ、七歳児には過分過ぎる程の社交力が動員される。


ではこの場合のギランお兄様の任務はといえば、私のお目付け役である。


王子殿下へのもてなしのため、様々なフォーメーション(私が勝手に内心でそう呼んでいる)を発動させるが、最低でも必ず一人は私の側に付き添うようにするようだ。

正直私は一人で淑女教育を進めているだけでも良いのだが、大好きな家族が一緒に居て下さるのなら否はない。喜んで甘やかされようぞ。


こうして極力、教育不足である私と王子殿下の接触する時間を減らす作戦は順調に滑り出した。

彼の行動範囲を避ける関係上、私の淑女教育時間が多大に増えたが、些事である。

ストラス邸は再び一丸となって計画目標を遂行すべく団結した。



「滞在を延長する旨を父上母上に伝えた」


王子殿下が我が邸で過ごし、一週間も経たない内にそんな発言をされたそうだ。

その日図書館に付き添っていたギレムお兄様が遠い目をして、私の寝物語をするのに訪れた折りに教えてくれた。


(お前、家族と避暑に来ている筈じゃねーのか)


ヴュルテンベルク辺境伯家の双子天使を棚に上げて、私はそんな事を思った。

元々ストラス領での避暑後半は、陛下達と御過ごしになるご予定だった。

過去形であるのが本気で謎なのだが。

なお雨は降る気配が微塵もない。


「まぁ…王家がご滞在の邸に戻られても陛下達は御忙しいだろうしね…」


つまりストラス邸であれば遊び相手が居る、と。


いや、避暑地の別荘にも居るだろう!誘いもあるだろうよ!

お前!ただただ!私の家族に懐いてしまっただけだろう!ふざけるな!

こんなところで年齢相応の甘えを見せるんじゃない!!


確かに!庭に出て剣を取ろうものなら、大人の護衛よりも歳が近くかっこいいギランお兄様が相手してくれるし!何ならお兄様は優しいので口調は私達に対するものより固いが、ちゃんと相手を見て緊張をほぐすように見守って接してくれるし!

今や図書室で本を読むだけでなくお茶の相手、話し相手として、殆どの時間ギレムお兄様を我が物顔で連れ歩いているし!お兄様は知性溢れる穏やかなお人だから!話しは面白いし気遣いも最高だし!一緒にいるだけで和むし!懐くのは納得だけれども!!


私の!!お兄様達である!!!!

お前の!お兄様じゃないんだぞ!!!!!


アロイーズやオリアーヌにはそんな事を微塵も思わなかったのは偏に私の心象だ。

贔屓だと罵られようが、断固として主張は曲げない。

お前はダメだ王子殿下!速やかに帰れ!王宮に帰れ!!!



この発言を聞いてから、私の顔から猫が逃げるのが段違いで早くなった。

気を抜くと真顔になるのをお母様が鋭く察しては、その細腕でさっと抱き上げ退散させる。


ここのところ家族専用のお茶会室で私は幼児退行していた。

もう嫌でござる、あいつ嫌いでござる。

己の尊大な態度を振り返りもせず尚且つ人の家族に当然のように甘えてやがる。

度し難い。本当早く帰ってくれ。

回収に来ない陛下達も陛下達だ。

幾ら家臣とは云え、礼を失し過ぎれば顰蹙を買うぞ。


などと内心思いながらも口にしないのは淑女教育の賜物。

そして淑女教育が身に染みていないのか、お母様から引き継いだギレムお兄様のお膝の上で私は顔を顰めて行儀悪くお茶を啜っていた。

今、彼の暴君は外でギランお兄様を独り占め中だ。

何故私が隙を見るように自分の家族とお茶をしなければならないのか。

どう考えても憤怒案件である。


「リーシャはどんな魔法が使ってみたい?」

「どの神様にお声が届くのかにもよりますけれど…レム兄様と同じ水の魔法が使いたいです!」


専ら会話の内容は遅々として進まぬ魔法訓練についてだ。

元々武術訓練がもう少し形となってから、魔法についてギレムお兄様に教えてもらうつもりだったのだが、今は武術訓練の時間も随分と減ってしまい進捗が遅い。

このままではお兄様達が学院へ上がる前にどこまで教えてもらえるのか未知だ。


「僕もそうだと嬉しいけど、こればかりはね。

 でもリーシャがどんな魔法を使うのか分からないのも、僕にはとても楽しみだよ」

「んふふ、お祈りは届きませんでしたけど、レム兄様と一緒なら神様も聞いて下さりそう!

 レム兄様は魔法を願う時、どんな事を考えていらっしゃるの?」

「そうだね…何よりもまず御力を助力願う、貸して頂く気持ちが大きいかな」


ゆったりとした仕草で私の髪を撫で梳き、藍玉のような瞳を緩めて微笑む。

その穏やかな空気に全身を浸す様にして微睡む時間は至福である。


この世界での魔法は神様の御力を貸して頂く、という意識だ。

その際に希う神の御名を唱えるため、何の魔法を使うのかが相手に分かりやすい。

意外にも、前世のマスクのように口元を塞いでしまうと御名が神に届かないらしい。


なので魔法使いの多くは襟の高さが口元まである服装をする者が多いそうだ。

ギレムお兄様も訓練時はそういう、まさしくローブのような外套を羽織られる。

めちゃくちゃ異世界っぽくて心が擽られる!荒ぶるぜ!


また、口元を隠さずに魔法を唱えるのは信用している相手の前だからこそ、との認識がある。

なのできっと私がギレムお兄様と魔法の勉強をする際は口元を隠さないだろう。

二人できゃっきゃしながら訓練するのだ!楽しみである!


想像しては顔が緩んだままの私を、ギレムお兄様が全力で撫で甘やかしてくれる。

お母様が素直に託すのも納得の甘やかし力である。

本当に我が愛しのお兄様方は、揃いも揃ってかっこいいだけでなく頼れるしっかり者だ。

甘やかされるばかりの妹ながら誇らしい。

あの王子殿下が陥落するのも致し方ないのかもしれない、とちょっとだけ思う。

しかし譲らないが。

この膝の上は!!私の!!特等席である!!!


「レム!図書館で昨日の続きを…」


いつの間にかギレムお兄様を呼び捨てにしてくれてやがる王子殿下が、剣訓練を終わらせたのか、息を弾ませ家族のお茶会室に突如押しかけて来た。


おいそれは流石に自重しろよ。此処は完全に家族専用の部屋だぞ?

幾ら王族と謂えども他家における不可侵領域に足を踏み入れるのは不躾だ。

そんな事も分からぬ年端では無いし、況や私に尊大な態度をしてみせたあの殿下なら当然弁えている常識だ。


ノックも無しに開け放たれた扉に、ギレムお兄様も膝に乗った私も目を見開き固まるのを目にして、飛び込んできた彼は浮かべていた満面の幼げな笑みを一瞬で消し去った。

己の失態に気付く前に何故殿下の周囲は止めないのだ。

家格の低い我が家の使用人が止められる訳などないのだから、考えろよ。

お前らまで不遜になって無礼を働くとは何様のつもりだ?おい、いい加減にしろよ?


猫も忘れ己の視線が冷ややかになるのが分かる。

それを見た相手が、顔をこわばらせながらも虚勢を張った。



「…ふっ、そうして膝に乗っているとまるで赤子のようだな、妹君?」



テメーほんと、言うに事欠いて謝罪もなしにソレかよ。


「お言葉ですがクロヴィス王子殿下、此処は貴方様の王宮では御座いません。

 どうもお忘れのご様子ですので謹んで進言致しますが、此処はストラス邸で御座います」


敢えて膝に乗った赤子姿勢で告げてやるよ。


「御覧の通り、私は私の邸で、私が敬愛し親愛する家族との団欒をこの様に甘受し過ごしております。

 とても抗いがたく家族の愛に浸れる至福の時間ですの」


如何にこの温もりが尊く甘美であるのかを語る様に、陶酔と誇らしさを前面に出し恥じらいなど微塵も見せないで言い切れば、対して相手の顔が歪んだ。


「しかし仰る通り他人様にはお見苦しいこの有様を、努々、それこそ尊き方の御目に晒すなど…全く、爪先程たりとも思い至りませんでしたわ。

 何せ、この部屋は、家族だけが踏み入る部屋ですから」


謝罪すべきは王族であろうとお前だよ。

例え、頭を下げるなと親に言い聞かせられた七歳児だろうが、その判断を誤った時点でお前の退路は断たれたと思え。

侵してはならない場所へ、お前は土足で踏み入った闖入者だ。


私は決してお前の謝罪を受け入れない。


「…それは、」


今更己の行動を振り返るような仕草を見せるも、私は強く首を振ってそれを止めた。

ただ、後ろから遅れてやってきて事態を把握したのであろうギランお兄様に視線を向ける。


「ラン兄様、私の不勉強故、心構えの未熟さ故にこのような事態になってしまい申し訳ございません。

 お叱りは如何様にもお受けいたします」

「あい分かった」

「クロヴィス殿下、図書室へ参るのですね?ご案内いたします」


ギレムお兄様がそっと私を下ろし、愛おしそうに何度も頭や肩を撫でてから名残惜しそうに立ち上がる。

硬直したままの王子殿下を促してギランお兄様の横を通り、二人はお茶会室を退出してゆく。

廊下では、王子殿下を制止しなかった護衛や側仕え達に我が家の使用人は眼もくれない。

表情に張り付けたような笑みだけを浮かべるも、勿論何か言う訳でもないのだ。

だが王子の護衛達は居心地の悪そうな面持ちで踵を返し、殿下と共に図書室へと向かった。


ギレムお兄様と入れ替わりにギランお兄様がお茶会室に入って私を抱き上げ、無言で抱き締めた。

その熱を私も思いきり抱き締め、顔を首筋に埋める。

訓練をした後だからか、慌てて走って来てくれたのか、少しいつもより体温の高い身体が今はとても胸を締め付けた。


「守れなくて…不甲斐ない兄様だな」

「私の家族はこの世界で一番頼もしくて素敵です、愛しております」


だからそんな悲しい言葉も、想いもさせたくないのだ。


王族相手なのだから、我々は一臣下に過ぎないのだから、仕方が無いじゃないか。

そうやって己に言い聞かせ荒ぶりそうな感情を呑み込む。

目の前で家族を嘲笑されても我慢してみせたお兄様方の努力を無駄にしたくない。

事実、私が未熟だから不敬にも物申しただけ。

不興を買うのも、バカにされ言い返した私だけで良い。


でも今はもう少しだけ、その愚かな妹でも愛してください。

どうかこの瞳から涙が零れない程に強く抱き締めていて。




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