04:四歳児の孤軍奮闘
私が思い出した『私は自他共に認める公爵子息のトラウマ婚約者である』という情報。
そしてアロイーズが見た『リーシャが12歳で馬車事故に遭い死亡する』という夢。
これが示す事は即ち。
(私はやっぱ死んでトラウマになる設定ですかーーーー!!)
無言で父の執務室を後にした私は自室に入り人払いを済ませた瞬間、その場に崩れ落ちた。
待って欲しい、シナプスがとっ散らかっている。
意識して落ち着かなければ思考も出来やしない。
ゆらりと立ち上がり深呼吸をしては、まずは机に向かい握り締めていた手紙を置いた。
まず、アロイーズの楽しい手紙は後程の癒しとして読もうと心に決めた。
彼が意図したかは定かではないが、ものすごくありがたい配慮である。
現に今私はそれがあると思うだけで随分救われている。
「ふー…」
もう一度意識して深呼吸をし、自然と閉じていた瞳を見開いてメモと対峙する。
記されている事は当たり前だが何度読んでも同じだ。
アロイーズが私の葬儀に参列する夢。
恐らく閉じられた棺を見下ろすだけの映像なのだろう。
それだけにも関わらず、彼はその棺の中に私が入っていると知っていた。
加え、棺が開けられず死顔も見えない理由も中が見えていないのに知っていた。
これは覚えていない夢の中で、参列した彼が誰かに聞いた話なのだろうか。
それとも未来のアロイーズが元々知っていた情報なのだろうか。
「…だって映像からだけで、四歳児が推測できるものじゃない」
転生し前世の成人女性並の意識を持つ私ならまだしも、アロイーズはしっかりしつつも四歳児。
夢を見た時の意識が四歳児なのであれば、葬儀に並んでいるとは理解するかもしれないが、何故棺が開いていないのかまでを察する事は難しいだろう。
印象に残っていたのが閉じられた棺だけで、実際の夢は葬儀一連かもしれない。
再びメモを手に取り、文面を見直す。
『その映像しか夢を覚えていないのに、分かるんだ。』
『キミはまだ十二歳という若さなのに死んでしまうんだって事が。何故かはっきりと、当然のように。』
「ここがなぁ」
私の意識に引っ掛かって仕方が無い。
長い溜息を吐き両手を組み額を預け、自分が思い出した時を思い出す。
私の場合は完全に私の自意識だけだった。
「うん?ここ痒いかも?あー痒い、痒くなってきた」みたいな、認識したら定着する意識だ。
誰かに言われたから覚えていた内容、ではないと思う。
しかし考え方によっては、誰かに「アナタは婚約者のトラウマ」と言われ「成程なぁ」と納得すれば、認識に部類されてしまうような情報でもあると言えるのではと思う。
だからこそ、それが私の『未来設定』のようにつるりと受け入れられた。
となれば、アロイーズの夢も「リーシャは十二歳の馬車事故で死んだ」を認識した記憶を引っ張り出された結果と見做すことが出来るのではないだろうか。
でもそれは、つまり。
「いやいやまてまて、そもそもだ」
そもそも、アロイーズの夢と私の思い出した記憶を同様のものだと仮定して良いのだろうか。
私は私に関する未来だ。
しかし彼の夢で見た内容は、彼の進退に関わるものでは無さそうである。
「あっダメ、思考が逃げられない…!」
自分に関わる天啓に似た『未来設定』ではなく、他の人間に関する『未来設定』を知っているなんて、まるでそれこそ物語の中で重要な登場人物のようじゃないか。
そう、私の思い出した記憶にも同じ見做しの人物が居る。
堪らずに机に突っ伏してしまう。
こんな事を考えてしまう自分が凄く嫌だ。
アロイーズは私の大事な友達なのに、そんな枠組みに填めて見たくないのに。
「うううう…ごめん、ごめんアロ…」
ぐずぐずと何度も頭を擦り付け届かない謝罪を繰り返すも、考えてしまった過去は消えない。
何度目か分からない溜息を吐き出し、どうにか他の事を考えようと瞼に力を入れた。
まず、アロイーズの記憶はどのタイミングで思い出したのだろうか。
邸で遊んでいた間にそんな様子は見受けられなかった。
私が見落としていただけかもしれないが。
万が一ほぼ同じタイミング、それこそ私のベッドでお昼寝した時なら怖い。
(ただ、明らかにアロイーズの方が映像だとか情報量が多い。私の婚約者は参列してなかったのか?)
トラウマになるくらい、恐らくだが、思い入れてくれているなら葬儀に来ている筈だろうに。
そのような気配は微塵もアロイーズの手紙からしなかった。
(…ハッ!)
それこそ閃いた。
もしや、アロイーズが夢に見た内容は、私がトラウマ婚約を回避した未来では?
(それでも死んでちゃ意味ないな?!)
閃きは即座に消えた。
幾ら藻掻いて考えても良い方向に転べる気がしなくて、気が滅入ってきた。
いっそのことアロイーズへ、他に夢で覚えていた事はないか尋ねる手紙を出そうか。
今回のように四歳児の手紙は検閲されないだろう。
(…ハッ!!!)
気付いてしまった。
オリアーヌは絶対にアロイーズへの手紙も読もうとする。
ほぼ一緒に居る仲良しな黄色の天使は、私のように単独行動を起こす事が困難だ。
「別々に書く…?でもそれはそれで、何か含みがありそうな気配を醸し出すし…」
余りにも八方塞がりで乾いた笑いが漏れた。
お陰でアロイーズのお礼の手紙が沁みた沁みた、かっさかさな心を凄く癒してくれた。
一旦この問題は脇に置いておくことにして、勢いのまま二人への返事を書き綴った。
メモは申告通り、そっと暖炉に投げ入れた。
私は己の迂闊さを把握している大人である、安心したまえアロイーズ。
夕食の席で話を振られ、そういえばお父様に後で二人からの手紙を見せるのを忘れていた事に気付く。
これは忘れてはいけない事だった。ごめんなさいお父様。
あなたの娘は自他共に認める忘れっぽい性格のようです。




