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パドマの箱庭  作者: 菌床
6/11

06:五歳児の反逆


「リーシャは眼が良いし、反応に身体も追いつくとは思っていたしな。

 ギランに常々言われてたいよ『ありゃ武術をやらせた方が良い、勿体ない』ってな」


とは、新たに剣を習う許しを申し込みに向かった先でのお父様の言。

貫禄あるお父様は剣を握りいざとなれば敵の前に立ち戦える勇猛な男だそうです。知らんけど。

ただしやや脳筋であるためか、「俺も教えられる事があるのが嬉しいよ」と深く考えていない様子で笑っていた。


「リーシャ、武術を学ぶ事は身体だけでなく心も苦しいものです。

 それでも学び続ける覚悟があるのですね?」


対してお母様は膝を折り真摯な瞳で私の顔を覗き込んでは、何度も頬を柔らかな手で撫でた。

お母様は魔法が得意なお方だ。

だから娘が学ぶなら武術よりも魔法の方が良かったらしいと後日小耳に挟んだものの、私が魔法を先に選びとったとしてもきっと同じように楽しいことばかりではないぞと似た事を言うのだろうなと思う。

しっかり地に足がついた人柄だ。実に頼もしい母である。


「武術が辛くなった時は気分転換に魔法を学ぼうかリーシャ。

 導入程度なら僕も補佐出来るし、一緒にやろうね、楽しみだな」


相変わらずギレムお兄様は私に逃げ道を用意してくれるかのように甘やかしてくれる。

最高です、大好きです。家族の分担がしっかりしていて妹は幸せです。手厚い。

辛くならなくともギレム兄様と一緒に学べるのならば喜んで魔法にも挑戦したくなるくらいにちょろいです。


「リーシャ、辛くなったらすぐに俺に言えよ?

 すぐにその根性叩きなおしてやっからな」


などと恐ろしい尻叩きを宣告するギラン兄様だが、その表情が優しいので私もにこにこ笑いながら大きく頷き返した。

こんな事を口にしつつ、一番小まめに気をかけて見てくれるのがそれこそギラン兄様だろう。

素直じゃないとかではなく、厳しくしきれないだけ。

私としてはもう、その心遣いが嬉しくて愛おしくて。

ぽかぽかと胸が満ちては温かさに笑顔から顔が戻らない。


家族が大好きだ、この家族のために私は頑張れる。


私自身の本来の気質もあれど、私はオリアーヌ達に比べて危機意識が薄いと自覚している。

そんな私をしても、彼らを守る覚悟を得る試練なら喜んで受ける。


ああ、どんとこい。

身体の傷も心の痛みも、歯痒さもやるせさすらも、なんであろうと受け抜いて立ち続けてやろうよ。

全て私の家族愛の前に平伏すが良い!



こうして私達の日課に新しく『武術』という訓練時間が加わった。


勿論、まだまだ小さな身体であることを考慮し重すぎる内容は控えられた。

あれだけ毎日走り回っていて我ながらそこそこの体力はあるのではと自負していた意識を早々に改めるものではあったが。

寧ろ昼寝を挟んで夜まで騒ぎ立てる五歳児共を黙らせるために組んだのではないかというメニューだ。


腰にタオルを挟んでの鬼ごっこは私が常勝を誇るが、素振りの美しさはオリアーヌが一番。

女児二人がへばる中でアロイーズだけは息を弾ませてはいるもののしっかりと立っていられる。

ここでもそれぞれの得意が分かれるのは流石だと思った。


終われば泥だらけになった身体をイモ洗いされ、白目を向きながら夕食をどうにか口にした後、ふらふらとベッドに入れられれば三秒でお休みしてしまうのがちょっと悔しい。

早く体力を付けないと夜にみんなで遊ぶ時間が取れない。

そう考えるのは泊りに来ている二人も思っているのか、皆集中して訓練に臨んでいた。



それこそ大人の掌の上だったと私達が気付いたのは夏の気配が強くなり始めた頃だ。


「してやられた」

「汚いわよね」

「大人って本当」


三者三様に頬を膨らませ不平を零した。

ここのところずっと、午前中はアロイーズの持ち込んだボードゲームを永遠と飽きずに遊び、大人に取り上げられるようにして何とか昼食を挟んで小休止のお昼寝。

そこから起きたら思いきり外で訓練に出て、もうそりゃ爆発するように全身を跳ねさせ駆け回る。

終わった後の流れは先に述べた通りなので割愛するが、雨の日に午後が読書やかくれんぼになるくらいしか変わりない。


そう、つまり私達は、計画していたピクニックや邸の敷地外に、まだ一度も遊びに行けていないのだ。


にも関わらず!夜会が近いので!ヴュルテンベルク辺境伯の子どもたちは!もう今夜から自分たちの別荘に泊まる流れとなっていたのだ!


私達が大人しく邸で遊び惚けて、しかも午後は庭で訓練ばかりしているから!

大人たちの夜会準備はそれはそれは順調に進んだらしい!

誰だこの策略を練ったのは!お母様ですか!まさかお兄様方じゃないでしょうね!


あんなにっ!この可愛い妹が!みんなで外へ遊びに行くのを楽しみにしているのをっ!!

存じ上げておきながらこの仕打ち!これだから大人はっ!頭が良いですね!

五歳児の集中力を把握するのも、注意を引くのもお手の物ですか!


「目にもの見せてやるわ」


最近覚えたオリアーヌのお気に入り表現が飛び出せば私は間髪入れずに頷き、アロイーズは少し眼を泳がせる。

逃がさないぞと二人でその手を握りそのまま引き連れ、三人で護衛や侍女に向かって今日は午後の訓練をお休みにして遊ぶ時間にしてもらうようお願いをする。


五歳児を手玉に取るのなど朝飯前の大人達はすぐさまその場で了承した。

数秒前の不穏な発言も、所詮子どものやる範疇だと甘くみているであろう事が良く分かる。


(ふはは!ここに成人意識と知識を有する五歳児が居ることを知らぬが命運の尽き!)


「リーシャ、何か案があるの?」

「任せてアロ」


そこでそのまま話し込めば見守る大人達の不審を買う。

なのでまずは昼寝の時間に、とだけ耳打ちいつも通りに午前中を無邪気に遊んで過ごした。


私の考えている計画自体はとても単純だ。

まず昼寝は狸寝入りをし、人目が無くなったら起き出して計画を詰める。

午後の遊び内容をかくれんぼにする流れを作り、そのまま三人で邸に籠城するのだ。


(立て籠るなら施錠できる部屋が楽。窓もない方が良い…さて食糧庫が第一候補か)


これから起こす事に興奮しているのはどうやら私だけじゃないようで、双子二人も爛々と眼を輝かせて中々昼寝に入らない様子を、大人達は「午後も遊べるのがそんなに楽しみなのですね」と微笑ましいものを見るようにして笑っていた。

その様子に三人で顔を見合わせ、誤魔化すように誰もが眼を閉じながら大人達への笑いを堪えている。


(素直に三人揃ってベッドに並び、肌掛けの中に納まるくらい聞き訳が良いのも今の内だぞフフン)


などと思っていた時もありました。

狸寝入りが本気寝になるなどお約束過ぎだ。

習慣とはこれほど恐ろしいものなのかと肌身で感じ、恐怖した。

起き抜けの寝ぼけなのか、現状に気付いた呆然なのか判別のつかない互いの顔を見合わせた。


「…リーシャ、ごめん」

「なんてことなの」

「まだ…!あきらめちゃだめ…!!」


今度こそと一念発起しこそこそと三人で顔を寄せ合い、小声で計画を練り直す。


「とりあえず午後はかくれんぼをしよう」

「鬼は誰を?三人で隠れるんでしょ?」

「私の護衛のエタンよ、彼意外と抜けているから…そこは私に任せて」

「分かった」


エタンを上手く動かす術を私は持っている。是非任せて欲しい。


「どこに隠れるの?」

「食糧庫を第一候補に考えているのだけれど」


私はすかさず寝落ちする前に考えていた内容を提示する。

オリアーヌはいいわね、と肯定を示すものの、アロイーズは暫し黙った後に口を開いた。


「食糧庫は内側から鍵が掛けられるの?」

「ハッ」


鍵の有無を考えていただけで内鍵外鍵を考えていなかった。

なおリーシャの私室は外鍵だけである。

しまった、成人意識が完全に仕事を放棄していたようだ。


「お母様の部屋なら内鍵もあったと思う」

「夫人の部屋には流石に僕らは入れないよ…」

「ふむ」


そりゃそうだ。


「ねぇねぇ!トイレは?」

「ええ…?」


オリアーヌの閃きにもアロイーズは冷静にドン引きした。

中々この五歳児、理性がしっかりしている。


しかし考えれば考える程、意外と内鍵が無い部屋がストラス邸には多い。

賊が入った時を考えていないのだろうか。

いや、その前に守衛や護衛が戦うので踏み込まれない前提だろう。


「あっ!」


思い至り思わず声を上げた私は自分で自分の口を塞いだ。

それを双子がきょとりと見た後、更に顔を寄せる。


「リーシャ」

「良いところあったの?」


ほぼ吐息のような囁きにこくりと首を縦に振ってみせ、二人の眼を覗き込んでは力強く手を握った。

そのまま三人揃って、見守っていたマノンの前に駆け出す。


「ねぇねぇマノン!かくれんぼの鬼をやってくれない?」

「私がでしょうか?」


打ち合わせもしていないのに、左右の双子は揃ってにこにこ笑顔を浮かべていた。

もう既に私へと主導権を預けているのが、まさに手に取る先で分かる。

此処で「鬼役はエタンでしょう?マノンじゃないよ?」と言わないのは流石である。

我々の以心伝心具合は中々のものであろう。


「百数える内に、私達それぞれが邸の中に隠れるから!」

「それはそれは…私一人では探し切れるかどうか」

「うん、大変だと思うから、エタン!エターーーン!」


私は声を張り上げ扉に声を掛ける。

そうすれば然程間を開けずに呼ばれた護衛のエタンが顔を出し、小首を傾げる。

廊下で他の護衛が笑っているのが見えた。


「お呼びですかお嬢様」

「あのねっ今からかくれんぼをするから、鬼をやって欲しいの!マノンと一緒に!」

「おやまぁ」


告げられたエタンは驚きを浮かべたままマノンに視線を投げ、彼女は彼女で苦笑を浮かべ小首を傾げた。

更に護衛はおねだりをするお嬢様、そして双子へと目線を落とす。

私はすかさず追撃するため口を開いた。


「私達それぞれ邸の中に隠れるわ!マノン一人じゃ大変だからねっ手伝ってあげて!」

「そういう事ですか…マノン、俺で良い?」

「ええ、勿論」


何か通じるものを二人の間に漂わせた様子に、リーシャは内心で拳を握った。

こちとら伊達に成人女性していないのである。

常に側で使えるマノンの視線も、エタンの様子だってお嬢様は把握済みです。

期待通り、いや計画通りである。


「ありがとっ!じゃあ百数えていてね!!」


満面の笑みでそう言い放つや否や、三人で弾丸のように部屋を飛び出す。

瞬間的な瞬発力や短距離走はリーシャが一番早いのだ。

それを追うようにオリアーヌが付き、やや後ろを確認しながらのアロイーズと続く。


「次の角をオーリとアロは右に行って一階まで降りてから、食堂の机の下で待機してて!」

「分かったわ!」

「うん!」


先に私は左に角を曲がり回廊となっている廊下を走り抜け二階まで降りてから、外階段を目指し再び三階に戻ると先程通ったのとは別の方向からそっと私の部屋前の廊下を窺う。


(よしよし)


丁度数え終わったのだろう、笑いながらエタンとマノンが部屋を出て来た。

部屋前で待機していた護衛達に子どもたちの向かった方向を聞きながらゆったりとした足取りで進む。


私はそれを見終えるや否や、外階段に戻りその手摺を滑り台代わりにして地上まで最短で降りる。

外階段は使用人の通路として使われるのが主なため、裏口にも程近い。

この時間は施錠されていないのを勿論リーシャは知っている。


「おわっ!お嬢様?!」

「おつかれさまっ!」


飛び込んできたリーシャに驚きの声を上げる調理場の面々に挨拶を投げつつ廊下を駆け抜け、人の気配がない静かな食堂に飛び込み机の下を覗き込む。


「アロ!オーリ!」

「リーシャ!」

「こんなところじゃ見つかっちゃうよ?」

「大丈夫、だいじょーぶ!」


二人を宥めすかし、食堂の続き間になっている広い庭に面した部屋へと歩みを進める。

そこを開き一度庭に出るのを、意外にもオリアーヌが止めた。


「邸の中って言ったのに!それじゃ約束違いよ、嘘はいけないわ」


遊ぶ時に嘘はいけない。

そうしっかりと三人は教えられてきたし、ちゃんと守って来た。

午前中に肝の据わった台詞を吐いた子どもとは思えない程の純真さである。

アロイーズも同じなのか困惑にそのベゴニアのような赤い瞳を揺らしていたが、すまないキミたちの友人リーシャの中身は汚い大人も入っているのだ。


「ちゃんと隠れるのは邸の中だもの。移動で外に出ないとは約束してないよ」

「うわぁ…」

「リーシャ…」


ドン引く二人を急かしながら人目を忍んで庭を進み、邸の正面付近へ出る。

途中で衛兵が気付き視線を寄越したので私は大きく手を振って無害アピールをしておく。

こうして邸を出ていない事を示しておくのも大事なのだ。

主に大人達の心労のために。


「こっち」


再び人目を忍び、これまた使用人用の出入口を通って邸内に戻る。

しかし邸内とは言え客人の眼に触れない裏方側であるため、手を繋いだ双子が物珍しそうにきょろきょろと周りを見ながら歩くので危なっかしい。

私はすぐさま彼等の背後に回ってその背を押し、人通りの少ない廊下を進んだ。


「ここ、ここ!」


目的の扉の前に辿り着くと、私が率先して扉を開く。

中は然程広くないが一人用のベッドとちょっとした棚や書き物机が置かれていた。

窓はないものの明り取りの隙間が上部にあり、時間の経過は分かるようになっている。

部屋の中には出入口とは別の扉が一つだけ設置されており、それをアロイーズが開く。


「お手洗いまである」

「ねぇリーシャ、これ、何の部屋?」

「夜警備の待機部屋」


壁には主要箇所への連絡が出来る伝声管が、繋がる先を記した札を下げ幾つも設置されている。

異常を察した際にここから各所へ報せるために毎夜警備に人が詰めているのだ。

外からは分かりづらい様に窓が無いのもその為。

明り取りの窓も、塞げるようにきちんと仕掛けがされている。


「ここなら時間にならないと人が近寄らないし、邸の中でもある。内鍵は無いけどね!」

「はぁー…リーシャ凄いわ」

「驚きが強すぎて、成功を騒ぐ気が起きない」


一人だけ誇らしげにベッドへ腰掛け胸を張る私に、双子は未だ呆然としたままだ。

そりゃこの邸に住んでいる長さが違うのだから知っている範囲も違うのは当然であろう。

ストラス家はこうした裏方についても、希望すれば見せてくれる教育方針だからリーシャも知るに至るが。


「しかもね、ここを教えてもらった時はラン兄様と一緒だったから護衛のエタンは知らないの」


以前裏方探検をギラン兄様に案内してもらった際、護衛はお兄様のが付いていたし私は抱えられていた。

護衛対象が纏まって動いた方が護衛の負担は少ないのもあるが、急な人員変更でも彼等の中できちんとすぐさま人員の選定や分担を割り振れる訓練も兼ねているらしい。

尤もらしい事をギラン兄様は話していたが本当のところは知らない。

そろそろ私付きの専属護衛を決めた方が良いとは思う。是非これを切欠にして欲しい。


因みに、私がすぐにエタンを鬼役に挙げたのは複数の理由がある。


まず、恐らく私専属護衛と見込まれているのか、私の行動範囲をよく把握している存在である点。

仲も良いため鬼役を任されたとしても違和感がないし、エタンならと他の護衛も納得する。

更にエタン単独ではなくマノンと組ませる事で彼の下心を誘発し、時間稼ぎが出来るであろう点。

最後に、退避先を私が知っていると知らない点である。


因みにマノンは知っている。

しかしエタンに捜索の主導権を委ねるであろう事は眼に見えていた。


夜警備の詰め所なんて、護衛であるエタンだって勿論知っている。

だが意識に浮上するのは稀であろう。

この二人の認識の差を突けたのであれば、夜までだって充分時間稼ぎは出来る。


逃走経路も、迂回を合わせ人の眼に付く場所、付かない場所を適宜通り攪乱を狙った。

こういうのは時間勝負なのだ。

部屋を出た瞬間に歩いていた時点でエタンは私の策に入ってくれたと言って良い。


さぁ大人達よ!五歳児の反逆を味わうが良い!!


「凄いわリーシャ!私は内鍵のある場所ばかりを考えていたわ!」

「とりあえず夜まで時間を稼ぐっていう事で良いの?」

「正直、時間よりも動員される人数かなって考えてる」


エタンとマノンが何時頃、三人が見つからない事を焦り応援を呼ぶのか。

この判断が早ければ早いほど事態は急速に邸へ広がる。

本音を言えば明るい内に「五歳児たちが本気で怒った」と把握してもらい、痛み分けをしたいのだ。


私の考えを二人にも明かすと、あからさまにほっとした面持ちになる。

やっと扉の側から動いてそれぞれベッドに腰掛けた。


「良かった…リーシャに任せたけど、なんだかすごい事になりそうって怖くなってたから」

「いざとなったら出て行ってあげても良いしね!」

「ところでそれぞれ隠れる、とも言って無かった?」

「同じ部屋でそれぞれ隠れたって問題はないでしょう?」

「…見つける方は、その方が良いかもしれないけれど…」


そうだな。

あの言い草じゃ全く別の箇所に一人ひとりが隠れたようにも思うな。

三人纏まって隠れていると疑って探す確率が下がるね、その点に気付くアロイーズは流石だよ。

大人の汚さに触れてしまったようだな。


「あとねっ私がこの部屋を選んだ理由はまだあってね!」


ベッドから飛び降りて棚へ駆け寄ると、引き出しを開き目的の物を取り出して頭上に掲げた。


「じゃーーん!」

「わっ!」

「やった!やろう!」


夜警備が暇つぶし用に隠しているカードゲームがあるからだ。

暇つぶしには持って来いなのだ。

寧ろ一人詰めと教えてもらった筈なのだが何故此処にあるのだろうな。

教えてくれたギランお兄様が遊びに来る時でもあるのかな。



そのまま私達はカードゲームへと雪崩込み、時にはしゃいだ大声を上げてしまってはピタリと三人揃って口を閉ざし外の音を伺う。

完全にかくれんぼ中である事を失念していた、とくすくす笑っては時間を潰した。


途中、廊下を行き来する足音や「居たか?!」「最低限残して全員で探せ!!」という怒号が聞こえた時は首謀者である私も怖くなって扉を凝視してしまった。

いつもにこにこしている護衛長、あんな声出せるのか。


そんな暢気な事を思っていたのはどうやら私だけみたいで、双子は俯き涙目になってしまった。

まだ予定よりも早い時間ではあるものの、そんな二人を見ていられなくて、手を繋いで部屋を出た。


「「「「リーシャ!!!!!!!!!!!!!!」」」」


凄い怒られた。

使用人だけでなく私の家族も総出で探していたようで、もうお怒りが四倍どころじゃない。

怒号で邸が揺れたんじゃないかと思う程だった。

一度も声を荒げ怒った姿を見た事がない、穏やかなギレム兄様まで物凄い声だった。


「お前!!自分がした事を分かっているのか!!!」

「他所のお子様まで巻き込んで!!!何をしているのリーシャ!!!!!」

「自分の立場分かってんのか!!こんのっ馬鹿ッ!!!」

「僕らがどれだけ心配したと思ってるの!!!!!!」


「ごめんなさい…」


主犯である事までバレた。

そうだよな、総出で探しても分からない場所に隠れるなぞどう考えても私が立案者だもんな。


お叱りとお説教をこんこんと受けている間は私は泣かなかった。

なんせ反逆なので。反骨心を出した結果の行動なので。

双子はぽろぽろと隣で泣いていたが。


「もう…本当にこの子は…」


気丈なお母様が叱りながら、ポロリと涙を零した。

それをぽかんと見上げていたらそのまま抱き締められ、身体の温かさを感じたら、私もじわりと視界が歪んだ。


「心配したのよ…怪我がなくて…無事で、良かった」


一応、ヴュルテンベルク辺境伯の子どもたちの前だからと我慢していたのであろう人が。

他所の子を預かっている責任として、自らの子を今此処で抱き締めるなど本当は抑えるべきだろうに、そう分かっているのに動いてしまうほどこの母親を心配させてしまった事が、私の胸を掻き乱す。


「…ごめんなさい……」


泣いて反省を示すのすら申し訳なくて、顔を隠すようにして小さく漏らした声を受け止めるように、抱き締める腕に力が入ったのが分かった。



その日、双子が別荘に帰った夜、私は何故こんな事をしたのかお母様のベッドの上で洗い浚い喋った。

横で聞いていたお父様が笑うのをお母様が叱っていたが、如何にも疲れた声音だった。


「私も何かあればちゃんとリーシャ達に話しますから、リーシャも私達に話して頂戴ね」


子ども相手でもしっかり対話を望んでくれるお母様はやはりしっかりした人だ。

大好きです、心配をかけてごめんなさい。

大好きです、ありがとうございます。




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