表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パドマの箱庭  作者: 菌床
二章:忘れ得ぬ温もりよ
28/50

27:九歳の機縁


 どうやらユーデス様は今年、ストラス領からそのまま西部の御領地に向かうよう行程を組んだようで出立の結構ギリギリまでご滞在なされた。


その間に私はせっせと石紛で粘土をこさえ、シャモアを作る事にした。

ユーデス様は行程の一つ一つを興味深そうに眺めていた。

石紛は細かいのであまり近づかない方が良いですよ。

私も特注のゴーグルとマスクをつけて作業をしている。


「石粉と糊だけなのか?」

「今回はそれに加え綿から取り出した繊維も混ぜています」


今回も芋で接合させようと思ったのだが、新たな挑戦で綿を薬剤に漬けて細かく繊維状にしたものも使用してみる事にした。

やっぱり繊維が入った方が紙粘土のように固めやすくはなるなぁ。

今回は焼き入れしてみるかな、繊維が燃えて小さくなりそうだけど。


前回のもったり水がカビたのが悔しかったからか、マノンや使用人が色んな工房から接合剤について話を聞いてくれているようなのだ。

皆とても仕事熱心である。お給料上げようねぇ。


せっせとデフォルメシャモアを作り、工房で焼き入れをしたら爆発したそうだ。

なんとも攻撃的なシャモアである。乾燥が足りなかったのだろうか。

話を聞いたユーデス様が声を上げて笑っていたけれど。


そんな事もありながら大人しく前回と同じ配合で作り直した時にはユーデス様の滞在日数が残りわずかだったので、後日刺繍したハンカチと共に贈るお約束をさせて頂いた。

前払いの御礼というのも何だが、彼はこの機にサラブレッドを一頭贈ってくれた。

結局それかい!高いわ!嬉しいけど!

丁度懐いてくれていたので大事にさせて頂きますよぉ。

お世話係はベルトランを任命した。


ユーデス様が旅立たれた後、せっせとシャモアに色を纏わせながら思うのは、自分の髪色に合わせたものを作るのが相当に恥ずかしい行いだという事だ。

お兄様達にはぽいぽい贈れるのだがなぁ。

これが婚約者フィルターってものなのか。

一筆入れる毎にユーデス様の御顔が過って照れる。何だこれは。


というか私は彼のトラウマ婚約者という未来があったのをすっかり忘れていた。

あんまり仲を深めない方が良いのだろうか。

いやもう無理だな、普通にしよう。今更取り繕える気が全くしない。

私は私で死なないように気を付ければいい事だろうし。


何だかんだ言いつつも私とユーデス様の相性は悪くないと思う。

一緒に居てもそこそこ気楽だし、大事に思える。

彼もストラス領を気に入ってくれている様子から、今後も無碍に扱う事はしないであろうと考えられるのも大きい。


最初に聞き及んだ情報も気にはなるが、少なくともユーデス様御本人は非常に穏やかな人だ。

まぁ周囲がどう動くのか引き続き気を配るのを怠らなければ良かろう。

街ではベルトランが付き添ってくれるし、王都でお兄様達が情報収集にも勤しんでくれている。

本格的な夏になればまた双子がストラス領に遊びに来るので、ヴュルテンベルク辺境伯領で見知った事なども聞かせてくれる筈だ。


そう、今年の春に王都の学院へ入学されたギランお兄様とギレムお兄様だが、夏の休暇はお二人ともお戻りにならないそうだ。

残念である、非常に。

筆まめに手紙を寄越して下さるが妹はもう既に寂しいです。

早く帰って来て欲しい、お顔が見たいし声が聞きたい。

夏の兆しを感じる頃だというのに未だストールは手離せないのです。



ヴュルテンベルク辺境伯の双子は夏の半ばにはストラス邸を訪れてくれた。

今年は辺境伯ご夫妻が同行せず、二人だけで来たという話に私は物凄く驚いた。

聞いていないが!?大丈夫だったのか道中!

キミ達まだ十歳にも満たない子どもだろうに!


しかしそこは流石辺境伯領民というか、教育方針が違う。

護衛もしっかりとベテラン勢を揃えつつ更に万全を期して、閣下がお持ちになっている他の爵位に合わせた紋章入りの馬車を使用していた。

道理で見かけた事のない車だと思ったよ。

詳しくない者が見てもどこの家か分からないだろう。

閣下が御乗車ではないからこそこの馬車で進めたらしい。

まぁ閣下はお顔が知れているしな。


「来年は僕に譲渡する予定の爵位だしね」

「ほぁー…十歳で爵位持ち」

「別に珍しく無いわよ」


いや家格差だよオリアーヌ。

少なくとも私のお兄様達は爵位を御譲り頂いてないぞ。

全く必要ないがな。


しかし爵位を低位と謂えど譲渡されるのであればアロイーズは貴族としての責務が早くも発生するという事なのだろう。

詳しく聞いてはいないが恐らくユーデス様も爵位を何かお持ちだ。

目の前でほわほわ茶を飲んでいる友人、いや三つ子の一人が彼のように忙しくなるのかと思うと非常に物悲しい気持ちになる。

置いて行かれたような心地だ。


「やっぱ二人とも、来年には社交に出るのかぁ」

「というか今年の年末はまた王都ね」

「年明けの社交期、終わり頃だけど出席予定はもう幾つかあるよ」


早いよぉ。

何でもうそんな先の計画まで立っているのさぁ。


「ラン兄様やレム兄様は冬は王都に?」

「まだ教えて頂いて無いけれど、少なくとも夏は王都ね」

「まぁ春にご入学されたばかりだし…お顔が見れないのは寂しいけど仕方ないか」


しょんもりとアロイーズが肩を落とし、それをオリアーヌが撫で宥める。

どことなく寂しくなったので三人で家令にお願いしてお兄様達の部屋に飾られている、去年二人が描き上げた自画像を見に行った。

余計寂しくなった。

ああー!深刻なお兄様不足で御座いますぅ!

私だけでなく双子の寂しさも伝播して三倍に膨れておりますぅ!


初日から三人で、お兄様達の色味をしたストールに包まる事となった。

このストールは私だけでなく双子にも大変効果的でした。

早くお会いしたいですぅお兄様ぁ。


「これで冬はストラスに戻られるとなったら、私達は二年もお兄様達にお会いできないのね」


オリアーヌがとんでもなく恐ろしい事を口走った。

やめてくれ!そんな未来辛すぎるだろう!

もし自分だったらと思うだけで寂しくて苦しくて涙が溢れてきてしまう。

嫌だーーー!!二年も会えないなんて嫌だーーー!!!!

想像だけで死んでしまう!

泣きたいのは双子の方なのに私が泣き出してしまう始末だった。


「やっぱりリーシャも冬の王都に一緒行きましょうよ」

「でもどうやってお兄様達をウチにお招きするのさ」


ストラス家とヴュルテンベルク辺境伯家の親密さを大っぴらにしないと一昨年言われたばかりだ。

今年は春先からネウストラ公爵家の者が出入りしていたのもあって、より慎重に動いた結果が恐らく別紋章の馬車や閣下不在の避暑なのだろう。


王都から離れたストラス領でさえこれだけ警戒して動かれているのに、人の目の多い王都でお兄様達を辺境伯家のタウンハウスに招いたらそりゃあ問題である。

歳の同じ私ならまだしも、離れているお兄様達を呼び寄せる理由も無い。


「冬の社交でお会いして仲良くなった体は?」

「そもそも誼を結んでいる事を隠すって事忘れていない?」

「そうよね…」


九歳達が一枚のストールに包まり団子状で考えてもいい案は浮かばなかった。


「冬の社交でお顔が見れるだけで我慢するしかないよ…」

「そう、ね…お顔が見れるだけでも安心はするわ」

「…」


と、なると今度は私が一年以上お兄様達に会えない流れになるのか。

ううう二年も会えなくなる二人に此処は譲るべきだと頭では分かっているのだが、心が追い付かないよ!

私もお兄様達に会いたい!というか双子と一緒に会いに行きたい!!

五人で揃ってわいわいしたいよぉ!私だけ居残りなんて寂しい!


寂しさが収まらず未だぽろぽろ一人で泣いている私を今度はアロイーズが宥め、オリアーヌも涙目で抱き締めてくれては一緒に気持ちを分け合ってくれた。

優しくてあったかい。

矢張り我々は三つ子である。

ギランお兄様とギレムお兄様を慕う可愛い九歳の弟妹である。


どうにかして気持ちを昇華しようと、結局三人でお兄様達へ手紙を書く事にした。

私は此処で満を持して軸までガラスで出来たペンを披露した。


「わぁ…!宝石みたいに綺麗だわ!」

「全部がガラスなの?!凄いね!」

「んふー!職人さんたちが頑張って仕上げてくれました!」


先日形となったばかりの試供品であるが見事な品物だ。

まだまだ本数は少ないし耐久性にもやや問題はあるのだが、去年よりは随分改善出来た。

ガラス自体の強度を上げなければ中々普段使いは難しいだろう。

今はまだ宝飾品、飾り物の域を出ない事を合わせて説明するも、彼等からしたらそれで充分な様子だった。


「日用品ではなくて贈答品としてかなり良いよ」

「お父様達に此方も贈ろうかしら」

「前のよりもっと値段が高いよ?」


高位貴族向けの価格帯で売り出す予定だ。

私も家族に贈りたいところだがお小遣い的に断念した。


「父上は今のペン先だけの型の方が好むだろうね。

 軸までガラスなのは普段使いにとしては怖いだろうから」

「でも一本くらい素敵だと思わない?」

「母上に贈ろうよ」


良い感じで双子の気持ちも上向いて来た。

そして早速予算について話し合いをし始めるので私もほくほくする。

発注の手筈は私が介しましょう!デザインのご相談も乗りますぞ!


「ガラスに金色のミカを混ぜ込んでも綺麗だろうね」

「そんな事も出来るの?!」

「頼んでみるよぉ」


辺境伯夫人の輝きにこそ黄金は相応しい。

金を使うとなれば予算も上がるが、ミカで代用するのであれば値段は抑えられる。

まぁ辺境伯夫人に相応しい品かと問われれば何とも言えないが、子ども達から贈られる品物としては充分過ぎるだろうよ。


あれこれと騒ぎながらデザインを突き詰め、出来上がったものを先んじてベルトランへ届けるように指示を出しておく。

最近ベルトランは私付きの執務官のように働いてくれている。

頼もしい限りである。

また一緒に工房へ行く手筈もすぐ整えてくれる事であろう。慣れてる。


「もうペン先だけの品も売り出しているんだよね?」

「うん、街ではね」

「王都へは?」

「出す予定だけど、今年の夏に領地での反応を見てからかな」


その際には東街道を使用する予定である。

冬には充分間に合うのでそれで良い、とお母様とも相談済みだ。


「寧ろこの一体型をセプタントに出すのよ」


ふふふと私がしたり顔で語ればオリアーヌが目を瞬かせた。


「セプタント領に?王都ではなく?」

「…もしかして他国と縁がある商家に卸すの?」

「さっすがアロイーズ!」


ユーデス様に聞いた流通の話を聞いて私はピンときたのだ!

宝飾品を買い付けに来る商人が多いセプタントであれば、この美しいガラスペンは絶対に眼に留まる筈。

しかも国内消費だけでなく国外への売り込みとして!

単価も高い上に輸送もセプタント止まりなので、北街道で王都に運ぶよりは関税も安価で済むから利益も多い。

ははは稼いでやるぞ!外貨獲得だ!

最近ベルトランが私に従順なのはこの計画のお陰である。


「はぁー…凄いね、目の付け所が」

「勿論王家への献上品としても贈るけどね」


それは冬の社交にお父様がお持ちする予定だ。

耳聡い貴族なんかだとその頃は既にガラスペンの存在を知っていそうだが。

我がストラス家の起爆剤となるんだガラスペンよ!


「まぁ今はまだ一定数を仕上げる段階だから、皮算用ではあるのだけれど」

「いや、間違いなくこれは他国でも人気が出るよ」

「ミカを混ぜたり、それこそもっと宝飾をあしらった豪華なものも出そうね」

「これを作れる職人を保護する仕組みを先に作らなければいけなかったり、いろいろとまだ忙しいんだけどわくわくするよねぇ!」


もううっはうはである。

先んじてガラス工房を数件買収してガラス商会とも斡旋契約を結んだのはそれこそ試供品が収められるより前段階で行っているが、技術流出を防ぐ取り組みはまだ暫く手入れが必要である。

これから忙しくなるのだから数年先を見越して動かなければならない。

そういうところは私では足りないのでお父様が非常に忙しくしている。


でも先行きの明るい話は気分が上がるよね。

私も上機嫌でガラスペンを握り、お兄様達へ双子が遊びに来て嬉しい悦びを綴る。

文字すら踊っているように見えるぜ。

書き味はペン先だけのものと遜色ない仕上がりなのも最高である。


「そういえば王家で思い出した」

「んー?」

「新しい一員は王子だって、聞いた?」

「そうなんだ」


聞いたような聞いていないような。

少なくとも冬の幸せ期間には把握出来ていた話だと思うので、恐らく聞かされても右から左へ抜け落ちている情報であったのだろう。

だってそんな事よりもお兄様達がいっぱい構ってくれるのだもの。

幸せを享受するのが最優先事項でございました。


「って事は私は消されない、と」

「だからその言い方…」

「だからユーデス様も普通だったし何も言わなかったのかなぁ」

「特に話はされていないんだ?」

「そうだね」


私の頷きにオリアーヌは少し安心した様子で微笑む。可愛い。

心配してくれていたんだね、ありがとう!

曾祖母様は可愛い孫の目の前では流石に自重してくれたのかもしれん。

と、考えるとユーデス様が私の御守り代わりとなるのか?


「辺境領は大丈夫?」

「私達の方も今のところは」

「だが人流が東で増えたとは聞いているんだよね」


はぁー、難所である辺境を介さず東を通ってやり取りとしているのか?

にしても東街道を抜けて隣国へ向かうとしたら日数も掛かるし姿は丸見えだし、大っぴらに動くと良く分かるのだが。

だから具体的な理由ではなく人流が増えた程度しか分からない方が怪しいのか?

木を森に隠す下拵え中なのか?


「目晦ましだとは思うけどね」

「東側は余りにも目立つもの」

「そういうものかぁ」


双子が当然のように語るが私には良く分からない感覚だ。

だがどちらも、曾祖母様や隣国の動きが沈静化したとは語らないという事はつまりそういう事なのだろう。


王都の方がそうした情報は入る可能性が高いから、もしかしたらお兄様達はそれを危惧して夏の長期休暇も其方へ残っているのかもしれない。

かといってそんな諜報員染みた人を側付きで王都に残した訳でもないしなぁ。

というか我が家にそういう人材が居るのかどうかすら私には不明だ。

見分け方なんぞ知らん。


ま、お兄様達からのお手紙を見る限り中々に王都でも楽しくお過ごしのご様子で、特にあのイケメンボルドー侯爵嫡男とは仲が良くなった様子だ。

彼は名も顔も広いようだし、お兄様達も表立って動かれた方が危険は少ない。

妹の事で煩わせて申し訳無いがまずは御身を大事にして欲しい。

変な女に纏わりつかれていたりしないだろうか…。


不穏な会話をちょこちょこ挟みながらも我々はお兄様達への手紙を書き上げ、双子の分も私が送る事を考慮し大きめの封筒を選んでいるとアロイーズから待ったが掛かった。

どうやら彼等は一度レオさんを挟む経由でお願いしたいらしい。


「レオさんまだ王都なんだ」


へぇー、ヴュルテンベルク辺境伯領にまだ帰っていないのか。

それこそもう一年は領外に出ているのではないか?自由人だなぁ。


「そう。レオはストラス邸にも滞在していた画家だからね」

「成程ねぇ。だからお兄様達と知り合いでも可笑しくない、と」


でも出資元を探ればヴュルテンベルク辺境伯しかレオさん繋がっていない筈だから、それはそれで探られるのは困るのではないのかな。

そう考える私の意識などお見通しなのかオリアーヌがくすりと笑った。


「レオの方が社交場に出入りしやすいしね」

「確かにそうか」


十歳の子どもが社交場に出てお兄様達に接触するのは確かに物凄く目につくが、芸術家ならば然程目にも留まらないであろう。

それに何か言われれば、新たな出資元として願う交流とも言い訳が立つか。

成程なぁ、体裁って大事なのだなぁ。


「何にせよレオさんが繋いでくれるなら二人は安心だね」

「そうだね、リーシャ経由じゃない連絡手段が持てるのは心強い」


連絡手段とか堅苦しい言葉で言い表されると何だかまた不安になる。

オリアーヌ達の手紙の内容を私は見ていないが、不穏な事をお兄様達に伝えたりしているのだろうか。

恐らく私には情報をかなり取捨選択して伝えている空気があるんだよな。

まぁ周囲の目もあるしな、仕方ないか。

というか伝えられたところで私には処理し切れない可能性の方が高い。

そういう事かね、お二人さん。



お兄様達からの返信はすぐに戻って来た。

レオさん経由の方が早いとは何事であろうか、解せぬ。

私もレオさん便使いたいんだけどダメだろうかアロイーズくん。

ダメですかぁ、私とレオさんだってそこそこ仲良しなんだがなぁ。


少し遅れて私の手元にもお兄様達の文が届き、いそいそと開く。

同時に届けられたユーデス様の文は後回しである。

すまんな!私はお兄様っこなのである!


ギランお兄様の文には王都で見つけた結合剤についてのお話があった。

銀粘土、ギランお兄様も興味津々だったものね。芸術家肌でいらっしゃるから。

出来上がったら是非ギランお兄様も趣味で作品を手掛ければ良い!

そんな暇が戻られてあると良いね!捻出しましょうねー!政務お手伝いしまーす!


後続便で原料となる穀物が送られるらしい。

ほーん、また穀物ですかぁ。小麦、芋に続いて今度は何かな。

まぁ焼き入れするから燃える素材であれば結合剤は何でも良さそうだが。


あと銀も少し送ってくれるそうだ!王都の中古品で格安に入手したらしい。


『ボルドー侯爵家のグウェンダルが王都に精通しているから思ったより早く安価に入手出来て助かった。』


仲良くしているんですねぇ、一緒に王都歩きもされるのですかぁ。

二人は武術も好んでいるからお話も合うのでしょうね。

私は最近またピピさんに伝授された謎の罠が作れるようになりましたし、爆破した綿の結合剤の話をしたらなんか彼女ヤバいもの作り出しそうな雰囲気があります。

止めた方が良いのだろうか。いや私の護衛では無いしな。


妹の日常が迷走している一方、ギランお兄様は着実に王都で社交場に出て人脈をお増やしになっているご様子である。

次期伯爵ですからね!王都の騎士団にも顔見知りが増えたらしい。

凄いねぇ!流石ギランお兄様ですねぇ!

腕利きの人をストラス領に呼んでも良いよ!ギランお兄様のカリスマ性を以てすれば王族から騎士を奪う事も容易そうであるフハハハハ。

おっと不敬、不敬。


一方ギレムお兄様からのお手紙は出だしから可愛かった。

先の手紙で公爵家の馬に私が騎乗した事をお伝えしたのだが、それをまだ根に持ってるのか馬談義から始まった。


『王都の外れの牧場に行って良い調教師と縁が結べたよ。

 輓馬にも興味があるようだし、王都でも繁殖や研究が進められそうだ』


流石である。ギレムお兄様の辣腕っぷりよ。

王都じゃあ輓馬のような体系の馬はそれ程重要視されないだろうが、彼等の力強さは畜力としてかなり有用である。

なので近隣領でも農耕が主力な土地へ輸出を行ってきたのだが王都で混血で有用馬が生み出されるようになればその価値もまた上がるというもの。

ギレムお兄様も本音を言えばその腕利きさんをストラス領に連れてきたいのだろうけれど、中々難しいのであろうから協力関係を結ばれたのだろうな。

そこで折衷案を模索して共同戦線を張れる柔軟性は流石である。


あとはガラスペンの研究や輸出についてもお褒め頂いた。

ほくほくするぅ!文字でも褒められるだけで私は大変笑顔になれますぅ!

ギレムお兄様の優しいなでなで幻想が今頭を摩ってくれていますぅ!


と、いう事でヤル気とお兄様成分を充分にチャージした私はその後も精力的にガラスペンの製造や調整、そしてギランお兄様が届けてくれた素材を使っての銀粘土づくりに没頭した。

早く良い報せを王都のお二人に届けたいのだ!


そのお陰でガラスペンは第一陣から飛ぶように売れ、今や工房は火の車だ。

流行に敏感な貴族やセプタント領の商家からの問い合わせも凄いようで、お父様も間に入りあちこちとやり取りをされている。

ベルトランの笑顔が張り付いたようなものに変わっていたが見ないふりをした。


まぁそんなベルトランを呼び出して外に連れ出すのも悪い気がしたので、銀粘土作りは専ら他の者に言付けを頼んで加工した材料などを我が邸に運び込んでもらい私がせっせと研究を進めた。

やり取りが行ったり来たりするので時間が掛かったものの、無事に試作品が出来上がりアロイーズやオリアーヌにも見てもらった。

今年はこればかりに私がかまけていたのであまり遊べず申し訳無かった。


「これが粘土から作られたものなの?」

「と、言っても主成分はほぼ銀だからね」

「彫金と遜色無いよ。寧ろもっと緻密かも」


試供品で作り上げたと言っても私の手作りである。

そして今回は二人へと贈る品にした!


アロイーズが緻密だと驚いていたのは、乾燥した土台に私が絞り出しで模様を付けたからであろう。

確かに彫金であればこれを作るのは相当大変だ。

オリアーヌへは三つ編みのように細く編み込んだものを頑張って作った。

均等な細さを出すのが大変だったが、中々美しく出来たと思う!


「試作品で悪いけれど、二人に是非受け取って欲しいの」

「え?!良いの!」

「お兄様達へ贈るんじゃないの?!」

「ラン兄様レム兄様には別に用意するよ」


まずは今年折角遊びに来たのに構い倒せなかった二人へのお詫びも兼ねて贈らせて欲しいのだ。

そう告げれば双子は眼を潤ませ、大事そうに指輪を手に取る。


「ありがとう…リーシャ」

「そんな事気にしなくてもいいのに。でも凄く嬉しい」

「冬の社交、私は一緒に出れないけれど頑張ってね」


前世では銀は魔除けとされていたのだ。

王都の魑魅魍魎からどうかアロイーズとオリアーヌを守って欲しい。

なんてなぁー!アハハハ笑いどころであるぞ。


「あ、強度は柔らかいと思う」

「傷をつけないように気を付けるよ」

「大事にするわ」


何とか超特急で作り、二人が出立する前に間に合ったので私も一安心である。

本当は私の分も作ってそれこそ三つ子のお揃いにしたかったのだがなぁ。

ま、自分用はお兄様達の分を作る時にでも良い。


何だかここ一年は形の残るものを良く贈るな。

まるで思い出の品づくりみたいでちょっと心がざわつくが気のせいだと思いたい。


そうしてやっと落ち着いた頃、そういえばユーデス様からの文を読んでいなかった事を私はやっと思い出したのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ