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パドマの箱庭  作者: 菌床
二章:忘れ得ぬ温もりよ
25/50

24:八歳の贈り物


 オリアーヌとアロイーズにも喜んでもらおうと考え工作したスノードームは、中に入れておく水の問題があり泣く泣く断念をした。

だがそれで諦めるような私ではない!


(次はストームグラスなんか良いのでは?!)


ガラスムーブなのか私の思考はガラス飾りに偏っていた。

なおストームグラスがどんなものかは覚えているが詳細は知らない。

そんなものである。


ただ、「中身って防虫剤じゃん」って思った記憶があるので現世で使用している防虫剤について、これもマノンに尋ねたら楠の破片を入れているとの回答を貰った。

前世の中身もそんな木の気がした。

あれだろ、成分が昇華するとかそんなんなヤツだろ。

だから入れておくだけで防虫にもなるし、ストームグラスはその成分を昇華させずに気圧変化で結晶化する様子を愉しむとかいうヤツだったろ。

もう色々と曖昧である。


では楠は我が領で採取されるのか、と調べたところ主な植生が南だった。

詰んだ。終わった。

昇華する成分抽出なんて煮出して冷却するくらいしか思い浮かばないのに、充分な量を入手しようとすればストラス領単独では困難だ。



こうして二度の挫折を噛み締める私は今必死に粘土を捏ねている。


というのもこの現世では銀細工はそれこそ食器が多く、アクセサリーとしては稀。

金の方が主流であり、作るとしても地金から彫る為にそこそこ纏まった量が必要となるそうだ。

規模の大きい銀山周辺では取り扱いもあるそうだがストラス領は不明だ。


ただ、今後産出が瘦せ細ったとしてもそれなりに扱える技術として何か残せる方法が無いかと考えた末、粘土へ銀粉を混ぜ込んで焼き込む製法をレオさんに教えてもらった。

耐久性は彫金よりも劣るもののデザインは己の好きなように出来るそうだ。


「あの国でも平民の土産物くらいにしか流通して無かったですけどね。

 混ぜ物も多いからやっぱり本物よりは見目は劣りますし」


そう語るレオさんは海を渡った先の他国への旅も経験しているらしい。

本当にバイタリティ溢れる芸術家だ。

フィールドワークの範囲が広すぎるだろう。海を渡った他国って凄いな。


という訳で私は練習として粘土でアクセサリーを作る練習をしている。

話を聞く限り、恐らく本場はマジもんの粘土を入れているのだろう。

だが私は銀紛を粘土にする計画だ。

その為には銀を微粉末にまで粉砕する技術やら繋ぎとなるものやらの選定をしなければならんが、無駄なく少量の銀も余すことなく使えるし何より彫金技術が不要。

これは実に領民向けである。冬の内職に良い。

刺繍も見事な彼等のデザインセンスが爆発すれば旋風を巻き起こせる。


因みに鉱脈開発だが、公爵家の潤沢な資金もあってもの凄い速さで進んでいる。

もう採掘地も決定したとか聞くのだから驚きである。

露呈していた場所ならともかく、地質調査から始めたのに早いにも程があるだろ。

しかしそうすれば早めに借金も返せるかもしれないと皮算用するくらいに私は浮かれているので、大人しく粘土を捏ねるのである。

双子は今も猶お兄様達を描いている。

今年は芸術の夏だなぁ。


「粘土とは言え見事なものです。リーシャお嬢様は手先が器用ですね」

「そう?嬉しいなピピさん!」

「その手先の器用さを活かす罠づくりって興味ありません?」

「何それ面白そう」


今年も双子の護衛にはピピさんが居る。


日頃の武術訓練も彼女が入ってくれる事があるが、何かと私に工作員的な教え込みをしたい様子は六歳児の時から変わらない。

というか年々隠さなくなってきた。

私は一介の伯爵令嬢であって工作員ではありませんよ。

なる予定もありません。他を当たってくれ。


だが罠づくりは面白そうなので今度教えてもらう約束をした。

エタンが背後でうんざりしているが、お嬢様の我儘は今に始まった事ではないので許して欲しい。



そんな日常を過ごしている内に、邸から見える麦畑はすっかりと刈り取られ夏の終わりを感じさせる。

前世の有名絵画を見ていたせいか秋に収穫するのかと思っていたが、ストラス領での麦収穫は夏の真っ只中だ。

収穫祭は秋が始まってすぐに執り行われ、終わるとすぐにまた種まきをする。

冬の寒さを挟まないと小麦の花が咲かないそうだ。

邸に保管されている書物で読んだ。へぇー。


ヴュルテンベルク辺境伯領はもう少し収穫期が遅い上、種まきも春を迎えてからだそうだ。

そんなに国土が広いイメージは無かったのだがやはり山脈を背にした北はそこそこに寒冷地であったのだろうな。そりゃ雪もこんなに降るもんなぁ。


西部の忙しさからかユーデス様からの手紙も夏場は届かなかった。

しかし秋が近づく頃に届いた一通には、これから更に忙しくなる旨と来年の訪問についての問い合わせが添えられていた。


『これから各地の収穫量の報告で慌ただしくなるので、先の話だと笑われるかもしれないが来年の訪問について伯爵にもお伝えして欲しい』


お父様に話を振れば、ちゃんとユーデス様はお父様にも文を届けていたらしい。

律儀な御方だ。


恐らく来年の訪問も春が明けてからになるそうなので、私も王都から戻ってきている頃になるだろう。

寧ろ一緒に王都からストラス領に来れば良いのになぁ。

無理か、年齢は然程変わらないというのに忙殺されているものな。


私はお父様に訪問の旨をお伝えし、訪れをお待ちしている事と合わせ、ユーデス様が頑張り過ぎて体調を崩されないようご自愛頂けるよう言葉を添えた。


(あと、そうだな)


ピピさんに器用だと褒められた腕前で作った人形を一つを手に取る。

白い石を砕き、粘土にしたもので作ったのだ。

これも銀粘土の練習として制作したものだがそこそこの粘土が出来たのである。

自然乾燥だからかそれ程縮まなかったのでほぼ理想通りの狼の人形が出来た。

ちょっとデフォルメされた可愛らしいさは御愛嬌である。


(こんなの贈られても困るかなー笑って許してくれそうなんだがなー)


私が掌の中でころころと色付けされた小さな狼を玩んでいるのは理由がある。

ユーデス様の御誕生日が秋なのだ。

この返信が届く頃には、彼は九歳を迎えているだろう。

贈り物文化が薄いとは言え何か出来ないか、と考えた次第である。


(うん、自重しようかな。消え物の方が無難だろうし)


こつりと物書き机の端に人形を戻し、私は誕生日を寿ぐ言葉だけに留めた。

短い同い年期間もあっという間に終わってしまったな。


(そうだよなぁ、ユーデス様はもう来年の冬の社交には参加できるのだし)


そんなお年頃の方に粘土人形など見合わないか。

何か、少しだけ寂しい思いになりながら私は文を乾かしている間に春から放置している刺繍を手に取るのだった。



 秋の訪れが本格的になり始めた頃、遂に御対面の日が訪れた。

何に?そう、双子の力作である絵とお兄様方が、だ!


「見事だな!」

「わぁ…!上手だね二人とも!」


これにはお兄様達も驚きと共に感動していた。

喜んでもらったアロイーズとオリアーヌもとても嬉しそうで誇らしげに胸を張っているのが大変可愛らしい。


画家にならまだしも貴族の子女、しかもそれが家格の高い嫡男嫡女に描かれるなど大変名誉であり稀な事なのは言うまでも無い。

如何にギランお兄様とギレムお兄様との仲が良好かが歴史的に残った訳だ。

最高である!家宝である!双子がストラス家の一員である証拠だ!!


「オーリはこの為に俺のピアノ見に来てたのか?」

「それもありますけど違いますわよ!ラン兄様のピアノが好きなのです!」


絵画と向き合っている最中でもピアノの音が聞こえれば部屋を飛び出していたオリアーヌが頬を赤く膨らませ、笑うギランお兄様に喰ってかかっている。

分かるよ、ギランお兄様は普段勇猛なイメージがあるのにピアノを前にした途端貴公子度がバカ上がりするからね。

めちゃくちゃにカッコいいよね、最高。

腕前もお上手だし、何よりも音がのびのびしていて凄く心地いい。

あの、ピアノに向かっていたギランお兄様の視線が、入室した私達を見つけた途端に細まって注がれるあの瞬間のトキメキもヤバいよね。語彙力溶ける。


それがオリアーヌの中でも印象的だったのか、彼女が描いたギランお兄様の絵はピアノに向かっている最中を切り取ったものだ。

背景もしっかり我が家のダンスルームであるからとても日常感がある。

八歳で此処までしっかり描けるオリアーヌの画力、本当に見事だ。


「アロくんは動物の描写もとても上手だね、生きているみたいだ」

「レム兄様の騎乗はもっと神々しいんですけどね」

「神々しいって何かな…」


アロイーズが描いたのは輓馬に騎乗するギレムお兄様の姿だ。

こっちは我が邸の庭かと疑うような背景ではあるものの、彼が如何にギレムお兄様の神々しさと輓馬の力強さを追求したのか良く分かる絵であった。

後光表現はな、経験値が無いと難しいものな。

それでもギレムお兄様の仰るとおり馬の生き生きとした表情やその力強い身体はまるで今にも動き出しそうと称されるのに充分だ。


どちらの作品もそれぞれの特徴を良く捉えていて、特にお兄様達の瞳に宿る強さや優しさがふんだんに込められているのが私にも伝わってきて、ずっと見ていたいくらいである。


「これは学院までお持ちするのですか?」

「邸の自室に飾ろうかな」

「だな、リーシャも好きに見ていいぞ」

「やった!」


これでお兄様不足で寂しい時にも補充が出来るぞ!

いや、寧ろ募るかもしれんが。


「素晴らしい品をありがとうアロ、オーリ」

「嬉しいよ、こんなに気持ちを込めた作品を贈ってもらえて」


朗らかに笑うお兄様達の様子を見て、双子も顔を見合わせ微笑む。


「ふふふ!私達も喜んで頂けて嬉しいです」

「大好きなラン兄様レム兄様のお姿を描くの、楽しかったです!」

「ふふっどうしようラン、嬉しすぎて顔が戻らないよ」

「戻らなくたって良いだろう?」

「それもそうか」


そう語るギランお兄様は午後の武術訓練でも笑顔で私達をしごいた。

凄く良い笑顔でしごいた。

以前に比べ段違いで体力がついてきた私達だが流石に此度の訓練は堪えたし、オリアーヌも「喜んでもらえたのは凄く嬉しいのですけれど気持ちと体力が追い付かないですわ」と零していた。

アロイーズの死相も久々に見たな。

そうだね、何とも言えないとはこの事だろうよ。


アロイーズとオリアーヌはお兄様達から御礼にと、ストラス領から出立する前に楽譜と馬具を贈られていた。

ギランお兄様作曲まで出来るの?天才過ぎでは?

オリアーヌは感極まって泣いてしまっていた。

普段落ち着いているアロイーズも興奮して頬が赤い。

可愛いな二人とも。

そんな彼等の様子にお兄様達もにっこにこである。


久々に涙のあるヴュルテンベルク辺境伯双子との別れだったが、見送る側としては心温かいものを分けて貰えた気持ちが大きい。

幸せだなぁ、やっぱり贈り合うって良いよね。


私は普段からお兄様達に品物を贈る事が出来るが、双子は今回が初めてだ。

お返しを個人的に貰うのもそうだろう。

悦びが大きいのはそりゃもう分かる。


私も早くギランお兄様とギレムお兄様に秘蔵の品をお渡ししたい気持ちに逸るが、計画を前倒しにはしないで冬をぐっと堪えるのに精いっぱいだった。

ある意味、これから訪れる寂しさを意識しないで済んだのは良かった。

お兄様達が代わる代わる私に寝物語をしに来てくれるボーナス期間だったのもあったけれど。

もう婚約者がいるとか関係なしで許してくれるそんな家族が大好きだ。


お兄様達からの愛情もたっぷり感じられて幸せである。

今年の冬は心の温かさが違う。ほっくほくである。

二人とも偶に私のベッドで寝落ちしているし。

乙女な寝台で眠るお兄様達の可愛さを私は是非絵に残したかったのだが画力が足りないので家令にお願いしたいと告げたところ苦笑して首を振られた。

流石にそれは残せないらしい。

網膜に忘れない記憶がまた一つ増えた。



 柔らかく穏やかな冬を大事に大切に味わい過ごし、気が付けば新年を越え出立の日が近づいてきた。

予定通り家族全員で王都に向かう準備も大詰めだ。


「ラン兄様!レム兄様!」


ある日の夜、家族で食後の団欒を愉しむ席にていよいよ私は決行に移った。

どんだけ我慢してきたと思っている!夏からだぞ!半年だぞ!!

その間に双子が両親や自分用にガラスペンを発注して納品も済ませたくらいだぞ!

結局お兄様達より先に辺境伯家の皆様が使用する事となってしまったんだぞ!

まぁ彼等なら別に良いけど!喜んでもらえて良かったよ!!


改めて二人の名を呼び、私はいそいそとあらかじめ部屋に隠しておいた箱を取り出し彼等の前にそっと並べる。

その一挙一動をお兄様方がきょとんと見守っていた。


「ご入学おめでとうございます!私達からのお祝いの品物です!」


出資にはお母様、元を辿ればお父様が関わっているので連名とさせてもらう。

だが蓋を開ければ飛び込むシャモア色の台座に私の執念を感じる事であろうよ!

そうです!私が主導いたしました!!お兄様達を想って作ってもらいました!

そう胸を膨らませる私を他所に、二人は箱の中身を見て息を呑む。


「これは…」

「え…このペン先、ガラス?」

「そうです!」


流石ギレムお兄様は目の付け所が良い!

ペンである事は一目瞭然だが、何よりそのペン先を工夫したのです!えへん!

現世で二つとない品物ですよ!類似品は既に辺境伯閣下達もお持ちですが!


「書けるのか…は愚問か」

「この溝にインクが入るのかな?」

「そうです!意外と書けますよ!」


当初溝は八本前後だったが、研究して本数を増やしたのだ。

職人の無理のない範囲で作ってもらった最大値だが、それが良い仕事をしている。

インクの持ちも随分改良を重ね、実用性も高いのだぞ!親方ありがとう!!


「美しいな」

「ああ、色味も僕らの色だ」


ほぅと溜息を吐きながらそれぞれのペンを手に取り大事そうに眺める二人の姿に、私も両親もにこにこである。


「おめでとう、ギラン、ギレム」

「よくここまで大きくなってくれました」

「父上、母上…」

「ありがとうございます」


社交に出られる十歳にお祝いをするのが多いらしいが、二人は社交界に出るのは学院に入学してからと考えていたため執り行われていない。

それでも内々でお祝いはしたのだが、改めての寿ぎは嬉しいだろう。

お父様お母様の幸せそうなお顔を見ていると私まで幸せになる。


成人という区切りは厳密には婚姻を結んだ時となるが、学院へ通い社交へ本格的に精を出し始める十六歳はそう見受けられても可笑しいものじゃない。

だからこそ、私もいつものような消え物じゃない品物を選んだのだ。


「ラン兄様、レム兄様、そのペンで私にお手紙書いて下さいね!」

「ああ、大事に使わせてもらう」

「いつも見える場所に飾りたいけど、仕舞い込んでもおきたい品だよ」

「そうなんだよなぁ」

「ふふふ」


ギレムお兄様の気持ちに深くギランお兄様が頷く。

どれだけ学院の寮でも大事にしてくれるのかが目に浮かび、私も微笑む。


「ペン先は差し替え出来ますから」

「早めに発注しておこうね、ラン」

「そうだな、使えなくなるのに堪えられないだろーしな」


お兄様達が可愛い!喜んでくれていて嬉しい!!

やっぱりこうした進学の節目に長く使える筆記用具を贈るのって良いよね!

前世でも万年筆とかもらった時、大人の仲間入りをした気分になったもの!


「ありがとうございます、お父様、お母様、リーシャ」

「大事に、大事に使います」

「ふふっリーシャが二人は部屋に仕舞い込むって言ってたけれどその通りね」

「そんな事まで言い当ててたとは」


お父様がお母様の言葉に闊達に笑う。

そうです、妹はお兄様達の愛情を疑う事も無ければ読み違う事も御座いません!

絶対二人なら部屋から出さないだろうね!授業で使うのなんてしないもの!


「それはそうでしょう、見せびらかす気もありませんよ」

「というか盗まれそうで怖い」

「触られたら激昂するのを抑えられそうにありません」


口々にそう語るお兄様達が可愛すぎて!もう十六歳になるっていうのになぁ!

こういう愛らしさというか素の部分が見れるのが家族団欒の良きところである。

大好きだなぁ、この時間。幸せ。


「でも商品化したら売れそうなんだとも、思うんだがな」

「そうなんだよねぇ…」


ここら辺はお母様の予想通りである。

受け取った嬉しさもありながらその次期領主としての見解。流石である。

私のお兄様達は御立派であります。


「私がお兄様達の為に開発したのですよ?お兄様達だけの為に…」

「どこでそんな卑怯な言い回しを覚えた」

「リーシャ、これ以上僕らを喜ばせてどうするつもりなの」


わざとらしくそんな事を言えば、二人は品物をそっと箱に戻してそれぞれ私の手を優しく引いてくれる。

おっとこれは懐柔コースか。


「このペン軸だってリーシャが選んでくれたんだろう?」

「僕のが少し細いのも、普段使いの品物を見ているリーシャだからこそだね」


当たり前である。

ギランお兄様、ギレムお兄様への贈り物なのだから拘ったのである。

この世に二つと無い品物なのである。

妹からの愛情たっぷりの怨念ペンである。


「他の人の品物は選ばないでくれよ、リーシャ」

「ふふっ、ラン、それはユーデス様には悪いよ」

「それくらいは許容してくれると嬉しいんだがなぁ」

「だってよリーシャ」

「ユーデス様には贈りません!」


見事に懐柔された。

だってギランお兄様もギレムお兄様もとても可愛いのだもの!!

なんだその!なんだっそのっ!俺達、僕等だけ特別だよ感!

ええもう喜んでそうするわ!二人の分以外私は選びません!!

私が唯一選んだ!二人だけのペン!二人にしか選ばない事を今此処で誓う!!!


「じゃあ贈らせない為には自分で選んでもらえるようにしなくちゃね」


ギレムお兄様のにっこり笑顔に私は苦笑を浮かべるものの、首を縦に振った。

仕方が無いなぁ。

そう言われちゃ私も頷くしかあるまいよ。

だが売り出すのはお兄様達が入学してからだと確約はさせて頂いた。

お母様、今しばらくお待ちくださいね。



「じゃあ今度は俺達からリーシャに」



手を繋がれたまま、今度はお父様が部屋の中に隠していた大きめの箱を取り出してテーブルに置いた。

目を丸くした私の手をギレムお兄様が穏やかに何度も撫でる。

もうそれだけで嬉しくて、寂しくて泣きそうになる。


「リーシャ、開けて御覧」


そっと二人の温もりが残る手を箱にかけ、開いた。

中に入っていたのは暖かなビスキュイ色地に椿色と藍玉色で美しい格子柄が施された厚手の毛織物だった。

息を忘れたようにそっと取り出し広げれば、私の両手では足りないくらい大きい。


「わぁ…!」


触れる指先から温かく柔らかいのが伝わる。

目に映る色合いの温かさも思い出に相俟って、胸の奥までじんわりとする程。


「ほら、リーシャ」

「こうやって使おうね」


私の両手にそれぞれお兄様の手が伸び、ストールを掴む。

ばさりと広げられた大きさは、成程、三人で包まっても充分な大きさだ。

ギランお兄様とギレムお兄様の間に私は座り直し、二人の体温と毛織物の温かさに目元も頬も熱を持つ。


「幸せぇ」

「そうだな」

「うん」


ぎゅっと左右から挟まれて思わずぽろりと涙が零れた。

ああ、泣くつもりなんか無かったのに。

愛おしさと嬉しさが溢れてしまった。

でもどんなに零したって、また溢れて注がれて、この身を満たすのだ。


「少しばかり離れるけれど、帰ってきたらこうしような」

「寒くて辛かったらこれにぐるぐる包まれて眠るんだよ」

「はいっ…!!ありがとうございますっラン兄様!レム兄様!」


きっと、寂しくて泣いてしまう日もあるだろう。

でもそれを慰めてくれる温もりを、満たしてくれる想いがある事を改めて嚙み締めれば、どんなに寒い夜だって怖くない。

乗り越えられるだろう。


私の愛しい家族。

大好きなギランお兄様、ギレムお兄様。

幸せそうに子どもたちを眺めて微笑むお母様とお父様。

私の宝物、私の誇り、私の最愛。

こうしてまた皆との思い出が増えてゆく幸福。


ああ、成長するって寂しいこともあるけれど、幸せを重ねることもあるんだね。

大事にしてゆきたい、取り零すことなく。



こうしてストラス家の冬は終わり、慌ただしく王都へ向け全員で出立をした。




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