第七章 ≠真実
次に私が目を開けると
そこは、白いっぱいの空間だった。
「ここは…天国?私、死んだの?」
私は独りぼやく。
すると、目の前に1つの映像が映し出される。
映像はホログラムの様に半透明で不思議な感覚になった。
私はじっとその映像を見つめる。
そこに映し出されていたのは、最初に病室の扉を抜けた
先の不思議な校舎とよく似た教室だった。
映像のカメラ位置は、教室の天井端に設置されていて隠し撮りしているような映像。
映像の中には、中学生のような少年少女が好きな場所に立ち、好きなように会話をする。まさに、休憩時間のような一コマだった。
そこに、一人の少女が教室に入ってくる。
見覚えのある少女だった。
そう、その少女はさっきまで一緒に居た少女であった。
服装こそ違うが、はっきりとわかった。
少女は自分の席の前で一度立ち止まる。
映像のカメラが少女の机をズームする。
そこには、「キモイ」「ブス」「調子乗るな」と非人道的罵声の言葉が掛かれていた。
そして、机の上にはまだろ過していない赤い絵の具が、誰かの手により塗られた。
そこに、私が教室に入ってくる。
映像には音声があった。
「大丈夫?保健室に行っておいで。」
映像の中の私は少女にそう言った。
少女は教室から走り去っていった。
映像の中の私は、何もなかったかのように授業を始める様子が写っていた。
そこで、映像は止まった。
私は、想い出した。
「そっか。私…」
そう、全てを語らなくても全てがわかってしまった。
この場所に来るまでに見てきた光景がすべてを語っていたからだ。
『先生、先生!』
白い空間に響き渡る。
次の瞬間『明音先生!』と響く。
私が、瞬きをすると場面は変わり学校の屋上のような場所に居た。
眩しい茜色の夕陽をバックに後ろに腕を組み制服姿の誰かが立っていた。
私はすかさず声をかけた。
「あなたの名前は?」
その人は振り向いた。
その顔は、馴染みのある顔だった。
そうだ、ここまでずっと一緒に時を過ごしてきた少女の顔だった。
唇が震えた。少しずつ涙がぽろぽろと溢れた。
「あの…そ、その…ご…ごめんなさい。」
私の口が勝手に開き少女へ放っていた。
それは、呪物や恐怖、奇妙な力ではない。
自然に私の心から溢れ出した言葉だった。
少女。いや。彼女は私にこう言った。
「気づくのが遅いよ。先生。」
彼女の顔を見ると、ぽたぽたと涙の粒が頬を伝い垂れていた。
夕日に照らされていてとても輝いていた。
「私は、結奈だよ!」
その声が響いた瞬間、視界が真っ白に染まった。
夕陽も、屋上も、結奈の姿も消えていく。
「結奈……」
私は、その名前を口にした。
次の瞬間。
目を開けると、そこは見覚えのある場所だった。
白い天井。消毒液の匂い。
規則正しく聞こえる機械音。
「ここは……」
そこは、あの病院だった。
私は手を動かした。前回と違い動いた。
点滴の針が刺さっている。
頭が痛い。けれど、記憶は戻っていた。
名前。家族。仕事。
そして、あの日のこと。
私は、自分の名前を思い出した。
明音。私は、涙を流した。
「……明音」
誰かが、私の名前を呼んだ。
私は顔を上げた。
隣のベッドに、少女がいた。
結奈だった。生きている。
彼女は、私を見つめていた。
「……結奈?」
結奈は、小さく頷いた。
私は、言葉を失った。
そのとき、病室の扉が開いた。
黒いスーツの男が入ってきた。
黒瀬だった。私は彼を見た。
「……黒瀬さん」
黒瀬は、静かに頷いた。
「目が覚めたか」
「ここは……」
「病院だ」
私は、窓の外を見た。
夕焼けが広がっている。
「……今日は、何日ですか?」
黒瀬は答えた。
「二〇二三年九月二六日」
二〇二三年。
あの日。あの事件が起きた日。
私は、結奈を見た。
彼女は生きている。私の隣で。
「……どうして?」
黒瀬は、椅子に座った。
「お前たちは、監禁されたんだよ。俺が、お前たちを見つけた。」
そこで、黒瀨の存在。あの場所の存在の意味。
『戻るな』という黒瀨の言葉。すべてが繋がった。
あれは、私を救うための言葉だった。
しばらくして、私は面会室に行った。
黒瀨が座っていた。私も目の前に座る。
「……結奈は」
黒瀬は、しばらく黙っていた。
「お前が見たものと、実際に起きたことが違っていたんだろう」
私は、涙を拭った。
「……そうですね」
そのとき、面会室のテレビに夕方のニュースが流れた。
『本日、赤石正人容疑者、二十六歳が、未成年者二名に対する誘拐未遂の疑いで逮捕されました』
画面に、男の顔が映った。
もしかして、あの掲示板のマサト。あのメッセージを送ってきた男。
テレビの中の男は、妙にカメラ目線で不気味な笑みを浮かべていた。
私は画面を見つめた。
「……あの人」
黒瀬は、テレビを消した。
「今は、考えなくていい」
私は頷いた。
けれど、胸の奥には、まだ何かが残っていた。
あの暗闇。あの学校。あの出席簿。
そして、siesta。私は、スマートフォンを探した。
黒瀨が差し出す。
「返すのを忘れていた。悪いな。」
「はい。」
画面は消えている。
私は電源を入れた。何も表示されない。
アプリもない。掲示板もない。
私は、ほっと息を吐いた。
そのとき、面会室に結奈が、ゆっくりと入ってきた。
私は顔を上げた。
「……結奈?」
彼女は、私の前に立った。
そして、静かに言った。
「終わってないよ」
結奈は、私のスマートフォンを見た。
画面が、白く光った。
そこに、文字が浮かんでいた。
siesta
私は、指を動かせなかった。
画面の下に、新しい通知が表示された。
『次は、あなたの番です。』
結奈は、私を見つめていた。
そして。小さく笑った。




