第六章 出口
「此処はどこ」
目の前には紫と黒がうねり歪んだ空間が広がっていた。
周りを見渡すが少女はいない。私はすぐにわかった。
ここはさっきまでの場所ではないこと。
歩いても、歩いても景色は変わらない。
「なんなのよ」
すると誰かが歩いてくる。
見覚えのある格好だった。
私はすぐにわかった。
「黒瀨…」
すると本当に黒瀨だった。
黒瀨は私に話しかけてきた。
「マサトという男。知っているか。」
聞き覚えのある名前だった。
でも、何故黒瀨が知っているのか見当もつかない。
思わず聞いてしまった。
「なんでその名前を?」
「やっぱりか」
黒瀨は全てわかったような顔をした。
私には黒瀨が何を考えているのか分からなかった。
「マサトって誰なの?」
私は黒瀨に聞いた。
「お前は本当に何も覚えていないんだな」
黒瀨は呆れた表情と声で言った。
「あなたはマサトを知っているの?」
私は黒瀨を問い詰めた。
「二〇二三年九月二六日…」
黒瀨がその日付を呟く。
そして、黒瀨がすぅっと息を吸い話を始めようとしたとき。
空間中に少女の声が響き渡った。
「ねぇ!起きて!目を覚まして!」
私の身体は汗ばんでいた。
見覚えのある天井。冷たい床。
「だ、大丈夫?」
少女が私に問いかけた。
「大丈夫。」
私は座ったまま、辺りを見回す。
古い雑居ビルの廊下だった。
壁紙はところどころ剥がれ、天井には黒ずんだ染みが広がっている。
まるで何年も放置され、使われていないような見た目をしている。
それから、床には奥にかけて何かを引きずったような跡が残っていた。
奥には、地下へ続く階段が写っていた。
私は既視感を覚えた。
「まさか…」
「もしかして、知ってるの?」
「…黒瀨が病室で最初に見せてきた写真と同じ場所」
「…」
少女は黙り込んだ。
「行こう」
私は少女の手首を優しく掴み、ゆっくりと歩きだした。
地下へ続く階段は、思っていたよりも長かった。
一段、また一段と降りていく。
足音だけが、静かな空間に響いていた。
「ねぇ」
少女が小さな声で話しかけてきた。
「なに?」
「本当に、ここに行くの?」
「どうして?」
少女は答えなかった。
ただ、私の手首を掴む手に力が入った。
階段を降りきると、目の前には古びた鉄の扉があった。
扉の隙間から、微かに光が漏れている。
私はゆっくりと手を伸ばした。
そのときだった。
扉の向こうから、何かを叩く音が聞こえた。
コン、コン、コン。
三回。
私は思わず手を止めた。
「……また?」
少女は私の後ろに隠れるように立っていた。
「開けて」
扉の向こうから声が聞こえた。
聞き覚えのある声だった。私は息を呑んだ。
それは、私自身の声だった。
「誰なの……?」
返事はない。
代わりに、扉の向こうから再び声が聞こえた。
「お前、そこにいるだろ」
私は一歩後ずさった。
その瞬間、少女が私の手を強く引いた。
「開けちゃだめ!」
「どうして?」
「そこにいるのは、あなたじゃない」
少女は震えた声でそう言った。
私は少女の忠告を無視して扉を開けた。
すると、漏れていた光とは裏腹に、床に広がる何かの痕跡。
壁に残された無数の傷。部屋の奥にある無数の刃物。
少女がその光景を見て言葉を失う。
中には地獄絵図のような光景が広がっていた。
私と少女は恐る恐る部屋の中へと入った。
すると、一枚の写真を見つける。
それは少女の顔が写った写真と、私の顔が写った写真だった。
「何よ…これわ…」
恐怖と困惑が混ざり合った。
「だから、言ったでしょ」
少女は初めて会った時と同じ声のトーンでそう言った。
まるで、中に何があるか知っていたかのように。
「ねぇ。知っていたの?」
「なにが?」
「すべてよ!」
私は少し感情的になった。
「知らなかった。ただ…」
少女は言葉を濁した。
「ただ?」
私は続きが気になり少女に問いた。
だが、それ以降少女は口を開いてくれなかった。
私は、ここは現実世界ではないと悟っていたので、抜け出せる手がかりをこの部屋で探した。
だけど、何も見つからない。
急にスマホの画面が光った。スレッドが更新された。
だが、いつものスレッドの様子と違う。
アプリが開かれず、スマホの黒い画面に白文字。
勝手に文字が流れる。
【実況】地下の部屋にいる女について
名無しの観測者:まだそこにいるのか
マサト:写真を見た
名無しの観測者:二人分あるはずだ
マサト:見つけてしまったんだな
バタン。
少女と私がはいって来た扉が勢いよく閉まる。
スレッドの更新は続く。
名無しの観測者:もう戻れない
名無しの観測者:少女の方は何も言っていないのか?
名無しの観測者:知らないふりをしているだけ?
名無しの観測者:この部屋から出してはいけない
マサト:そこにある写真を裏返せ。
名無しの観測者:やめろ
名無し:見るな
マサト:もう遅い。
二人は写真を裏返した。
すると暗かった部屋は写真から出る光に包まれた。




