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第9話『キミがいなければ』




「わたしは死のうとしてました」




 既に彼女から、笑顔は消えていた。



「なんで……」


 別に、誤魔化せばいいのに……


「なんで、正直に答えるんだよ」



 僕の質問なんかいくらでも誤魔化せただろう?


 すると、彼女は無表情のままつぶやいた。



「帰りたくないんです」

「それは……」



 死のうとしていた。と言うくらいだ。


 もしかしたら、何か家庭の問題があるのかもしれない。



「何かその……家に問題があるとか?」

「いいえ」


「じゃあ、それとも……家族?」

「いいえ」



 しかし、僕の懸念を彼女は否定した。



「別に、ごくごく普通の家です」

「じゃあ、一体何が原因で……」


「原因なんて無いんです」



 ……は?



「わたしは……」



 彼女は言った『帰りたくない』と……


 そして――



「ただの死にたい女の子なんです」



 ただ、死にたいだけだと……



「……ダメですか?」

「ダメと言うか……」



 一体ここは何て答えるのが正解なのだろう?


 ……じゃあ、家来る?




 ――いやいや、一番ダメだなこれ!?!?!?



 ここでそんなこと言った日には弱った女の子を、自分の家にお持ち帰りしようとする最低野郎の爆誕じゃないか!



「とりあえず、僕の家は姉がいるからダメだし……」

「えっと……」



 すると、僕の言葉を聞いて彼女が質問をした。



「お姉さんがいなかったら、いいんですか?」

「…………」



 うーーーーーーーーーーんんんん?????????



「別に、わたしはお姉さんがいても大丈夫……ですよ?」

「そ、それは……」



 一体、どういう意味なのかなぁぁあああああ!?!?!??!?!?!?



「いやいやいやいや‼ ……てか、僕が嫌なんだよ!?」

「何で……ですか?」


「…………」



 ナナナナナナ、ナンデ……か、かなぁ~~っっっ!?!?!?



「と、とにかく……家はもう猫と姉で予約が一杯なんだよ」

「うぅ……」



 すると、彼女は突然僕の胸元に抱きついてきた。



「なら、このまま抱きしめてください」

「はぇ!?」


 なんだなんだ!? 

 急に人が変わったかのように我儘を言い出すじゃないか!?


 普通なら、付き合ってもいない異性を抱きしめるとかありえないけど……



 でも、死ぬつもりだったとか言ってたしなぁ……



「……わかった」


 そして、そっと僕は彼女の身体を抱きしめた。


「……あぅ」

「…………」


 体が熱い……。そして、やわらかい。

 夜なのに、彼女の身体から予想以上の熱が僕の手を介して伝わって来る。


 すると、今度は彼女が僕の身体を強く抱きしめ返してきた。


「はうぅ~」

「お、おう……」


 思ったより激しく抱きしめ返して来たな……


 そう思ったら、その熱を吐き出すかのように彼女がつぶやいた。



「やっぱり、帰りたくないです……」

「…………」



 ――そ、そんなこと……言うなよぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 いや、別にやましい気持ちで言っているとかじゃないんだけど……これで、姉が来ていなかったら――




『じゃあ、猫もいるし……今日はウチに泊まる?』



 ――って、言えるよ!!


 しかし、今日に限っては駄目だ……



「ご、ゴメン……っ!」



 ……何でアイツ(姉)が今日に限っているんだよぉおおおおおおおおおおおおお!

 いやいや、別に姉がいなくても――



「本当に……ダメですか……?」

「…………」



 マ・ジ・で……っ!!!


 アイツ()が、いなかったらなぁあああああああああああああああああああああっっっ!!



「……ごめん」

「うぅ~っ!」


 抱きしめる力が強いって! 痛いって!

 だから、ゴメンって!!



 てか……なんか、性格変わってない?



「そのかわり、明日もあるから……」

「本当……ですか?」


「明日は子猫を飼ってくれる人を探すんだろ……」

「あ! そうでした……」



 いや、そうでした……。じゃねぇよ!

 あれだけ猫の心配しておいて忘れていたのか……



「じゃあ、連絡先を教えてください!」

「お、おう……」



 そう言うと、彼女がようやく僕を開放してくれたので、アプリで連絡先を交換した。


 交換した瞬間に可愛らしいスタンプが送られている。


 この笑顔が、まるでさっきまで死のうと思っていた少女と同じとは到底思えないな……。



「や、約束ですよ……?」

「うん……」



 どうやら、僕がひろったものは予想以上に重かったらしい……。





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