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パドマの箱庭  作者: 菌床
一章:蕾の香りも知らず
13/22

13:六歳児の金策


(…このままでは我が伯爵家、破産するのでは?)


そんな事を私が思ったのは、春になり街道の雪も姿をすっかり消した頃、貴族の別荘を巡察する士官が我が邸に出入りするようになってからだ。


彼等は前以て依頼主から別荘にある貴重品の目録を手にしており、それと照らし合わせながら我が邸の一画で保護されている品物を確認していた。

どうやら先に、別荘の方も見分しているようで、それに関しては然程問題は起きなかったのだが。


(補填に次ぐ補填…はぁー、今ばかりは王族の財政が羨ましいぜ)


我が領に別荘を構える貴族の数は、ちょっとした貴族街並に多い。

流石に王都程ではないのだろうが、こうして改めて見てみると結構な数が別荘を所有していた。


勿論彼等は我が領に土地代を納め自費で別荘を建設、管理しているのだが、それが今回のような自然災害により被害を受けた場合の取り決めを予め領の制令及び契約で定めていたのだ。

それこそ大広間でベルトランが見せてくれた資料に記載されていた。


どうも我が領では自然災害の場合、別荘だけでなく領民の家屋などに関しても、撤去費用の全額を担うと取り決めていたようだ。

これが任意による撤去である場合は四分の一になる。

なお領民の場合は除外されるので領外に出る場合は負担が増えてしまう。

また新設及び再建であった場合も四分の一を負担するようにして、別荘や商家の誘致を図っていた。


いやー、下手に出過ぎでしょうよご先祖様ぁー。

幾ら四分の一ったって対貴族なら元が相当な金額なんですよ、バカにならない。

しかもそれがかなりの数になれば我が家の財政圧迫も凄まじい。

ほんとバカスカ出てゆく。


加え、昨年は冷夏であったため見通し通り収穫量が減少、冬の備蓄を買いむ必要があった。まぁその程度の出費は何もなければ余裕で乗り切れる計算だったのだが、そこに雪崩災害だ。

冬の為に買い込んでいた備蓄は避難所の領民へと開放され、不足を補う為更に食料を仕入れる事となった。

それも一度や二度ではなく近隣領の商会が卸しに来てくれていたのだ。

折角輸送費が安い間に一括で手続きを終わらせていたのになー。

そこそこ痛い出費であった。


それに救助や避難場所での人員を確保するために人を多く雇った。

殆どが日雇いのため即金がどうしても必要となった。

幸い、商家が冬でも多く領地に足を運んでいたため、いくつか美術品等を手離して補填する事は出来たようだが。


雪崩に飲まれた麓の区画が機能を停止しただけで街全体が衰退する訳ではないが、全体的に物価も上がり領の蓄えも少ない今、ここで我が家の財政立て直しの為に税金を上げるような真似はしない。

寧ろ納税を今年は軽減した。

まぁそれなりに両親が仲良くしている他家や近隣領からの融資もお父様が奮闘して取り付けたし、国からの補助金も入る見立てだったので、これで何とか復興はいけるかなと私は思っていた。

いや、忘れていたというか。


やっぱり鬼門は鬼門であった。

春は待ち遠しかったのにキミ達は来て欲しくなかったかもしれない。

貴族の別荘の撤去及び再建の申し出よ。

この書類を燃やして肉でも焼いたらさぞ旨いことであろう。


ただでさえ今年の避暑に殆どの貴族が来ない。

当然だ、別荘がまだ再建出来ていないのだから。


そしてストラス領の主な産業は観光業、避暑シーズンが稼ぎ時だ。

つまり収入が目減りする。


はぁ…クソ、人の金で建てた別荘は良いもんだな!

お前ら来年は絶対に来いよ!そして金を落とせよ!!クソっ!

因みにヴュルテンベルク辺境伯の別荘は無事でした。全く無傷。

日頃の行いを神様は見ていらっしゃるのでしょう。


現在、嵩む借金の総額をまだ私は聞いていない。

怖くて聞きたくないが、知らなければならない現実である。

そして更に恐ろしい事にこの借金、まだまだ増えるのであろうよ。

なんせ貴族の別荘に支払う全額がまだ出揃っていねぇからな。

はぁーなんで再建時は一律金額の補助にしなかったんだ。

今回の災害の記憶がある間は制令も直すに直せないだろうね…印象がね、うん。


どちらかと言えば倹約思考の我が家だからこそ、この波状攻撃に何とか耐えられたようなものである。

それでもこれからも増えるであろう出費を思うと溜息が出てしまう。

私が決を出した対策や、それこそ先日の春の祭りなどの予算についてもっと考えが及んでいれば、もう少し気持ちも楽だったのかもしれない。

成人意識が仕事しなかったのか、ただ私が後先考えない性格なのか。

かーんーがーえーたーくーなーいー。



などと現実逃避をする私だったが、その後ろ向きさを鼓舞するような物が初夏を目前に控えたとある日、未だ開設している避難所から届いた。


「わぁ…!!!」


吹き抜けになっている邸の玄関ホール上階から使用人たちが下を注意しながら垂れ下ろす布。

鮮やかな椿色は劣化で少し褪せているものの未だ威厳を損なわず、そこにあるだけで堂々とした印象を与えてくれる。

全貌が明らかになった途端、離れて見上げていた私はすぐにそれに駆け寄り間近で観察した。


「見事なものだ」

「そうですね、とても手の掛かった刺繍ですこと」

「ほら、ここのドラゴンなんて生きているみたいだぞ」

「これだけの腕を持った領民がたくさん居たとは知らなかったな」


一緒に見ている家族も口々に、避難民が返してくれた闘技場の飾り布を褒め称える。

そう、この飾り布は雪崩災害時に避難所の床へ敷物として私が出させたものだ。

領民たちは畏れ多いとしながらも背に腹は代えられないとし、ちゃんと意図を汲んで使ってくれていたのを避難所に顔を出していた私はしっかりと覚えている。


たくさん踏まれて、物を零して汚れたのであろう椿色の敷布はしっかりと洗濯もしてくれたようだ。

それでも隠しきれない草臥れた様子を見て避難所の人達が、恐らく街の領民の協力も多大にありつつ一針一針刺繍を施してくれた。

どんな気持ちで作り上げてくれたのだろうか。

そう思うだけで私の小さな胸がいっぱいになった。


椿色の背景の中に浮かぶ、色とりどりの糸で描かれたのはストラス領の竜伝説。

大きく雄大な翼を広げ見る者を圧倒する黒いドラゴンと、それに立ち向かう精悍な勇者の姿。

ストラスの地を思わせる万年雪の山並みが戦う彼等の足元に描かれている。

これを一目見ただけで、どれほど領地を誇りに思っているのか分かる程、壮大な刺繍だ。


(ああ凄い、本当にすごい)


彼等は職人ではない。

彼等は被災した辛い目にあった守られるべき領民だ。

自分たちだって大変だろうに、時間を割いてその手を動かし、糸を集め紡いでくれた思い。

美しく、愛おしい。

こんな素敵な品になって返ってくるなんて思いもしなかった。


目を潤ませずっと見つめ続ける私の頭を、そっとギランお兄様が撫でてくれる。


「刺繍の許可を出したのは俺だ。

 こんな見事な物が届けられるとは思ってなかったけどな」

「素晴らしいです…!ふふっ!見て!勇者様の瞳、ランお兄様とレムお兄様、それぞれの色!」

「やっぱそれっぽいよね、何だか照れくさいや」


私の隣に並んだギレム兄様がくすくすと喉を鳴らしながら小さく頷く。

二人も、お忙しい合間を縫って避難所にも顔を出してくれていたのだ。

その心遣いへの感謝の気持ちがありありと分かる。


「リーシャお嬢様、もう一枚あるのですよ」

「わっ!今度はどんな絵柄!?」


家令の合図を受け、反対側の回廊からもう一枚の敷布が垂れ下がる。

その一枚はまるで森のようだった。

壮大な白樺の森をモチーフにした縁取りに、美しい湖の青を背負い優美な雪を思わせる穏やかな顔をした白竜が微睡んでいる。

その傍ら、春先の柔らかな緑の草の上で一人の乙女が座っていた。

彼女を取り囲む森の動物たちも、白色だからなんとも玲瓏さがある光景だ。


「わたし?」


穏かに眠る竜を撫でる少女の髪色はシャモア色、瞳の色は深みのある美しい青だ。

顔立ちはどこかギレムお兄様に似ているが伸びた背筋はギランお兄様を思わせた。

とんでもない美麗フィルターがかかっているがどうやら私のようだ。

なんだこの神話ムーブ。

いや、嬉しいが、途轍もなく面映ゆい。


「ふふっ綺麗な構図ね。我が家の専属に呼ぼうかしら」

「実はもう工房に紹介をしてある」

「まあ」


お母様の肩をそっと抱き寄せお父様が誇らしげに笑う。

ああ、なんか自分の知らないところでこんな、嬉しい話が進んでいたのか。

領主一族の一人として出来る事を精一杯やったのが領民に伝わるだけでも嬉しいのに、目に分かる形で、相手を思う気持ちを込めて「ありがとう」を返してもらえるなんて。


「今年の武術大会はこの二枚で充分華やかだな」

「闘技場の入り口に飾りましょう、領民誰もが見れるように」

「そうだな」


財務状況を鑑みれば今年の武術大会の飾りは無かったのだろう。

そんな事、領民は知らないのにね。

嬉しいね、皆で乗り越えた証と想いがいっぱいの、今度こそ楽しく賑やかな祭りだ。


まだまだ私達は復興途中だけど、確実に前へ進んでいる。

だってこんなにも誰かを想える程みんなが優しくなれているんだから。



 やっと落ち着いて来たよと手紙に書き記せたのは初夏が始るかという頃だ。

去年はもう既に双子が来ていた時期だが、やはりストラス家の忙しさを慮ってくれているのだろう、未だに彼等の訪れは無い。


しかし私の手紙が丁度ヴュルテンベルク辺境伯に届いてすぐに出立したのか、夏の盛りが始まる前には元気な彼等と再会する事が叶った。

勿論もう六歳なので挨拶をちゃんとした。

寧ろ、オリアーヌとアロイーズの方が私より先に私達家族へ挨拶した。

こらこらこら家格を考えなさい。

私が!先だぞ!でも可愛いから許しちゃう!

まだまだ私達は甘く見てもらう六歳児です!


「皆が無事でよかった!」

「リーシャ、忙しいのは分かるけど全然手紙くれないんだもん!」

「心配ありがとう、手紙遅れてごめんね」


玄関前で儀式となっている団子になる。

はー落ち着くーこれこれーこのサイズがほぼ同じでまとまる感じ!

魂が今全力で共鳴しているぜ!


「大変だったでしょう?」

「お父様お兄様達がすぐ戻って来たから心強かったし!皆が居たから!」

「リーシャも手伝ったんだ、頑張ったね」

「もう六歳だもん!」


意識年齢は成人な筈なんだけどな。

甘んじて六歳児に褒められようぞ!えへん!頑張りました!


玄関ホールに足を踏み入れたヴュルテンベルク辺境伯家の一行は、未だ下げられたままの見事な刺繍入りの飾り布を目にして口をぽかんと開けたまま固まった。

驚くよねー、どんだけ誇らしいか見せびらかしてるんですよー。

ま!避暑のご挨拶に来た貴族家なんて、融資関係でお世話になった家ばかりで数える程しかいないんですけど!


「これは…壮観ですな」

「領主冥利に尽きるとはこの事でしょうな」

「ふふっ子煩悩の間違いですわ」

「あら、それは夫人もでしょう」


閣下のお言葉に誇らしげに笑っていたお父様をお母様が揶揄う。

それをまた、辺境伯夫人が微笑み、再び見事な飾り布を見上げた。


「すご…え…どうしたのこれ…!」

「わっ!わっ!かっこいい!凄いわっ!!」

「ふふーん!避難所にいる領民が御礼に刺繍してくれたの!」


双子は手を繋ぎながらそれぞれが見たい飾り布に駆け出しては引っ張り合う。

アロイーズは竜伝説、オリアーヌは神話ムーブの方だ。

見事にピタリと同じ力で引き合ったのか、止まった双子の姿に両親達が笑い、お兄様方がそれぞれに付き添って解説をしたり見やすい様に抱えてくれている。

私も順番にそれぞれに付き添い、ここが素敵よね、かっこいいよねと話しをしながら自慢しまくる。

すごいだろー!我が領民の温かい思いやりの心!

お父様やお母様、働くみんなにお兄様方が真摯だからこそだろうね!


そこからはいつものお茶会だ。

しかし今回はギランお兄様もギレムお兄様も閣下とお父様に相席するようで、私達六歳児組はお母様方と一緒に過ごしている。

庭に放ってもよろしいのですよ?木には登りませんから。


「今年はあの見事な飾り布を武術大会にもお出しするのですか?」

「ええ、領民の思いが詰まっておりますから」

「外で見るのも大変見ごたえがありそうですわね。

 今年は私達家族も観覧にお邪魔しようと思っておりますの」


辺境伯夫人の言葉を聞いて私は双子の顔をそれぞれ見る。

二人とも、もの凄いドヤ顔をしていた。

何の表情だそれは。

毎年武術大会に行かず一緒に邸で過ごしている私に対する挑発かね?

悪いが!私は!既に三歳で!武術大会デビュー(勿論観覧)を済ませている!!


でもそうか、双子も見に行くのなら私も見に行けるのかな。

別に武術が危ないから見せないとかそういう方針を我が家がとっている訳ではなく、ただただ領主家族席にしか入れないので三人纏めて連れていけないのでそうなるだけである。

大人の事情である、双子は知らないようだが。

私は意識が成人女性なので分かっている。

え?そうだよね?危なっかしいとかじゃないよね?三歳の時は大人しく見ていた気がするんだけどな。


どうやら辺境伯夫人の話では、ヴュルテンベルク辺境伯の護衛も今回出場するようだ。

この参加表明はとても有難い。

ただでさえ今年は避暑に来る貴族が少ないので、参加者が少ないのだ。

殆ど我が領の護衛や近隣領の人間ばかりになると思っていたところである。


そこに腕自慢の辺境伯領の方が参戦するとなれば会場は沸きそうだ。

少なくとも三歳の時には出場されていた記憶はない。

覚えていないだけかもしれんが。


「じゃあオーリもアロも応援に行くのね!」

「リーシャも応援に行く?連れてってあげるよ?」

「私達の間で応援しましょ!」


両手を左右からそれぞれ握り込まれぎゅっぎゅされる。

知らなかった、幸せの圧力って意外と力強いのだな。


「おほん!私はストラス家として領主一家席で観覧します!」

「えーーーーー!!!!」

「お、お母様っリーシャが他所の子に!」


いや私は元々ストラス家だよ、うちの子になるのはキミ達だ。

私はまだ一度もヴュルテンベルク辺境伯の別荘へ赴いた事も無いんだぞ。


「ラン兄様とレム兄様は仕方ないとして…」

「リーシャは私達と一緒でも良いじゃない…」


可愛いな双子。

ぎゅっぎゅが完全にぎゅーーーーーってなってる。

どんだけ一緒が良いのだ、私も一緒が良いけどな。

だからウチに来るのはオリアーヌとアロイーズの方なんだってば!


「ふふっ、出来るだけ近い席をご用意しておきますわ」

「お気遣いありがとうございます…」


辺境伯夫人の「子供たちの反応を予想はしていたが…」的なちょっとお疲れの表情が愛らしい。

若いお母さんは体力があるだろうけど、双子元気だからね。


きっと我がストラス領の雪崩について彼等が知った時、宥めるのが大変だっただろう。

そういや融資元にヴュルテンベルク辺境伯のお名前が無かったな。

意外、すぐに打診下さるのかと自惚れていたわ。


あっ、そうだ。


「あっ、そうだそうだ」

「?」

「どうしたのリーシャ」

「二人と辺境伯夫人にご相談があるのです」

「私にも?」


何を言い出すのだ、とお母様が少し視線を厳しくする。

やべっ根回し忘れていた。

でも切り出してしまった、するりぺろりと。

ごめんなさいお母様、六歳児になっても物覚えが悪い娘です。


「私のお母様にも初めてお話する事ですので、頭の隅に留めておく程度で構いません」

「ふふ、大丈夫よ、聞きたいわ」

「ありがとうございます。

 実は今年の夏、我が領は災害の影響で観光客が多くありません」

「悲しい事にね」


辺境伯夫人がカップを置き、静かに頷いてみせる。

両隣の双子は何が語られるのか興味深そうに私を見ていた。


「ご存じの通り我が領の収入の殆どは夏の観光で成り立っております。

 このままでは今年の収入は厳しくなるでしょう」

「ではリーシャちゃんはどうしたら今年を乗り越えられると考えているのかしら?」

「はい、夏の間に民芸品を領外へ売り出す販路を確保するのと、冬における外部からの観光誘致です」


切り出した私の提案に、お母様の顔が強張る。

恐らく思っていた以上の内容に、これから辺境伯夫人へ何を言うのか警戒しているのだろう。

流石に、辺境伯領までの販路拡大なぞは依頼しませんよ。


「ここで辺境伯夫人にご相談させて頂きたいのは、冬の観光誘致についてです」

「冬の観光誘致」

「はい、具体的には辺境伯家で支援なされている画家をご紹介頂きたいのです」


そう、去年オリアーヌは自宅で画家の作業を目にする機会があったと話していた。

我がストラス家にはお抱えの画家も、支援している画家も残念ながら居ない。


なんせ毎年、家族の姿を家令が隙間時間で描いてくれるからね!

「老骨の趣味程度ですが」と言いながらも見事なものを描くのだ。

彼の描く家族の表情がとても繊細で優し気で私達は大好きだ!

そりゃ毎日見ているんだからそうなるのかもしれないけど、技術では補えないようなものが一枚一枚に宿っているのを感じるのだ。


そういう訳で我が家には縁がなくとも、ヴュルテンベルク辺境伯家はお持ちかもしれない。

そこを私はご協力願いたいのだ。


「画家を…?」

「出来るなら彫刻家も」

「彫刻家」

「芸術家をお呼びしてどうするのリーシャ」


言葉を重ねる度に言葉が少なくなる辺境伯夫人を見て、ついにお母様が動いた。

全部考えをお話しなさい、という視線はこれまで幾度となく私は見て来たが、双子達はそうではないのだからちょっと押さえて欲しい。

ほら若干吃驚しているじゃないか。


「冬の催しとして街を飾る氷の像、または雪の像を作って頂きたいのです。

 それも一体ではなく複数を街の広場に」


完全に前世の北の地の祭りである。

あれほど見事で大規模なものは難しいだろうけど、まずは広場で様子を見たい。

他には小さいかまくらに灯りを燈すのもいいかもしれない。

それは石造りの闘技場でも使うべきかと考えている。

どちらにせよ、観光地らしく冬の飾りが欲しいのだ。


「白一色は面白くないわ」


意外にも意見を挙げてくれたのはオリアーヌだ。

ありがとう!助かるよぉそういう意見がー!!


「彫刻家は大理石だけであれ程見事な表現が出来るのですもの。

 たとえ白一色、それが氷や雪でもきっと素敵なものを表現してくれるのでは?」

「まぁ石と違って雪なら削り過ぎても戻せるしね」

「でも氷はそうはいかないし、温度によっては溶けてしまう。

 そういう素材の特徴と向き合って考えるのも楽しいでしょう?」


まぁ私は芸術肌じゃないので良く分からないが。

楽しめる視点をなんとなくでも挙げ、寧ろ双子もやりたいと思ってくれれば勝利である。


「それこそオーリやアロは雪人形、作った事ある?」

「私達の領地はそんなに降らないわ」

「そっか。雪人形はね、ガラスで目や鼻を付けるの!

 キラキラしてとても綺麗だし、私はうさぎの人形も作った事あるよ!」


お兄様方には全く伝わらなかった雪ウサギである。

なんか、ただの塊にしかならなかった。


「なにそれ!私も作りたい!!」

「ねっねぇ!雪でドラゴンを作るのは?それこそストラス領っぽいよ!」


よーーーしよしよし!!キミ達最高だぜ!!

この流れで今年は冬まで滞在しような!なっ?!今年来るのが遅かったんだから!

ふははははお母様も流石に予期出来なかったでしょう!すべては此処に帰結するのです!!

私はまだっ双子のストラス家化計画を諦めておりません!!


「成程、それで彫刻家なのね。では画家は?」


少し停止していた辺境伯夫人が復活したようだ。

私は双子とはしゃいでいたのをピタリと止めて背筋を伸ばした。


「はい、画家には冬のストラス領を描いて頂きたいのです」

「それこそ氷像や雪像も入れて?」

「それも良いですが、出来れば雪の中で顔を見せる可愛い家屋が並ぶ街並みですね」


私がお父様と毎年見ているあの街並みだ。

少し高台にある我が家からこその眺めなので、画家は邸に滞在してもらう事になるだろう。

初めて見る光景だろうけれども、きっと彼等の心を掴んでくれる。

私はあの美しい眺めをもっと多くの人に知ってもらい、愛してもらいたいのだ。


そうして「冬もストラスで過ごそうかな」と思う人が来てくれればいい。

社交のある貴族は難しいかもしれないが、引退した世代にはきっと楽しんでもらえる。

なんせ静かだ、雪が音を吸い込む夜の静寂は心を洗う。

暖炉の爆ぜる音だけがする中であの静けさに微睡むのは最高の冬の贅沢である。

あと個人的に冬毛の動物も可愛いのです。

冬だってストラス領は素敵な場所なのです!をアピールしたい。


そんな思いが瞳に出ていたのだろうか、辺境伯夫人もお母様もふっと息を零し目を細めて笑う。

緊張がほどけたのが六歳児達にも良く分かった。


「素敵な光景なのでしょうね、私も見てみたいわ」

「きっと絵画を見たら、肉眼でも見たいと思う程ですよ」

「ふふっ上手ね」

「ご一考頂ければ恐縮です」

「分かりました、夫にも相談してみましょう」


わーーい!突発的だけど結果オーライですなぁ!

だからお母様そんな怖い顔をなさらないで!淑女の仮面が剝がれかけております!




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