↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パドマの箱庭  作者: 菌床
四章:あの花情恋意をもう一度
79/95

67:五歳児の機知頓才


 一体誰がこんな事になると想像しただろう。


(予想外過ぎて何の対策も打ってない…)


やや呆然とした私は、寄り添ういつもの温もりを求めて膝の上で組んだ指先が動きかけるが、それは今は傍に無い事を思い出してより一層の脱力感と心細さを抱く。


今、私の目の前には穏やかに微笑み腰掛ける殿上人が居る。


彼の美しい青みがかった銀髪は、まるで彼こそ光だと言わんばかりに、窓から差し込む陽光があたっている訳でも無いのに艶やかに煌めき、知的さだけでなく威厳をも備えた黄金の瞳は在るだけで我が家の応接間の格を上げた。


この、銀と金こそ我がデュドネ王国王家の象徴だ。

ここまで美しく証を持った一員も久々らしい。

素晴らしく喜ばしい慶事だと当時から寿がれた彼は、その周囲からの期待を損なわない素行と性根をお持ちの御様子で、人々に温かく見守られながらすくすく成長中の七歳である。


クロヴィス殿下は入室してから緊張しっぱなしの私を気遣うように、威厳よりも親しみを感じる微笑みや口調を心掛けて会話を続けてくれている。

が、内容が頭に入って来ない。

張り付けた微笑みが引き攣ったままだよ。

猫が完全に段ボールで出来たようなカックカクしたヤツだ。

こんな姿お母様に見られたら確実に再教育案件である。


「ストラス領は初めて赴いたが、自然が豊かで美しいね。

 今朝も別荘の庭を早朝に歩いてみたが空気の味すら違って感じられた」

「どんな味でしたか?」

「ははは、そうだね…ひんやりとしていて、緑や土を感じる薫りだったよ」

「まぁ」


どんな味って、それこそどんな質問だよ私。

やべぇトンチキな会話にも、彼は穏やかに丁寧に答えてくれる。

たった二歳差なのにこの大人の対応、流石王子殿下である。

加え年下の、田舎伯爵家程度の家格のガチガチ緊張娘にこうもお優しい。

そりゃ王都でも王城でも持て囃されるわ。

我が国は彼が居る限り安泰だろう、ありがたいねぇ。



ところで何で我が邸に王子殿下が再訪されているのかと言えば、先日の夜会を開いた家への御礼として両陛下の名代でわざわざ御足労頂いたのだ。

訪問後にもキチンと挨拶をする丁寧さ。

キミは前世の世界でも絶対昇進が早いタイプだろう。

何だこのしっかりとした七歳児、いっそ末恐ろしいわ。


元々事前に夜会の三日後の御来訪打診を頂いていた。

ね、此処で既にちゃんとしてるよな。


ただその席はお父様だけが参加する予定で、時間も短時間だ。

長居もしない、これも大事だよ。

なんせウチは田舎伯爵家なんでねぇ、高位貴族も勿論王家の方々なんて礼節が至らな過ぎて恐縮が先立つってもんである。


なのでお父様が応接していたのだが此処で予想外の出来事が起きた。

そういえば、御息女は健やかにお過ごしか?と、尋ねられてしまったのだ。


勿論お父様にもマノン達から夜会当夜の不躾について報告は上げてもらってあり、その点は当日の内にお父様とお母様が謝罪をさせて頂いた。

クロヴィス殿下は私本人にもそうしたように鷹揚に謝罪を受けて下さった。

だから安心していたと言っても差支えないだろう。


故に態々話題として触れられるとは思いも寄らず、これにはお父様も驚いたようでどうにかせんと取り繕いも相俟って、今日の午前中私が元気に庭を走り回っていた様子を伝えたそうだ。

実に余計な一言である。

お父様が社交を苦手なのが良く良く分かった。


その話を聞いても王子殿下は嫌な顔をせず、寧ろ微笑ましいとすら頷きながら、我が家の暢気なお父様にそっと打診をしたのだ。


「先日はどうも御息女を怖がらせてしまったようでね。

 これは王子としての名折れ、叶うならば挽回の機会を頂けないか」


子ども同士の喧嘩なら両成敗として双方謝罪するのが前世流だが、今世は身分差がそんな事を許すわけはなく、下の者が上の者の赦しを請うに留まる。

なのでまぁあり得ないが、王子殿下が万が一私に謝罪したいとお申し出されたとしたら、不徳は我が家にありとお断りする事も出来たのであろうけれど、そんな事を言われてしまえば田舎伯爵は首を縦に振るしかない。


というか彼程の賢さなら断られるのを潰す為に、心にも思ってもない言い回しくらいするだろう。

寧ろその線が濃厚である。

だってなぁ、たかが田舎伯爵の娘相手に挽回もクソもいらんだろ。

王都の貴族令嬢であれば、身分も無視できるものでは無いし器量も良く教育水準も高い上、何より親の力が大きい家が多いので御機嫌取りをしておいても損は無い。


だから猶の事、何の目的があって私との席を御所望されるのかが謎なのだ。

昨晩話した内容が脳裏を過るのか、呼びに来たお母様の顔色は悪かった。

聞かされた私もサッと血の気が引いたのが自分で分かったよ。

一緒に遊んでいたレムが私に同調して尻尾を内側に入れていた、察知能力が高い。

我々は仲良し兄妹である。


そういう訳ですごすごとお父様と入れ替わりで私が席に着いたのだが、まぁ会話は当然のようにあの夜会の夜に移っていった。

ですよね、殿下が御気になっている点ですものね。

あー全く言い訳なんか考えておらんよ、頭が回らない。


「急に蹲った様子だから何処か痛めたのかと思ったのだが、元気そうで安心した」

「お心配り恐縮で御座います…」


そうだね、朝から庭でレム兄様と馬鹿みたいに走り回って笑い転げてたからな。

ただそれだけではしゃいで声上げるくらいには元気だ。

本当、子どもって何が楽しいのかって分からない事で遊んでられるからね。

成人女性の記憶があれど私も五歳児らしく、意味も分からず楽しくて仕方なくていつまでやってるんだと止められるか疲れ果てるまで遊び回っているけどさ。


「具合が悪くなった訳ではないのは幸いだが、となると理由が気になってね。

 夜しか眠れないくらいだよ」

「うふふふふ」


それは気にしてないって事じゃないですかぁ。

何だよぉ、急にぶっこんでくるじゃねぇかぁ。

緩急がジェットコースター過ぎるんですよ王子殿下ぁ。


「…もしかして、僕の背後に何かを『視た』?」


そっと声を潜めて彼は嫣然と微笑む。

なんだその意味深な雰囲気は。

某漫画みたいな超能力でもお持ちなのでしょうかクロヴィス殿下。

残念ながら私にはそんなものも視えないし、況や輝かしい王家の一員の背後に不吉なものでも視たと口にしたら最後。それこそ不敬罪に当たる。

クッソ、なんだキミは!我が家を潰したいのか!五歳児を切欠に?!

思わず背筋が気合で伸びた。


「もし私の瞳にそのような力があるとすれば、王子殿下の威光に平伏し拝礼する我が先祖の姿が見えた事でしょうね」


危機感がスイッチになったのか、猫を猫らしく纏って私は控えめに微笑む。

そっちが私を貶める気ならこっちだって抵抗はしてやるぞ。

こちとらキミの数倍生きている精神を持っているんだ!中身は薄いけどな!

愛しい家族を守るためなら、この軽い頭でもフル回転させて戦うさ!


「そうか、違ったか」

「幾ら自然が豊かな地で育っても凡庸は凡庸の儘ですわ」

「ふむ、であるならば増々謎だね」

「子供の癇癪とは知性の埒外に御座いますから」


考えたって無駄無駄ァ!とばかりに私は口元に右手の指先を添えて笑ってみせた。

その仕草を興味深そうに細められた黄金が見据える。

私の背後でマノンの緊張感と主人を窘める気配が色濃くなるのを感じるが、此処で引くような性格をお嬢様がしていない事は重々承知であろうよ。


「無事に何事も無く王子殿下の前から退席する」を第一目標に掲げていたが今ではそれは挿げ替えられ、「王子殿下が探っている事を聞き出す」となっていた。

それこそ平凡な同年代の子ども相手であればそれなりの成果を得られると目論めるものではあったが、流石王家の人間、魔の巣窟で生きて行く事を強いられた御人は手強い。


此方の体調を慮った様子は確実にブラフであろうが、私が泣いた理由が気になっているのは恐らく事実ではあろう。

言わないが。

寧ろ言えないからこそ探っているといるのだろうかな。

何とも好奇心のお強い方だ。


それとも彼も私が見た『記憶』、未来について何か知っているのだろうか。

彼がギレムお兄様の遡る理由に絡んでいる可能性も未だ捨てきれてはいないのだ。

舌戦に備えて私は一口紅茶を啜る。

一方、王子殿下も一旦は矛を収めた様子で口を開いた。


「随分勉強家なんだね、リーシャ嬢は」

「ただ賢しらな言葉を使いたがるだけです、子どもらしいでしょう?」

「私にもそんな時期があったよ」

「さぞ愛らしかったでしょうね、お会いしたかったですわ」


はっはっは、五歳児だから言葉の意味を深く理解してはおりませんよ。

そして自分の事ではなくて相手の事に話題を振り直す。

ついでに今の殿下に近づく気はありませんアピールも、過剰な程した。

これはちょっと皮肉を盛り過ぎただろうか。

彼も目を丸くしたかと思えば、屈託のない笑みを浮かべ肩を揺らした。


「二年前の私か、そうだな確かに、唐突に悲しくなる事もあったな。

 それにその頃の私ではキミに言い負かされてしまっただろうよ」

「聡明で慈愛に溢れるクロヴィス殿下はその頃からお優しいのですね」


笑いながら私の気が強い事をお察しでつつく彼に、重ねて強気で言い返す。

背後で愈々マノンが顔色を悪くしているのをひしひしと感じるぜ。

私の視界に映る王子殿下の従僕は何とも楽しそうなお顔をして笑っているが。


「そうだよ、今と同じくとても優しいよ、私は」

「ええ、ええそうでしょう。

 現にこうして私へ楽し気にお話を続けてくださっておりますもの」

「ははははは」

「ふふふふふ」


何か意外とこの王子殿下おもしれぇな。

自分で優しいと言うヤツ初めて見たぞ、詐欺師でも言わない。


もし私が危機感を覚えたように我が家を断じ貶めたいと画策しているのなら、彼が矛を収めたとしても壁を取り払わぬ上に、重ねて強気な姿勢を見せる私を無礼だと判じるのが一番手っ取り早いだろうに。

寧ろ自らを「優しい」と称し私の言葉を水に流した。

マノンが背後で深く息を吐き出したのが良く分かりましたとも。


先程から敢えて此方から突いてはみるもののそこに喰ってかかる様子を見せないのは相手の目的が違うのか、それとも今は機では無いだけか。

しかし高位程、唐突にブチ切れて圧掛けしてきても可笑しくは無いだろう。

収穫は無くともここらで手を引いた方が無難か。


「これが夜会当夜であれば、さぞ他家の皆さまも殿下との交遊を幸甚に存じた事でありましょう。その節は、御前を汚し誠に申し訳御座いませんでした」


改めて陳謝の意を込めて深く頭を下げる。

着座のままだが、立ち上がってする程格式ばるのはこの空気的には違和感だ。

それに、悪いが会話の主導権を私は手離す気はないぜ。


「伯爵からも頂いている、過剰だよ」

「いいえ、改めて我が家の不徳を恥じております。

 いくら王都から離れた地であろうと王家より託された民を導くべき貴族の一員として、己の不勉強を見つめ直し以後一層の精進をお約束いたしますわ」

「ふふ、そう?キミは充分、私と対話出来るていると思うけれどね?」

「それこそ王子殿下の御慈悲によるものでしょう」

「私の思う慈悲とは随分遠いものだが」

「与える側と賜る側の違いでしょう」

「そうか」


彼の黄金が、一瞬煌めいた。


「であれば成程、慈悲深いらしい私はキミが知りたい事を一つだけ与えようか。

 嘘偽りは申さないと女神ロテュスに此処で誓おう」


一発で会話の主導権を、いや、駆け引きの天秤が傾いた。

やべぇ、頭の良い人こええ、なんだこの七歳児。


私が殿下による唐突な接触を身分差や田舎者であるという恥じらいから緊張している訳ではないと見抜いた上で、警戒する理由を彼も訝しんでいるのだろう。

またその理由とやらが彼自身に関係している可能性も、十分に見抜いていた。


彼の申し出は慈悲のようでそうではない。

私が正直に理由を言い述べれば彼だって、私が警戒している訳を知れる。

神名に誓って虚偽はしないとまで申したものの彼ならいくらでもぼかせるだろう。

その辺りは互いの信頼が問題になるので微妙だが、少なくとも、正しく「与える側」の視点を理解した者こそが使える駆け引きだと肌身で分からされる。

はぁー…怖すぎて鳥肌立ったわ。


だが此処で怖気づいていてはいけない。

私が彼に答えもらうべき事を考えろ。

ストラス家を排するつもりが無いようなら、聞くべきは何だ。


「直ぐには思いつかないかな?であれば明日にでも…」

「いえ」


誰が連日の王子殿下対応を望むと言うんだ!やだやい!!

こんな心身に悪い時間は二度と御免だね!


「探し人がおります。

 我が兄ギランと瓜二つのビスキュイ色の髪と、ストラス領の湖を思わせる藍玉の瞳をした、恐らく歳は二十半ばの優しい面立ちをした男性です。お心当たりは御座いますか?」

「……………」


クロヴィス殿下はその美しい瞳を大きく見開いたままで固まった。

どっちなんだ、それは。

思い当たる人が身近にいるのだろうか。

それとも私が投げ掛けた質問が、彼の想定していた範疇では無かったか。


「答えよう、存じ上げない」

「…ありがとうございます」

「ああ悔しい、キミに負けた」


そう零しながらも笑っているのだから本当に出来た御人なのだろう。

歳に見合った笑顔を浮かべる殿下が纏う空気は穏やかで柔らかかった。

漸く、外で小鳥が囀っている音が耳に入るくらいに、此方の心地も緩む程。


「惨敗だよ。だがいい土産話が出来た」

「王都の御友人方に一体どうお話されるのか。

 怖くて暫くは其方へ出向けませんね」

「おいでよ、キミが居たら面白そうだ」

「十年経っても同じ御声を頂ければ幸いですわ」

「長いな」

「流石ですね、殿下は十年の長さを御存じで」


七歳の癖にな。

私はその更に下の五歳だが。

そんな事を言えば彼はまた楽しそうに笑った。

最初からその笑顔で出迎えてくれれば此方も気が楽だったのになぁ。


「はぁ面白い。

 実はね、避暑に出向くとなった当初は杞憂だったんだ。

 仲の良い幼馴染達は一緒に行かないと聞いてね」

「心中お察し致します」


滞在は二週間に満たないと聞くが、道中の移動も含めばひと月は友達に会えない、遊べないとなれば王子殿下だって寂しいだろう。

私だったら出掛ける前からどんよりしちゃうね。

屍のようになる一か月だろうよ。


「話し相手に飢えていたのもあるが、こうも面白い時間を過ごせるとは努々思わなかったから、うん、まぁその…キミが良ければ滞在中だけで構わない、またこうして話さないかい?」

「あの腹の探り合いを?」


態度を崩し、気楽な同年代として話す空気に引っ張られる。

こうした場の空気作りが上手いのは流石だと思う。

私も早々に猫を脱いだ。

ごめんねマノン、でも王子の従僕さんもにっこにこしてるんだもん。


「はっは、いいねぇ!何?やっぱり緊張はしていたの?」

「それはしますでしょう、殿上人ですもの」

「ふふ、良いよ口調を崩して、私も装うのは疲れた」

「宜しいと仰ったのは其方ですからね」

「ふふ、まだ念を押すのとか、ほんと。うん、赦す赦す」


雑に許可を出す彼は鷹揚に笑いながら紅茶を一口飲む。

話疲れたのか、笑い疲れたのかどちらかは敢えて聞かなかった。


「随分応報に慣れていたけど、リーシャ嬢は他の友人ともこうした会話を?」

「同年代の友人は全くおりませんねぇ、実際どうなる事やら。

 まぁ私の話し相手が七つ上のギランお兄様ですからこんな性格なのでしょう」

「子供部屋で…ああ、うんそうか」


あの後に退場したのを察したのであろう、クロヴィス殿下は言葉を飲み込んだ。


「じゃあリーシャ嬢は年の近い友人は居ないのか。

 だったら猶更、私の話し相手をしておくれよ」

「化かし合いですかぁ…」

「しないしない、してもいいけど?」

「いやですぅ」


私がゆるゆると頭を振る姿を、彼が微笑ましそうに見ては笑う。

こんな淑女の仮面を脱ぎ捨てたただの五歳児相手でも、平然としていられるのだから彼は本当に優しい御人なのだろうな。

地位だけでなく人徳もあるとかほんと既に名君かよ。


「そりゃ王家が来るとなる其方の気疲れは申し訳ないけれど。

 でもキミを此方に呼ぶよりは良いだろう?」

「お止めください」

「ね。私としても有象無象の相手をするよりよっぽど気楽だ」

「殿下はあの後子供部屋には?」

「行く訳無いだろう、キミが不在になるのは目に見えたし」


そりゃそうか。

主催関係者が居ないのに最高位の迎賓が顔を出せる訳もない。

なんだ、キミそういうところもちゃんを気配りしてくれていたのか。


「ありがとう存じます」

「いいよいいよ、別に挨拶しておかなきゃいけない家も無かったし。

 ああでも、辺境伯家の双子はお目に掛かりたかったな。

 天使のように美しく愛らしい相貌だと聞いている」

「別格でしたよ、そりゃもう、本当に天使が現れたかと」

「私を見てもそう思う?」

「系統が違いますねぇ」

「ふふっ、ははは、すっごいねキミ、怖いもの知らず?」


王子殿下を目の前にしてそんな事を言い放ってしまう五歳児ですが、ちゃんとその辺は人を見て判断をしておりますよ。

いやだって、キミそういうの気にし無さそうじゃないか。


「気にしたのなら謝ります」

「ううん、全く。ただキミの変わりようがなんか、ちょっと擽ったい」

「猫を剥いだだけですがねぇ」

「思ったよりぶ厚いのを被っていたようだ、ふふ、怖いねぇ女の子って」

「王都の御令嬢は私の比ではありませんでしょうに」

「逆に元々がね、キミみたいに奔放で勝気じゃないから」

「あらまぁ」

「気にした?」

「いえ全く」

「ふふふ」


こんな応報をも楽しいと言わんばかりにずっと彼は笑っていた。

本当、きっと幼馴染の方々ともこのように気楽な仲であれば、確かに寂しくて誰か話し相手を求めてしまうのは仕方ないだろうな。


「話を戻させて頂きますが、ストラス領に滞在中のお相手、私は構いませんよ」

「おお、やった」

「ただ我儘をお許し頂けるのであれば、兄が私に構ってくれない時間で」

「ふむ?そこは兄君を交えて、ではなく?」

「私は兄を独り占めする時間を減らすつもりは御座いません」

「はははは!そう来たか!兄君と仲が良いんだねぇ。

 確かに、先日挨拶を頂いたが聡明そうな凛々しい方だったな」

「そうでしょうそうでしょう!私のお兄様は世界一ですもの!」


その場で飛び跳ねるかの如くテンションが上がった私に、まさかの彼の従僕が眼を見張るものだからちょっと落ち着きを引っ張り出した。

もっとお兄様自慢したかったのにな、ちぇっ。


「ふふ、分かったよ、キミの幸せを脅かすのは愚策だろうからね」

「本当にクロヴィス殿下はお優しく慈悲深い」

「言っただろう?私はとても優しいと」

「ええ、御言葉のままだと思っていましたとも」

「良く言うよ」


またくすくすと肩を揺らして殿下が笑う。

彼はかなり笑い上戸なのかもしれない。

それともこうした同年代との対話に飢えていたのだろうか。

はぁー王都の子供たちの会話って結構大人びているなぁ。

まぁ私は気楽に話せるので構わないが。


こうして思いの外楽しい時間をダラダラと続け、王子殿下は余所行きの笑顔で別荘へお戻りになられた。

それを見送った後に、お父様のところへ向かい顛末を告げる。

天井を仰ぎ見て黙するお姿に家令も労しい気な視線を向けていた。


「……昨日の会話は、何だったんだ」

「まぁご滞在中だけですし」


お父様が指摘しているのは、私の交遊関係が暫くは広がらない点についてだろう。

それは私も驚きである。

でもまぁ、クロヴィス殿下はイレギュラーだろうし期間限定だ。


「私と違い殿下は王都に親しい幼馴染の方々もいらっしゃいますから」

「そうだな…うん、いや、まぁ…」


どうも歯切れの悪い様子のお父様に私は小首を傾げるが、いくら待ってもその理由は教えてくれなかった。

多分、恐らく、私が内心で抱えていた王子殿下との縁についてだろう。


仕方が無い。

こういうものは早々に片付けておくのが良いのだ。

じゃないとお父様の頭髪に影響が出るかもしれないしな。


私は一人心の裡でしっかりと決意した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。